パラミツ 波羅蜜
Artocarpus heterophyllus Lam. (1789)

 
科 名 : クワ科 Moraceae
属 名 : パンノキ属  Artocarpus  nom. cons.
J.R. Forst. & G. Forst. (1775)
別 名 : ナガミパンノキ
英 名 : jackfruit , jack
中国名: 菠夢蜜、牛肚子果 niu du zi guo
原産地 : インド西部 ガーツ地方といわれる
すでに紀元100年にはヨーロッパで知られていた
用 途 : 熟した果実の仮種皮を生で食用とする。
未熟果実は野菜として、種子は炒って食べられる。 
成長が早いので茶などの緑陰樹とされ、材は家具や薪炭材に。
材のチップは東南アジアで仏教との衣を染める染料として使われる。
撮影地 : 中国 、日本 温室

日本ではパンノキとともに、よく温室で栽培されている。

栽培は熱帯低地が適しているが、高地でも可能ということで、木に生っているのを見たのは、中国雲南省最西部のミャンマーに近い地方都市、盈江(インジャン)である。

インジャンが属す徳宏県は 亜熱帯気候であるが、年平均気温が18〜20度、夏に酷暑はなく、冬は寒くない上に年間を通じて雨が多い、とパラミツの生育にも適している。
 
高さ 約14mの木
寺の敷地が公園のようになっており、何本ものパラミツが植えられていた。 幹にはいやというほどの実が生っている。
 
撮影:熱川バナナワニ園 清水 秀男氏

樹形 (幼木) 右の木の 幹
高さ6mぐらい。実は無し。
 
太さ14cm。
 
葉の形 葉の裏 と 表


イメージが ゴムノキに似ている。
シンプルな楕円形である。
 
京都植物園のパラミツ 板橋区 熱帯環境植物館
幹の太さが4・5cmしかないのに、実の長さは 30cmもある。
熱帯では大きくなると 90cm、40kgにもなるそうだ。
小柄な成人の体重ほど!

板橋の方は「雄花」かもしれない。幹から出た「長い」枝に付く。
実になる「雌花」の柄は短い。
 
雄花(集合花)の断面
落ちていたもの(長さ8cm)を拾って、半分に切った拡大図。
各花は、萼とひとつの雄しべがある。
 
雌花(集合花)
同じく 板橋の雌花。
先行して咲いたものが大きな実となっているので、雌花とわかる。
「つぼみ」の状態では、雄花よりも表面がスムースである。
 
種子の周りを食べる
実の付き方は 巨大トウモロコシ状
軸の周りにたくさんの実が付いている。 クワ科といえば クワやイチジクを思い出すが、果実の様子はまったく違う。

独特の匂いがあるが、ドリアンほどではない。
といいながら、食べる機会を逃してしまった。 次回は是非。
 

盈江(インジャン)やその周辺では、収穫されたパラミツが店や路上で売られていた。 ほかの果物も種類が豊富である。
 


 
名前の由来 パラミツ Artocarpus heterophyllus

パラミツ
漢名 波羅蜜の音読み。

漢名はサンスクリット語の「paramita」に由来する。
 

サンスクリット語の「paramita」は、仏教的には”彼岸に至った”と解釈され、悟りに至るために菩薩が実践する「徳目」を指す。

言語学的には”最高の状態”と解釈される。
Wikipedia より

つまりは 「最高の果実」という意味であろう。
 
別名 ナガミパンノキ : 長実パンの木
パンノキの実
丸いパンの木の実に対して。
種小名 heterophyllus : 異種の葉がある という意味

パラミツの葉の形は ごく普通の楕円形である。
それなのに、なぜ「異形の」という意味の名を付けたのか?

「パンノキ属」の属名と「パンノキ」の学名は、1775年に、フォスター親子によって、Artocarpus communis という名で命名されていた。 種小名 communis は「普通の」という意味である。
パンノキの葉
フォスター親子の「普通の」が何を意味して名付けられたのかはわからないが、まさかこれが「普通の葉」ではないだろう。
 
Wikipedia によると、パラミツは木が小さい時の葉に切れ込みがあり、大きな木ではすべて「全縁」の葉となるために、二種類の異なった形の葉を持つ という意味で、heterophyllus 「異種の葉がある」 と名付けられたそうだ。
 
英語名 ジャックフルーツ
インドのマラヤーラム語の 「tsjaka」を ポルトガル人が使い始めたことに拠る。
『園芸植物大事典』
これだけでは、意味は不明である。
 
Artocarpus パンノキ属 : 
ギリシア語の artos (パン) + karpos (果) の合成語である。

属名の中国名は「波羅密属」で、パンノキではなく、本種「パラミツ」の名を取り入れている。
 

なお、種小名の項で記したように フォスター親子によってパンノキが命名され、この時の属名「Artocarpus」が一般的に使われているのだが、じつはパンノキは パーキンソン (1745-71) によって、フォスター親子が命名するよりも前 1773年に、

  Sitodium altile  という名で命名されていた。

このため Artocarpus communis は植物規約上 不適合な名前 「異名」であることになり、また、フォスター親子が 新しい Artocarpus 属としてはこの1種しか記載しなかったため、属名もまた正式なものではなくなった。
 
その後パンノキの正しい学名はArtocarpus altilis と訂正されたが、属名はすでに Artocarpus属 が広く知れ渡っていたために、「保留名 nomen cons.」 としてそのまま使われている。
 

属名に 保留名が多い理由
種小名で使われている保留名は、トマトとコムギの2種だけであるが、属名では 1,100属もの保留名があるという。

世界的に命名規約が統一されていない時代。 それぞれの学者が自分の考えで「新しい」属名をたてる時に、種小名にも別の名前を付けてしまう、上記のようなケースが多かったためだと思われる。

  A属 B種 植物学者名C : 正名(先取権)

  X属 Y種 植物学者名 Z : 新しい属を定義  ←異名!

なぜならばこの時、現在の規約では先取権がある種小名B種を尊重して

  X属 B種 植物学者名 Z

としなければならない。 
新しい属としてX属が認められれば、問題ないが、すでに存在する A属と同じものならば 本来は「異名」である。 ところが X属の名が一般的になってしまった場合は それを尊重して、「保留名」として認められることが多いためである。
 
クワ科 Moraceae : mor (黒の意) から。
クワに対するラテン古名に由来する。そのもともとの語源はケルト語の mor で、熟した時の黒いクワの実からきている。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press
        園芸植物大事典/小学館
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
        花と樹の大事典/植物文化研究会
        Mabberley's Plant-Book/D. J. Mabberley
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