シクンシ 四君子?
Quisqualis indica Linn. (1762)
 

 
ダカール大学 付属植物園
 
科 名 : シクンシ科 Combretaceae
属 名 : シクンシ属
   Quisqualis Linn. (1762)
英 名 : Rangoon creeper
中国名: 使君子
原産地: 熱帯アジア、マレーシア
用 途 : 観賞用のつる植物。
芳香がある、らしい。
撮影地: セネガル , 日本 温室

植物園内の小さな白い建物の壁に沿って伸びていた。
大きくなると、高さ 7〜8mまで伸びると事典にある。

花が開いた直後は「白色」であるがやがてピンク色になり、最後は写真のような濃い色となる。
花びらの外側は白いままである。

高さは 3m程度 夢の島の熱帯植物館


東京都夢の島の 熱帯植物館で


解説文:
花は、咲き始めは白いが、その日のうちに赤色に変わっていく。夜になると独特の甘い香りを発する。

撮影:10月14日 午後3時45分 
どのくらいの時間で色が付くのか。熱帯植物館の解説でははっきりしない。 係の人に聞いても「わからない」という返事。 そんな暇はないという事であろう。

私自身も長時間温室にいるわけにもいかないために、不明であったが、東山植物園のボランティア・ガイド 鈴木さんからいただいた海外文献の文章をきっかけに、自分でも調べ、ネットで見つけたイスラエルでの観察報告を加えて以下にまとめた。

熱帯植物館の解説とは違うが、環境によって咲き方が変わることはありうる事である。


花は1日目の夕方6時から7時半頃に開花する。
 
ステージ →
↓観察項目
1日目夕方 2日目 3日目
花の色 ピンク → バラ色 → カーマイン
花の向き 斜め上向き 横向き 下向き
花のサイズ 花冠の長さ花弁ともに成長する
花密 開花と共に発生 朝に一番多くなる
花粉の媒介者 スズメガ ハチ、ミツバチ、ハエ、sunbird

色を見れば、何日目の花かが一目瞭然というわけである。
「それぞれの花の開花期間は3日間」とあるが、3日目の夜に散るのか、それとも4日目(72時間後)に散るのか、はっきりとした記載がない。

色の変化は、まず白い色と香りで最初の晩に夜行性の「ガ」を誘い、ガによる受粉ができなかった場合に備えて、赤い花となって昼間に「ハチ」を誘うという両刀遣いの裏技であった。

色が変わるところから「酔っぱらった水夫 Drunken-sailor」という別名があるそうだ。
「スイフヨウ 酔芙蓉」と同じ発想でおもしろいが、3晩も飲み続けるわけで、「シクンシ」のイメージとは対極にある、本種には似つかわしくない名前である。

名前の由来  シクンシ Quisqualis indica

シクンシ 使君子 : 人名による
台湾国立 臺南大学のホームページに以下の主旨の由来説明があった。
伝え聞くところによると北宋年間に、四川省の潘州(現在の松潘県)に 郭 使君という医者がいた。 薬の採取で山にはいっていた時、ツル植物に実が生っているのを見付けた。 木樵はそれを「留球子」だと言った。
家に帰って鍋で煎っているとよい香りが立ちこめ、ニオイを嗅ぎつけた子供がそれを4 ・5粒飲んでしまった。 すると何匹もの蛔虫が便に出て、郭 使君は留球子が駆虫効果があることに気がついた。 これが世間に知れ渡り、郭 使君は小児科医の称号が与えられ、留球子はやがて「使君子」とよばれるようになった。


 過去に考えた いろいろな案
熱帯アジアの原産であり、沖縄には野生化しているとはいえ日本の植物ではない。「シクンシ」の名は中国で付けられた名の音読みであろう。
『広辞苑』や『園芸植物大事典』には、中国名として「使君子」があがっているが、その意味は?

まず 中国名を尊重するが、漢字から考え直してみる必要もあろう。

まずは 使+君子
花の色が白から赤紫に変わるところに注目した。「白」が召使いあるいは使いであり、「紫」が君子である。
同じ房に、白と紫が同居している、白が紫に変わる、という珍しい花に付けられた名前である。
聖徳太子が定めた「冠位十二階」でも、色の位のトップが「紫」であり、「白」は下から二番目、黒の上である。
ただし、中国で最も高貴な色は、皇帝以外は使えなかった「黄色」であるため、この説には今ひとつ自信がない。

次に 使君+
この説はうまく説明がつかないのだが、このような区切り方もあり得る、という事で挙げておきたい。
「使君」は四方の国に差し遣わされる天子の使者である。
使君に「子」を付けて何を意味するのか、色の変化とどう関係させるのか、未解決である。

さらには 士君子
士と君子の意味で、社会的な地位や学問が有り、身持ちの良い点で世人の模範となる人、のことである。
品の良い、香りの良いシクンシの花になぞらえたものである。

最後に 四君子
中国風の絵で、他の草木よりもずば抜けて気品が高いといわれる、4つの植物 蘭・竹・梅・菊 を「四君子」と呼ぶが、シクンシは白からダーク・カーマインまで、4つの色を持つところから。
これが 私の筆頭候補だった。

種小名 indica : 「インド産の」という意味。
インドが原産地に含まれるかどうかは はっきりしない。

Quisqualis シクンシ属 :誰?何?という意味
ラテン語の quis (だれ?なに?どんな?) と qualis (どのような?どんな種類の?)というふたつの疑問詞を並べたもので、花の色が開花中に変化していくことに対する、素朴な驚きにちなむと言われている。(小学館 園芸植物大事典による)
熱帯に 20種がある。

参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社
        羅和辞典/研究社、
        新明解国語辞典/三省堂、
        Flowering Tropical Climbers/キュー植物園、
        Flower Orientation and Color Change in Quisqualis indica and Their Possible Role in Pollinator Partitioning/D.Eisikowitch, R.Rotem
        台湾国立 臺南大学のホームページ
世界の植物 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ