オウギバショウ 扇芭蕉
Ravenala madagascariensis J.F.Gmel. (1791)
別 名 : タビビトノキ
科 名 : ゴクラクチョウカ科 Strelitziaceae
 または ストレリチア科
属 名 : オウギバショウ属
   Ravenala Adans. (1763)
英語名 : traveler's parm traveler's tree
原産地 : マダガスカル
用 途 : 熱帯各地に、観賞用として植えられる
撮影地 : セネガル , ドミニカ共和国
タイ 、日本 温室

ダカール市内の大きなホテルの一つ、「ノボテル」の入り口前庭に植えられていたもの。
 
高さは10m近い 白い花 ?

 

樹形は全く違うが、確かに花の形はストレリチア(極楽鳥花)に似ている。色は白ということであるが、すでに咲き終わって、枯れて茶色になつているようだ。
 
エングラーの分類体系では、本種はバショウ科となる。
 
枝分かれはせず、直立して20mにもなるという。
日本でもよく温室で見かけるが、すでに大きくなっているものが多く、「扇バショウ」の名前に納得する形である。
ドミニカ共和国のサント・ドミンゴ植物園では、まだ幹のない、扇が地面に埋まったようなものや「小さな」オウギバショウを見かけた。
 
幼 形 短い幹

 

これはもしかすると近縁の「ギアナタビビトノキ」かも知れない。
 
タイ・チェンマイのシリキット王女植物園には、すばらしいゲストハウス(宿泊施設) がある。その名も 「Botanic Resort」

そのプールがある庭にオウギバショウが植えられており、古い花序が残っていた。

タネがきれいなことは本で知っていたが、ようやく実物を見ることができた。
タイで見たオウギバショウ

 
新しくできた実。まだ黄緑色 熟して割れた実

 


果実は3つに割れて反り返っている。
ものすごく硬くて、動かそうとしてもビクともしない。

3室の子房に青いものが並んでいるが、大きな種子は、各室に1つか2つしかできていなかった。

青い薄皮は半透明で、ほぼ 種子全体をくるんでいる。
その真っ青な色は、そう言っては申し訳ないが人工的な印象さえ受ける。
 

 
ヒマラヤの青いケシなど、花ではいくつかこれに近い青を見たことがあるが、種子をまとう皮がなぜこんなに青いのか?
 
アオカズラ
青い果実としては、日本原産でアワブキ科の「アオカズラ」がある。

本来は2つの果実がペアに生るのであるが、1しかないことも多い。

半透明なところも、よく似た色である。

 
小石川植物園
 
名前の由来 オウギバショウ Ravenala madagascariensis

オウギバショウ : 扇型をしたバショウの意味。
葉がバショウに似ており、全体の形が開いた扇に似ているため。
オウギバショウの葉は5mにもなるが、半分をしめる葉柄(ヨウヘイ)が扇の「骨」に相当して、ピッタリの命名である。

なお、 扇子(センス)と扇(オウギ)は同じものを指す。
吉田石堂 美術館の
ホームページより

別名 タビビトノキ 旅人の木
事典では「タビビトノキ」を和名とし、「オウギバショウ」を別名としているものが多いが、私はこの名前に非常に違和感を覚えることと、タビビトノキの根拠がなさそうなので、敢えてこれを別名とした。

「タビビトノキ」は日本で名付けられたものではなく、英語名「traveler's tree 」を和訳したものである。

その由来は、喉が渇いた旅人が 葉の根元に溜まった水を飲むところから といわれている。

朝日百科『植物の世界』によると、「その水は雨水が溜まったものであるため、出ないときや、泥水が少し出るだけの場合もある。
タビビトノキは水辺に生えるのが普通で、旅人がわざわざこの木から水を飲むという説は疑わしい。」 とある。

また、葉が一定の方向を指して方角がわかるという説も間違いだそうで、「旅人のための木」は現実に即したものではなく、戯れに付けた名前のようである。
 
種小名 madagascariensis : マダガスカルの という意味
オウギバショウはマダガスカル島特産で、ひとつの属に一種のみ。
近縁の「ギアナタビビトノキ」を同じ属とする考えもある。
 
Ravenala タビビトノキ属 :  または オウギバショウ属
ラテン語では「ラウェナラ」、英語読みすると「ラベナラ」は、原産地マダガスカル語で「森の葉」という意味である。(『植物の世界』)
 
ゴクラクチョウカ 科 (極楽鳥花科) Strelitziaceae :
3属7種の小さな科である。
代表は ゴクラクチョウカ Strelitzia reginae Ait. (1789)

英語名は bird-of-paradise, bird-of-paradise flower, queen's bird-of-paradise などであり、オレンジ色の外花被片(萼片)が直立するゴクラクチョウカの花が、パプアニューギニアの国鳥ともなっている、ゴクラクチョウ(bird-of-paradise) の頭に似ている、あるいは翼をひろげているようなイメージから名付けられた。

和名は bird-of-paradise flower を訳したものである。
ゴクラクチョウカ


 
高知県立牧野植物園
温室の入り口(外部)
 
ゴクラクチョウ
"Global technologies による
the Rainforest Habitat の
ホームページ から
 

 
Strelitziaceae : シュトレリッツ家 にちなむ
ゴクラクチョウカの発見者は、イギリス国王ジョージ三世が派遣したプラントハンター、フランシス・マッソン(1741-1805)である。
1773年に南アフリカ喜望峰で発見されたものがヨーロッパに送られ、ウィリアム・エイトンによって命名された学名 Strelitzia regina は、ジョージ三世のお妃 シャルロッテに捧げられた。

すなわち、属名Strelitzia はシャルロッテの生家「シュトレリッツ家」にちなんだものであり、種小名reginae は「女王の」という意味である。
 
 
オウギバショウ ←
 バショウ (芭蕉) : Musa basjoo Siebold et Zucc.(1830)
バショウ科バショウ属。

平安時代には渡来していたと考えられており、シーボルトが basjoo という学名を付けたために、英語名はJapanese banana と呼ばれている。
原産地は中国のようである。
「バショウ」は漢名「芭蕉」の音読みであるが、事典には「芭蕉」の意味そのものの解説はない。
漢和辞典を引くと、「蕉」にはやつれるという意味があり、バショウの葉が破れやすいことと関係がありそうだ。
バショウの姿 約3.5m バショウの花序

小石川植物園 5月下旬。
バショウの花は、雄花と雌花が別。
黄色い楕円形が雄花とそれを包む包(ホウ)。その上部に小さなバナナに似た果実がなっているが、どの事典にも「バショウの実はタネが多くて食べられない。」と書かれている。

ところが、である。

熱川バナナワニ園の清水さんの報告 (同園友の会会報) によると、完熟すれば食べられるそうで、味もまずますとか・・・。

 
 トピックス 1

バショウの年輪 ?
バショウは多年草ではあるが、オウギバショウと違って茎が木質化することはない。 もちろん年輪があるわけもない。
バショウの茎の断面
2006年の暮れ、小石川植物園入口近くのバショウ群は、数本を残して 根元からバッサリと切られた。

その断面は、ネギやタマネギと同じ理屈なのだが、まるで「年輪」のように見えた。

その中で、花を咲かせた株は中央に太い「花茎」が残っていた。

上の写真「バショウの花序」が、地中から伸びてきた証拠である。
 

 
大きな面積を占める「花茎」 花の咲かなかった株

 
 

2007年春、なかなか新しい芽が出てこないと思っていたところ、2週間行かなかったあいだに変化が起きていた。
バショウの新芽  2007年5月19日
もとの株の中央から新芽がニョッキリ。
しかし、昨年花茎が伸びた株からは芽が出てきていない。
 
 トピックス 2

色とりどりの バショウ科
「バショウ」は東京でも路地で越冬するが、熱帯性の種の多くはは温室で栽培される。
バショウ科の花そのものは目立たないが、苞の色が様々で美しいので紹介したい。

まず 極めつけはピンク色の美しいバショウ。
 

バラバショウ (仮名) : Musa ornata Roxb. (1824)
 
京都府立植物園 温室 2007.5.13
この色の取り合わせ! あまりの美しさに、しばし見とれていた。

バショウ類の花序は茎の上部から出てきたあとに、下向きに垂れ下がることが多いが、このバショウは実が大きくならないのか、直立したままである。

咲いているのは雌花が退化した雄花群で、雌花は咲き終わって下の方に短い実が生っている。
 

なお 名札には「Musa rosacea Jacq.」とあったが、どうも 間違いのようだ。
和名がなかったので、名札の種小名 rosacea の意をくんで「バラバショウ」とした。
色がピッタリだったためである。
 

バナナ Musa acuminata Colla の一品種
京都府立植物園 温室 2007.5.13
世界中で様々な種が食用バナナとして栽培されているが、acuminata の系統が一番多いようだ。
茎(疑茎)が黒くなる特徴がある。
房の重さに耐える花茎の太さは、4cmぐらい。
 

センナリバナナ Musa chiliocarpa Backer ex. K. Heyne (1922)

 

前出の Musa acuminata の特異な1型 ということであるが、次から次へと雌花が咲いて、小型の果実がたくさん付いている。
 
粉をふいたような苞の表面とは違い、内側のつややかな赤紫色が美しい。
伊豆熱川バナナワニ園 温室
2006.11.4
 

フイリバナナ Musa×paradisiaca Linn. 'Koae'
花は終わっていたが....。
伊豆熱川バナナワニ園 2006.11.4
バナナワニ園"秘蔵"の「フイリバナナ」。なにしろ、ハワイの王族しか食べられなかった門外不出のバナナである。
葉の「斑」も美しいが、果実にまで縞模様がはいるところがポイント。

そして「最高に美味」だとか....。
 
Musa cv. ' Pisang Seribu '
濃い緋色の苞に包まれた雄花群。

 
奄美大島 奄美アイランド植物園 2007.4.9
実の様子はセンナリバナナと同じような感じ。
 
並んでいる雄花の説明 :
黄色いのが花被片で、3枚のがくと2枚の花弁が合着したものが雄しべを囲んでいる。さらにもう1枚が内側にあるそうだ。
 
右の写真は、その花被片を持ち上げて開いた状態にした。
5本の緋色の雄しべの中央に白い雌しべが見えるが、子房は退化している。
 

チヨウキンレン Musella lasiocarpa C. Y. Wu (1978)
小石川植物園 左2004.9.11 右2007.5.19
中国南部原産で中国名は「地湧金蓮」ということなので、「チユウキンレン」が「チヨウキンレン」に訛ったものと思われる。
「地面から湧きだした金色の蓮の花」ということ。
 
茎の高さは 60cm ぐらいしかなく、葉をいれても高さ 1.5mぐらい。
近年、近縁のエンセテ属から、一種のみで独立した属とされた。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        図説 花と樹の大事典/植物文化研究会 編
世界の植物 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ