シェービング・ブラシノキ
髭剃りブラシの木
Pseudobombax ellipticum Dugand (1943)
← Bombax ellipticum H., B. & K. (1821)
科 名 : バンヤ科 Bombacaceae
属 名 : パンヤモドキ属 (仮名)
  Pseudobombax Dugand (1943)
英語名 : shaving brush tree
原産地 : メキシコからグアテマラ
用 途 : 鑑賞樹
撮影地: ドミニカ共和国 、シンガポール

通いなれた植物園の場合は、1年に何度も同じ木をながめるので問題ないが、出張先で1日だけ訪れる場合に初めて目にする木、しかも名札がないとなると、以前に別の場所で見たことに気がつかないことがある。

さらに季節によっては落葉していたり、葉だけで、特徴を示す花や実がないことも多い。
 
シンガポールの木 高さ約 3m

 
また、管理者の見解で「名札」の学名が、ほかの植物園や事典のものと違っていることもある。

この木の名札は Bombax ellipticum となっていたが、どうやら Pseudobombax ellipticum と同じもののようだ。
 

 
ドミニカのシェービング・ブラシの木 高さ約 4m

この木は乾期の終わり、葉が出てくる前に花を咲かせる。
花が開く時間はわからないが、昼前には、あらかたの花が落ちてしまう。
もしかすると、コウモリが飛び交う夜に咲くのかも知れない。

サントドミンゴの植物園には名札がないが、「遊覧トレイン」(有料) が
園内を一周しており、スペイン語と必要に応じて英語の解説がある。

1日目にまずトレインに乗った。
案内の途中で満開のピンクの花をトレインから眺め、後でゆっくり撮影しようとほかで時間をかけていたところ、「確かこのあたり」と思しき場所にピンクの花が見あたらない!
午後1時近くであったが、とっくに花が落ちてしまっていたのである。
 
落ちてしまった花 (夕方の状態)

次の回は「早めに」と思いながらも、ついつい時間を取られて11時過ぎに辿り着いたところ、やはりかなりの花が落ちていた。

3回目にして なんとか「満開の」木を撮ることができた。
 
新葉 シンガポールの葉

 
枝振り 幹は緑色が残る

 
生え際 シンガポールの根元
地際から枝分かれする性質があるようだが、ドミニカのものは落ち葉に埋もれて、寄せ植えのようにも見える。
シンガポール植物園の方は、葉の色で写真全体が緑がかっている。

萼?から頭を出したつぼみが、ドングリのような状態からぐんぐんと細長く伸びてくる。
開花前の薄茶色の花びらは艶があり、まるで磨いた革製品のようだ。
 

開花前日にはバックスキンのような、毛羽立った感じになる。
そして開くと、花弁は くるくるり と反転する。
 
『朝日新聞社/植物の世界』にはピンクの花ではなく、白くて、雄しべがあまり開いていない、この花よりも「髭剃りブラシ」の形に近い写真が載っていた。

ピンクでも種は区別されていない。
 
落ちた花

 
 
落ちても花びらは丸まったままだが、翌日?になると 雄しべの色は濃くなり、花弁も萎れて伸びてしまう。 花弁が開くのは、内側の細胞が大きくなるためだから、水分がなくなって、元の状態になったのであろう。
 

広島植物園の温室で、『朝日百科/植物の世界』に載っていた「白花種」を見かけたが、花は逆光の状態でしか撮れなかった。

この木も、白いひび割れが美しい幹をしていた。
 
白花の プセウド・ボンバックス

 
名前の由来 シェービング・ブラシノキ Pseudobombax ellipticum

和名: シェービング・ブラシノキ (仮名)
由来の説明は不要。

英語名そのままであるが、ヒゲソリブラシノキ(髭剃りブラシ)とするよりも、いいのではないだろうか。

電気カミソリの普及で、大人になっても自分では使ったことがなく、床屋でお世話になるだけである。
高級品は、1本 40,000円もするものがある。
 
種小名 ellipticum : 楕円の という意味
当初の命名は Humboldt, Bonpl, Kunth の3名共同の著作である。
ひとり目の Alexander von Humboldt は、南米の探検で有名な地理学者フンボルト (1769-1859) 。

彼らは本種を Bombax属 キワタノキ属として分類した。
キワタノキ属の多くの葉は、細長くて先が尖っているものが多いのに対して、この木の葉は先の丸い楕円形であるために名付けたものである。

本種のタネにも「ワタ」が付くのかどうかは、未確認である。
 
キワタモドキの葉 インドキワタ (Bombax属)

Pseudobombax
属 キワタモドキ属 (仮名) :
このホームページで初めて取り上げる「Pseudo-種」である。
pseudo は「偽の」という意味で、学名のときは「プセウド」と言っている。 英語の発音は「プシュードゥ」で同じ意味である。
 
私が植物名に興味を持ったのも、「ニセアカシア」 Robinia pseudo-acacia がきっかけだった。
「なぜリンネはニセアカシアという名前を採用したのか?」という疑問である。

自然界の植物に「にせもの」などは無い。

偽アカシアの場合も、学名には pseudo が付いてしまっているが、和名は「ハリエンジュ」であり、ニセアカシアはあくまで「別名」である。

新種に種小名を付けるときに、その種の特徴を表す「形容詞」を付けるのが理想だが、これまでに知られている種に似ている場合に、安易に pseudo- を付けて「〜に似ている」という意味で使われるケースが多く、「偽物」の氾濫となっている。

そして種小名だけでなく、本属のように Pseudo の付いた属名も数限りない。 Index kewensis によると、1997年までに名付けられた Pseudo-属は、異名(正式ではない名前)を含めてではあるが、 347属もある!!

和名では「ニセ〜」「〜モドキ」「イヌ〜」が当てられるが、「イヌ」は「本家よりも劣っている」という意味が込められるので、単に似ているとは少しニュアンスが違ってしまう。

そこで今回も Bombax属に似ている という意味で、キワタモドキという仮名とした。

本属に関しては事典の記載内容が少ないが、キワタモドキ属のこのブラシ状の無数の雄しべは、キワタノキ属の2重になっている雄しべの構造とは違うことは、はっきりしている。

そして、本種と「インドキワタ」(インドワタノキ)を較べた限りではあるが、あまり共通点が無いように見える。 つまり、Pseudo- と名付ける根拠が乏しく、これも安易に BombaxPseudo を付けただけではないだろうか。

属名の命名者はコロンビア生まれの Dugrand Armand (1906-1971) であり、命名はつい最近のことである。

Pseudobombax属
  ← Bombax属 : キワタノキ属 Linn. (1735)
「キワタ ・木綿」の名は、綿の生る木 の意味である。
そして Bombax は、「ワタ」のギリシア名に由来している。
 
パンヤ科(キワタ科) Bombacaceae : 絹の糸 の意
ワタのなる木ということから、キワタ科とも呼ばれる。
分類学上も「ワタ」の属する「アオイ科」に近い。

熱帯に分布し、果実や種子を食用にしたり、果実の毛を綿のように利用したりと、有用種が多い。

30属約250種があるという。
代表的な属は、バオバブノキ属、キワタノキ属、トックリキワタ属、パンヤノキ属、ドリアン属、バルサ属、パキラ属など。

多くの属で、種子に長い繊維が付いているものがあって、別の種が同じ名前で呼ばれたりして混乱がある。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
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