サポジラ
Manilkara zapota Van Royen (1953)
← Achras zapota Linn. (1753)
異 名 Achras sapota Linn. (1762)
別 名 チューインガムの木、メキシコガキ
科 名 : アカテツ科 Sapotaceae
属 名 : サポジラ属 Manilkara
Adans. ,nom. cons. (1763)
原産地 : メキシコ および 熱帯アメリカ
英語名 : Chewinggum-tree , chicle tree,
sapodilla , sapota , zapote , sapodilla plum
用 途 : 果実を生で食べるほか、シロップ付け、シャーベット、ジャムやマーマレードに加工される。
樹液からチクルを作り、チューインガムの原料とする。
 
撮影地 :
ドミニカ共和国 、日本 温室
 
 
世界中で栽培されているが、ドミニカ共和国は原産地のひとつであるためか? 植物園だけでなく、住宅の庭でもよく見かけた。
 
ある家の木を撮影していたら 丁度ご主人が出てきて中庭の方まで案内してくれた上に、枝ごと実を取ってくれた。
 
ホテルに帰って実の断面の写真を撮ったが、まだ熟していなかったためか、果肉からも白い液がにじみ出て、渋くて食べられなかったのが残念。
 
樹形 枝振り と 幹の様子

 

 
若葉の様子
野生種の高さは 30mにもなるそうだが、色々な栽培品種ができているようで、一般的にはせいぜい 15mぐらいということである。
 
左上の樹形の写真では、小型の木と 大きな木の樹冠が一体となっている。
 
若葉のうちは黄緑から緑色ととてもきれいだが、やがて暗緑色となってくすんでくる。
 
つぼみ と 花
筒状に咲く花のサイズは 1cmと小さい。
一見花びらがたくさんあるように見えるが、合弁花の先が 12に裂けているためである。
 
完全な形の雄しべは6本。さらに不完全な「仮雄ずい」が 6本隠れているそうだ。
 
花の詳細
周りの茶色いのは、咲き終わった花である。
 
実は初め上を向き、大きくなるにつれて重みで垂れ下がる傾向がある。
柱頭がずっと残るので、そこに花弁が落ちずに引っかかっている。
 
実の様子
果実は大きくなると 直径5cmぐらい。楕円形のものもある。
 
実が大きくなるにつれて、新しく生まれた皮の表面に、古い皮の残骸が残ったままのような状態で、表面はザラザラである。
上右の写真では、傷ついた果実から白い液が落ちた跡がある。
 
取ってもらった実の柄からも、どんどんと樹液が出てきた。
 
アカテツ科は カキノキ科に近い。
外観は似ても似つかないが、果実の断面を見ると 果肉や種子がカキに似ている。
 
別名の一つ、「メキシコ柿」はこれに由来する。
 
名前の由来 サポジラ Manilkara zapota
 
和名 サポジラ : 意味は不明
英語名をカナとしたもので、和名ではない。
 
Merriam-Websterを見ると、メキシコでは今でも使われているナワトル語の「tzapotl」に由来するスペイン語、「zapotillo」が起源ということである。意味は書かれていない。
 
ナワトル語・英語辞典もあるにはあるが、単語数が少ない。
そもそも辞書というものは名前の由来まで解説されていないことが多い。
 
sapo」が石鹸に関係していそうだ。
種小名 zapota : 意味は不明
語源は上記に同じである。
 
属の分類が変えられる前の、元の名前 Achras zapota は、リンネの『植物の種』の「追記」部分に記載されており、種小名が大文字で始まっている。
 
コロンブスが新世界を発見した 1492年には、すでに現地人がサポジラを利用していたそうで、さすがにたくさんの参考文献が並んでいる。
 
Sapota 果実は卵型で大きい
シャルル・プルミエ 著 『Nova Plantarum Americanarum Genera』 (1703-04)
Zapotes
Laet 著 『amer』 (アメリカの植物? 詳細不明)
Cypote
ドミニク・シャブレイ 著 『sciagr』 (詳細不明)
Avellanea indicae
ギャスパー・ボーアン 著 『Pinax Theatri Botanici 植物の劇場総覧』 (1623)
Malus Persica maxima, (後略)
ハンス・スローン 著 『ジャマイカの植物』 (1696, 1707-25)
リンゴ状の果実が生るアメリカの樹木, (後略)
レオナルド・プルケネット 著 『Amaltheum Botanicum』(1705)
長楕円形で両端が尖っている果実 (後略)
ジョン・レイ 著 『Historia Plantarum』(1686)
 
リンネは ひとつ目 Sapota とふたつ目 Zapotes をミックスした名前 「Zapota」 を採用した。
 
 
なお、Achras属に関してはリンネが『植物の属』(1737) に記載したのだが、その第五版によると、以前にシャルル・プルミエが「Sapota属」を立てていたのをわざわざ変更して、「Achras属」としている。
 
よっぽと 拘りがあったに違いない。
 
Achras はギリシア語 「achras ナシの木」に由来し、「ナシのような実が生る」という意味であろう。
現在は Achras属は有効ではないようだ。
 
 
ところで、参考文献後半にある「果実が大きい、とか 巨大な」という記述は、本種サポジラには当てはまらないように思える。
 
もしかすると、同じアカテツ科の Pouteria sapota のような大きな実が生る植物だったのかもしれない。
 
Pouteria sapota アカテツ科 
Wikipedia より
右の写真で、赤いズボンをはいた人の足や 車のナンバープレートと較べると、ラグビーボール大の実の大きさがわかる。
 
 
リンネ自身による種小名の訂正
 
『植物の種』を刊行した9年後の1762年、リンネは『同 第二版』で、本種を Achras sapota と命名し直している。
 
上記のように SapotaZapotes を合体したのを考え直して、再度記載したと思われる。
 
しかし、現在の植物命名規約によって、『植物の種』の種小名 zapota が有効な名前として残っている。
 
Manilkara 属 : 意味は不明
『園芸植物大事典』によると、「本属のある種の植物に対する、マレー半島での現地名による」 とある。
 
この「ある種の植物」が何を指すのかがわからない。
サポジラ属は 65〜75種あって、熱帯地方に広く分布しているという事なので、本種サポジラがその対象とならなくても不思議ではないが、同事典に、サポジラが「16世紀末にはフィリピンに導入された」という記述があるので、フィリピンの首都 Manila のスペルと似ているのが気になる。
 
この属は、フランスの自然科学者であるミシェル・アダンソン(1727-1806)が 1763年刊行の『Familles naturelles des plants』で定義したものである。
 
書名を訳すと 『植物の自然分類』 という意味になる。リンネの雄しべや雌しべの数に基づく「性体系」に対して、植物の器官の構成・構造に注目して分類する考えを推し進めた。
 
当時は「リンネ派」全盛時代で、体制からは無視されたようだが、ロラン・ジュシュー(1748-1836)や ドゥ・カンドル(1778-1841)に引き継がれ、今日に至っている。
 
 
Manilkara属は保留名 (nom. cons.)
 
その原因はよくわからないが、種の定義を伴わなかったためだと思われる。
「種」や「属」を定義するためには、他との違いなどを記載するとともに、その「植物標本」を伴うことが必要である。
 
もしも、アダンソンの Manilkara Adans. が保留名と認められていなかったら、正規名は 1943年にチャールズ・ギリー(1911-70) によって記載された、
 
  Manilkara Gilly
 
となる。
 
和名 サポジラ属 : 
Manilkara属の和名は「サポジラ属」で、本来、本属とは別の「Sapota属」に付けられるべき名である。サポタ属については事典などにほとんど記載がない。
Sapota属は、1754年に フィリップ・ミラーが定義しているが、これも、現在は有効な分類ではないようだ。
 
アカテツ科 Sapotaceae : 
学名と和名の食違い
 
「科名」の和名には、基準となる「属」の名前を使うのが一般的である。
しかしその「属」の植物が日本には自生していなかったり、馴染みがない場合には、別の名前が付けられることも多い。
 
例えば、「ミカン科 Rutaceae」の基準属は「ヘンルーダ属 Ruta」であるが、ヘンルーダ科とは呼んでいない。
 
Sapota属が基準属となっているSapotaceae の場合も、「サポジラ科」ではなく 「アカテツ科」となっている。
属名では、Manilkara属に対して「サポジラ属」を使っているのだから、科名も「サポジラ科」とすればよいのに・・・・。
 
 
アカテツ科は アメリカ、アフリカ、アジアの熱帯地域に 約53属 1,100種もあるという 『朝日百科/植物の世界』。
『園芸植物大事典』では 約35属 600種 となっている。
 
カキノキ科に近く、熱帯地方では経済的に重要なグループである。
 
我が国では「アカテツ Pouteria obovata」が南西諸島や小笠原諸島に自生するため、サポジラに代わって科の名前となっている。
 
アカテツの名の由来は、
 @ 赤みがかった、鉄のように硬い材
 A 新葉 特に裏面に赤い鉄さび色の毛が生えているため。
 
英語名 Chewinggum-tree , chicle tree :
別 名 チューインガムの木 :
サポジラはどこを切っても白い乳液がしたたる。
 
この樹液を煮詰めたあとに、酸で固めたのが「チクル」である。
天然ゴムの採取と同じように、幹に斜めに傷を付けて採取される。
 
 参 考
 
サポジラには、色々な人が様々な名前を付けた。
 
ウェブサイトで検索できる、The Integrated Taxonomic Information System (ITIS) で調べると、67もの名前が挙がっていた。
すべて「異名」(正式ではない名前)である。
 
ここでは、サポジラに直接関係がある 属名・学名 をリストアップしてみた。
 
命名年 属名 種小名 命名者 備考
(Sapota)   Plum. 学名有史以前
1737 Achras   Linn. 『植物の属』
1753 Achras zapota Linn. 『植物の種』
1754 Sapota   Miller  
1762 Achras sapota Linn. 『植物の種 第二版』
1763 Achras zapota var. zapotilla Jacq.  
1763 Manilkara   Adans. nom. cons.
1849 Achras zapotilla Jacq. ex Nutt.
1905 Sapota zapotilla Coville ex Safford
1943 Manilkara   Gilly 種まで含めて定義
Manilkara zapotilla サポジラの異名
1953 Manilkara zapota van Royen
現在のサポジラの正名
 
現在の「正名」が定義されたのは、なんと、リンネの『植物の種』から200年後であった。(最後の行)
 
Charles Louis Gilly (1911-1970) は、1943年から45年にかけて、サポジラ属に14種を定義している。
「サポジラ」に関しては、恐らく「Achras zapotilla」を正式名称と勘違いして、「Manilkara zapotilla」と記載したものと思われる。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        Wikipedia、
        Merriam-Webster
世界の植物 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ