ガイアナの首都ジョージ・タウンから、アメリカの援助で整備された道を車で飛ばして約1時間半。そしてバービス川のフェリーを渡ったところが、ガイアナ協同共和国第二の都市
ニュー・アムステルダムである。
第二のといっても、メインストリートに牛が歩いているような町である。
町外れの住宅の庭に咲いていたものを、柵越しに撮った。
初めて見る植物だったが、撮影アングルは限られ、近づくこともできず、同じような写真ばかりになってしまった。
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つる性植物で 大きくなると長さ12mにもなるという |

この木の幅はせいぜい3m
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葉の様子 |
枝(蔓)の様子 |
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葉は対生である。
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後方に木造の住宅が見える。 |
長い花序 40〜50cmぐらい |

庭の中には入れないため、花のアップの写真が撮れなかった。
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紫色の「花」 |
そこで、いつも写真をお借りしているハワイ大学 Carr 教授の写真である。
「大の字」型のものは萼で、下部の濃い紫色が花である。花は花序の、もとの方から先端へと咲いていく。
萼は花びらが落ちた後も残っている。 |

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[ Copyright ]
Dr. Gerald Carr
(Univ. of Hawaii )
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『園芸植物大事典』によると、萼は花の脱落後も次第に大きくなり、果実の飛散に役立つ とある。
「ツクバネ」のようにくるくる回りながら落ちるのであろう。
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先日、名古屋の東山植物園温室で、ペトレアを撮影できた。 カメラの設定が変わっていたたのに気付かず、画質が悪いのが残念。 花の数はまばらだか、ガイアナや上記ハワイのものよりも花弁が長い。 |
東山植物園の花 |
別の花序の種子 |
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花序は何本もあり、まだつぼみばかりのものから種子がすべて落ちてしまったものまで揃っていた。
そして落ちていた種子を拾い集めて放り上げたところ、予想通りに回転しながら落ちて行った。
蕚の大きさに比較して種子が軽く、羽根の数が5枚あるために落下速度が遅く、回転の様子を長い時間 といっても4秒程度 楽しめる。
しかし 風がないと真下に落ちるため、広く種子を散布する役には立たない。
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名前の由来 ムラサキヤモメカズラ Petrea volubilis |
和名 : ヤモメカズラ |
『園芸植物大事典』には、属名が「ヤモメカズラ属」として載っているが、由来に関する説明はない。
そして、本種には和名の標記がなく、学名のカタカナ表記だけであった。
普通に考えれば 単に「ヤモメカズラ」であろうが、白花種があるので、本種は「ムラサキヤモメカズラ」とした。 |
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種小名 volubilis : まとわりつく という意味 |
牧野の『植物学名辞典』には 纒繞スル、卷絡スル とある。
難しい言葉なので漢和辞典が必要だったが、いずれも「まとわりつく」という意味で、本種のつる性の性状を表しているものと思われる。
読み方は「ウォルビリス」となっている。 |
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Petrea ペトレア属 : 人名に由来する |
植物学の後援者であった、イギリスのロバート・ジェイムズ・ペトレ (1713-1743)
を称えて名付けられた。
熱帯アメリカ(メキシコ、西インド諸島からブラジル)に約30種が分布する。ガイアナもその範囲に含まれる。 |
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ヤモメカズラ属 : 寡婦葛属 |
『園芸植物大事典』では「ヤモメカズラ属」で載っているが、由来に関する説明はない。
「ヤモメ」は 「寡婦」または 「(男)鰥」で、未亡人(または妻を亡くした男)のことと考えて間違いないであろう。
それでは なぜ「やもめ」か?
私はここに掲載したペトレア・ウォルビリス以外に同属の植物を見たことがないが、事典によると、ヤモメカズラ属の花は「萼が残る」ことが共通しているようだ。
普通の花では、花びらが萼に包まれて蕾の状態から開花するが、ペトレア・ウォルビリスの花序では、濃い紫の花が咲く前から、薄紫色の萼がまるで花のようにビッシリと付いている。
この「萼」を「女性」に喩えたのが「ヤモメカズラ」の由来であろう。
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一人前になった萼が「ひと花」咲かせて身ごもった後、結婚相手は「落花」してしまうが、萼の方は以前と同じように、あるいはさらに大きくなりながらいつまでも残っている。しかし色は次第に褪せていく。 |
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ヤモメなどどいう野暮な呼び方ではなく、英語名のようにもっときれいな名前にすればいいものを....。
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ガクを追い羽根に見立てて、「ツクバネカズラ」としたいところだが、『朝日百科/植物の世界』に、「ツクバネカズラ科ツクバネカズラ属」という名前があったので、断念した。 |
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英語名: |
bluebird vine : 青い鳥カズラ , purple-wreath : 紫リース
queen's-wreath : 女王のリース,
sandpaper vine : 紙やすりカズラ : |
ガイアナではペトレアが柵の中にあったために近づけなかったが、東山植物園で葉に触ってみたところ、荒い毛が生えていて、まさにサンドペーパの感触であった。 |
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クマツヅラ科 Verbenaceae : |
クマツヅラ科には園芸的に利用されている、ランタナ、ドゥランタ、バーベナ、ムラサキシキブ、また南洋材で有名なチークが含まれる。今では、クマツヅラというよりもバーベナと言った方が、通りがよいかも知れない。 世界中に約100属 約2,600種があるという。
学名 Verbena の由来はクマツヅラ属のある種に対する、古いラテン名ということであるが、詳細は不明。『園芸植物大事典』
別の事典には「神聖な枝」の意 とあった。『花と樹の大事典』
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参 考 |
クマツヅラ (熊葛) Verbena officinalis Linn. (1753) |
クマツヅラの名前の由来は、この植物の姿が乗馬用の鞭(ムチ)に似ているところから 「ウマウツツヅラ」が変化して「クマツヅラ」となった、というものである。『花と樹の大事典』より
この写真は小石川植物園の薬用植物見本園のものである。
全体が藪になってしまってわかりづらいが、1本の茎に注目しても、枝分かれしていていて、とても「鞭」には使えそうにない。 |
クマツヅラ |

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確認のために、春日健二氏 のホームページ「日本の植物たち」の中からも写真をお借りした。 |
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クマツヅラ |
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(kasuga@mue.biglobe.ne.jp) |
春日さんの写真を見ても、やはり馬の鞭には見えない。だいいち、せいぜい80cmにしかならない「草」をツヅラ
(葛)というのは おかしい! この「ツヅラ」はつる(蔓)という意味ではないのであろう。
一方で、クマツヅラ属の中国名も先の由来と同じで、「馬鞭草属」という。
こちらには ちゃんと「草」がついており、クマツヅラの別名にこれを音読みした「バベンソウ」というものまである。
クマツヅラには止血・消炎作用が有り、漢方でも馬鞭草と呼ばれて利用されていた(いる?)ということなので、「馬の鞭」に由来するというのもあながち嘘ではなさそうだ。
事典には日本で「クマツヅラ」の名が初めて登場するのは「本草和名」 (918)
とあるが、どちらが歴史があるかと考えると、漢方薬の方が古そうだ。
それはともかくとして、名もない雑草に名前を付ける時、漢名を参考にはするとしても、この草に 「ウマウツツヅラ」などと呼びにくい名を付けるだろうか? はなはだ疑問である。
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参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
園芸植物大事典/小学館、
週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
花と樹の大事典/植物文化研究会 編、
植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
春日健二氏のホームページ「日本の植物たち」、
ハワイ大学 Dr. Gerald Carr のホームページ
(転載許可取得済み) |
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