ヒメヤマモモ 姫山桃
Morella nana Lour. (1790)
← Myrica nana A. Chev. (1901)
← Morella nana Lour. (1790)
科 名 : ヤマモモ科 Myricaceae
属 名 : 新ヤマモモ属 Morella Lour. (1790)
異 名: Myrica nana A. Chev. (1901)
中国名: 雲南楊梅 yun nan yang mei
英語名: yun nan yang mei
原産地 : 中国 ・ 雲南省 ・ 貴州省、 
日本、台湾、南韓国、 フィリピン
用 途 : 特になし
撮影地 : 中国

中国雲南省 楚雄近郊の「紫渓山」自然保護区で見たもの。
遊歩道横の土手に生えていた。

樹 形
低木で、高さは 30cm。

葉 と 実 の様子
葉の大きさは 約 4cm。 小さな鋸歯が先の方だけに数個ある。

実の大きさは 直径 2cm強。 中には核がある。
雌雄異株なので、この木は雌株となる。

名前の由来 ヒメヤマモモ Morella nana

ヒメヤマモモ
 : 小型のヤマモモ の意味
ヤマモモは常緑高木で、大きくなると高さ15m、太さ1mにもなるという。
 
種小名 nana : 「矮小な、低い」という意味。
今はやりの「nanoテクノロジー」も同じ語源である。
 
Morella 属 : 「クワ」に由来する
ギリシア語の 「moron 桑」 が語源で、ヤマモモの実が クワの実に似ている所から。
 
ヤマモモ科 Myricaceae :
後日。
 
ヒメヤマモモ
  ← ヤマモモ Morella rubra Lour. (1790)
ゴルフ場に植えられた ヤマモモ
ゴルフ場に植えられたもの。 高さ 4〜5 m。
 
ヤマモモの 雄花 日比谷公園

 
たわわに生る実 バナナワニ園

常緑樹・雌雄異株で、建物の外構、庭・公園に植えられ、街路樹にも使われる。
果実は甘酸っぱく、そのまま食べたり、ジャム・果実酒・ワインなどに加工される。 最近では実が大きい園芸品種が植木屋でも売られている。

名前の由来は、「山に生え、モモに似た(味の)実がなるため」といわれるが、現在の「モモ」とは、全く違う実である。

「モモ」のもともとの言葉の意味は、単に「丸い果実」のことである。その意味で、ヤマモモは丸くて中にタネがあるということでモモと言える。

中国 大理 物売りのヤマモモ

ヤマモモは日本に自生しており、一方 モモは中国から渡来したもので、当初にはケモモ(毛桃)と呼ばれていた。
「ケ・モモ」と呼ばれていたという事は、日本にすでに別の「モモ」が存在していたことを示している。
毛モモ
その古代の「モモ」こそ現在の「ヤマモモ」である、というのが『植物の名前の話』の著者 前川文夫氏の考えである。
モモの実の方が大きくておいしいために次第に主流となり、呼び名も「ケモモ」から単に「モモ」となっていった。
そこで「もともとのモモ」に別の名が必要となり、ヤマモモの中国名である「楊梅」の読み、「ヤンメイ」に「モモ」を付けて「ヤンメイ-モモ」としたのが短くなって、「ヤマモモ」となった、という説を前川氏が述べている。

  日本古来の モモ →→→→→ ヤンメイ-モモ → ヤマモモ
  中国から  ケモモ → モモ となる

前川氏の考えは理論的である。 時代はわからないが、日本に渡来していた中国人がヤマモモの事を「ヤンメイ」と呼んだり、本草学者?が中国名を知っていて、「ヤンメイ-モモ」と名付けた可能性はあるだろう。
「ヤンメ」と呼ぶ地方もある。

しかし私は、単純に「ヤマ 山」を付けたのではないかと思う。

ヤマモモは日本に自生し、昔からモモと呼んで栽培もされてきた果樹である。 庶民からすれば、日本の「モモ」に何かを付け加えて、中国渡来の「モモ」と区別しようとする時に、裏山に生えている木が中国にも自生していることなど、意識するでだろうか....。


ヤマモモの分類について
ヤマモモ科は約30種の小さい科である。 長い間 3つの属に分けられるとされ、基準属の Myrica属に多くの種が分類されて ヤマモモもはいっていた。

最近は、以前から定義されていた4つ目の属 Morella 属が「復活」し、むしろ Myrica 属は2種だけ、という考え方が出ている。

ヤマモモは 通常の事典ではこれまでの分類に従った Myrica rubra Sieb. et Zucc. (1846) と表記されている。

じつは小石川植物園には ヤマモモがあるだけでなく、ヒメヤマモモも 分類標本園に植えられていて、 Myrica nana となっている。

ヒメヤマモモ 小石川植物園

今回 掲載するにあたって、最近まず参考にしている 『 Mabbrley's Plant-Book 』 を見て、分類の変化に気が付いた。
アメリカ合衆国農務省のデータベース『 GRIN 』も、これを採用しているため、ヒメヤマモモ、ヤマモモの分類を Morella属とした。


両属の命名の経緯
年号 和名 学名 命名者 備考
1735  ヤマモモ属  Myrica  Linne  ヤマモモ属
1790  モレラ属  Morella  Loureiro  和名:新ヤマモモ属(仮称)
1790    ヤマモモ  Morella rubra  Loureiro  現在は 正名として復活
1846    ヤマモモ  Myrica rubra  Sieb. & Zucc.  150年間採用されていた
1901    ヒメヤマモモ  Myrica nana  A. Chev.  現在は 異名となる
2005    ヒメヤマモモ  Morella nana  J. Herb.  現在の正名

通常は、新しい名前が認められると 過去の名前が「異名」となる。

ヤマモモは、一度 異名となって、約150年後に復活するという 希なケースである。
 
 トピックス

 雌雄異株
名前の由来とは関係のない話題をひとつ。
 
ヤマモモは街路樹に使われる時は「雄株」だけが植えられる。ところが旧 浦和市で、一本だけ間違えて「雌株」のヤマモモが植えられているのを見かけたことがある。
 
街路樹ナンバー・ワンはイチョウであるが、イチョウも雌株は銀杏(ギンナン) が落下して道路を汚し、臭いもするために、植えられるのはやはり雄株だけである。
 
ヤマモモはイチョウ程ひどくはないが、写真のように、車道・歩道共に小さい実が一面に落ちていた。
素人にとっては、花や実のなっていないヤマモモの、雄株と雌株を区別するのは不可能だが、これは 植木屋 (造園会社)の「ミス」である。
 
現在は雄株に植え替えられてしまった。

ヤマモモの街路樹の中で一本だけが雌株


歩道に落ちた実

なお イチョウについても、雌株が街路樹に使われて迷惑をかけている例がたくさんある。 白山通り、霞ヶ関あたりで何本も見かけている。

歩道・車道に落ちた ギンナン

参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
        雲南天然薬物図鑑/雲南出版集団公司
        Mabbrley's Plant-Book/G.J.Mabberley
        GRIN Taxonomy for Plants/アメリカ合衆国農務省
世界の植物 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ