ユリノキ 百合の木
Liriodendron tulipifera Linn. (1753)
別 名 : チューリップノキ、ハンテンボク、グンバイボク、ヤッコダコノキ、クラガタノキ、ローソクノキ
科 名 : モクレン科 Magnoliaceae
属 名 : ユリノキ属 Liriodendron Linn. (1753)
英 名 : yellow poplar , tulip tree , white wood , canoe wood , saddle tree , canary wood , bass wood
原産地 : 北アメリカ、マサチューセッツからフロリダ、ミシシッピにかけて。
用 途 : 街路樹、公園樹として植えられる。
撮影地: アメリカ合衆国 、日本 街路樹

北アメリカ原産の落葉樹であるが、明治の初めに日本に伝えられて以来、街路樹などによく利用されている。
 
ユリノキについては、毛藤 勤治氏ほか の著作になる 『ユリノキという木』 に、詳しい博物誌が記されている。

そこで ユリノキといえば、まず 新宿御苑の「三本ユリ」である。
 
中央広場の3本のユリノキ
明治初期に伊藤圭介が、氏に贈られた種子を播いて苗木を育て、当時の新宿農学所に植えたもの とされている。
遠目には1本の木にも見える。
樹齢 約130年、樹高40m。
2003年6月 撮影
大学時代に、葉の落ちたこの木をスケッチしたことがあり、私にとっても思い出深い木である。
 
小石川植物園のユリノキ
新宿御苑と同じ時期に植えられたものである。
 
看板に、「明治23年に当時の皇太子(大正天皇)がユリノキと命名したといわれている」 とあるが、皇太子に言われるまでもなく、伊藤圭介や田中芳男などの植物学者が「ユリノキ」の名前は付けていたはずである。
 
なお現在は、金属製のきれいな立て札となっている。
 
迎賓館前の並木
新宿御苑の木の実生で育てられた苗木(ユリノキ 二世)が植えられたもの。
( 『ユリノキという木』による) 洋風の建物に良くあっている。
 
この写真はまだ葉が出たばかりの4月中旬に撮影したもの。
 
新宿御苑にて
ユリノキは黄色く紅葉する。
 
東京では茶色の枯れ葉が混ざってしまい、残念ながら真っ黄色にならないことが多い。
しかし、一部に黄緑色の葉が残る状態も美しい。
 
英語にも yellow poplar の名がある。

 
 
さて 前置きが長くなりました。
 
名前の由来 ユリノキ Liriodendron tulipifera 他
 
ユリノキ
 : 2種類の花がある木はな〜に?
ユリノキの花は 確かにチューリップには似ているが、ユリの花には似ていない。

ユリ科の中にはいわゆるラッパ型ではなく、右の写真のような釣り鐘型、ベル型の花も多い。しかし花の咲く向きは通常下向きとなる。
 
ユリノキには英語名も様々なものがあるが、「ユリ」という言葉は出てこない。
 
事典には和名「ユリノキ」の由来を「花の形による」と書かれているが、私の考えでは、アメリカから種子を入手した植物学者(たち)が、明治初めのその当時は、チューリップの名がまだ馴染みが薄かったために、「チューリップノキ」ではなく、属名 Liriodendron にならって「ユリノキ」と名付けたのではないかと思っている。
 
もし 前出の「明治23年に皇太子が命名.....」の話(小石川植物園の看板)が事実であるのならば、当初は外国名に倣って「チューリップの木」と名付けられていたものを、お供の関係者の説明を聞いた皇太子が『ユリノキの方が馴染みやすい』と提案した ということではないだろうか。
 
ユリの花の形 ウバユリ ユリ科 のバイモ
 
種小名 tulipifera :
チューリップを有する の意味
花の形に由来しており、ユリ科チューリップ属は「Tulipa属」である。tulipifera は、意訳すれば「チューリップ状の花を持つ」 という意味になるであろう。
英語名にも tulip tree がある。
Liriodendron ユリノキ属 : 
ギリシア語の leirion (ユリ)と dendron (木) を合成した言葉。
まさに ユリノキ である。
 
ユリノキ属は、現在は「ユリノキ」と「シナユリノキ」の2種しかなく、アメリカ大陸と中国という離れた地域に自生している。
しかし過去には、たとえば鳥取県でもユリノキの仲間の葉の化石が出土しており、地球が温暖であった時には広い範囲に分布していたのが、氷河期を経て2種だけが生き残ったようだ。
 
 
ユリノキおよびユリノキ属の学名は、リンネ(1707-1778) の『植物の種』(1753) によっている。
ユリノキ属の項を見ると、記載されているのはユリノキ 一種のみである。
 
ユリノキは17世紀にアメリカからヨーロッパに伝えられ、植栽されたという。 これはリンネが生まれる前のことである。
それだけに、リンネよりも前の時代に出版された本にも、ユリノキの事が記載されている。
そこにはユリノキを説明する言葉として、すでに「チューリップ」tulipifera が使われている。 しかし、「ユリ」に関係する記述はない。
 
リンネは なぜ 属名に Liriodendron ユリノキ と名付けたのか?
 
事典にあるような「花がユリに似ているため」とは思えない。
なにか「ユリ」に似ているところがあるのではないだろうか。
 
先に引用した『ユリノキという木』 の毛藤 勤治氏は、雄しべの付き方に注目している。
 
普通雄しべの葯は、雌しべの方(中心側)を向いているが、ユリとユリノキは外側を向いているという点が共通している、というものである。
 
モクレン科 Magnoliaceae : 人の名前に由来する
17世紀フランスの植物学者で、地中海に面するモンペリエの植物園園長であった、ピエール・マニョール(1638-1715) を記念したものである。
 
 
別名 ハンテンボク
 
「ユリノキ」と並んで一般的であったと言われている「ハンテンボク」の名は、独特の形をした葉を 「半纏」 に喩えたものである。
 
ユリノキの葉の表面は光沢があるが、裏はつや消しで白っぽい。
半纏の写真は桐生市「村田捺染加工有限会社」のホームページより
 
別名 ヤッコダコノキ
同じく、葉の形を 「奴凧」 に見立てたもの。
奴凧の写真は、岡山市「サンワサプライ」のHPより
別名 グンバイボク
ハンテンやヤッコダコとは逆さまに、葉の柄を下にして持つと「軍配」となる。
写真よりも縦長の葉もあり、二つに割れた部分を軍配の耳に見立てている。

浅草『助六』のミニ軍配
別名 ローソクノキ
ユリノキはモクレン科の植物である。
花には雌しべがたくさん有り、それが集合した形となっている。
 
花びらや雄しべが落ちたあと、尖った形の集合果が鈴生りになる。これをローソクに喩えた名前である。
私は、別名「オクラノキ」を追加したい。
ユリノキの若い実 タイサンボクの実
右の写真は、同じモクレン科の「タイサンボク」の実である。
この時点では、ユリノキの実と似ている。
紫色の部分は、雄しべの落ちた跡。
 
ユリノキの実は熟すとカサカサに乾燥して、翼の付いた種が落ちていく。
成熟し 折れて落下したもの 舞い散った ひとつひとつの種子
翼が付いているとはいえ、飛び散る範囲はせいぜい25m程度。
 
ローソクノキの極めつけは次の写真である。
 
落下せずに木に残っているもので、一番外側の部分を除いてすべて落ち、残った花軸が「ローソク」と「炎」に見える。

 
この写真を 90度回転すると .....
少々花弁の数が多いが「ユリの花」に見えないだろうか。

これこそ 「ユリノキ」 の正体に違いない。
 

 

 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        ユリノキという木/毛藤 勤治氏ほか、
        「村田捺染加工有限会社」のホームページ、
        「サンワサプライ」のホームページ
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