イチョウ Ginkgo biloba
の栽培品種
シダレイチョウ 垂れイチョウ
ラッパイチョウ
フイリイチョウ 斑入りイチョウ
科 名 : イチョウ科 Ginkgoaceae
属 名 : イチョウ属 Ginkgo Linn. (1771)
中国名 : 銀杏 yin xing
原産地 : 中国

園の西側に沿った70番通り。ハンノキ池を過ぎた左側にタイミンチクの林があり、空き地となっていたその西側に 2000年代後半、アメリカヒトツバタゴと イチョウの品種が植えられた。
 
シダレ イチョウ  Ginkgo biloba 'Pendula'
枝が垂れ下がる性質は どんな樹木にも起こりうる現象で、園内にはほかに サクラ、ヤナギ、ケヤキ、エゴノキ などがある。

植物内で作られるホルモンのひとつに「ジベレリン」がある。種なしブドウを作る時に花や実を処理する薬剤として有名だが、通常の役割は植物の生長(枝が伸びる、幹や枝が太る)を促進する働きである。

枝先で作られる「ジベレリン」を、枝を通じて幹まで行き渡らせることによって、成長に応じた「太さ」を促進する。ところが突然変異によって ジベレリンがうまく行き渡たらなくなると、「枝を太くすること」ができなくなり、枝の自重で垂れ下がることになる。

①:2本のシダレイチョウ       2012.9.19.

①:シダレイチョウ  2012.1.18.

2010.10.11         枝が伸びて、枝垂れが顕著に         2011.11.24

学名:Ginkgo biloba 'Pendula'
垂れる小枝ばかりではなく、上に向かって伸びた「徒長枝」が太る事もあり、ジヘレリンを効かせることもできるようだ。高さは 約5m。

cv. は栽培品種 cultivated variety の略で、園芸品種とも呼ばれるが、命名規約が変更されて学名には使わないことになっている。

 
ラッパ イチョウ  Ginkgo biloba 'Tubifolia'
ラッパと聞くと トランペットや漏斗のように「円錐状」になっていることを期待してしまう。園の木は、そこまでラッパ状になっている葉は皆無に近く、ほとんどの葉は 基部は融合しているものの、深く二裂した葉が向き合う状態である。

②:ラッパイチョウ        2012.9.19.
高さ 4m弱。ずんぐりしている。

意外なのは、ラッパ状になるのは 2年目以降の短枝に付く葉だけで、一年目の葉は すべて「破れイチョウ」状態の葉である事。なぜ、二年目にならないとラッパにならないのか?

長枝の葉
深く二裂+浅く二裂で 細長い四裂の葉が多い。

短枝に付く葉
ラッパ状になっている葉が多いが、通常の形、単に葉が向き合ったもの、基部が融合したもの、など様々である。

 
フイリ イチョウ  (Ginkgo biloba 'Variegata')
フイリイチョウの名札を立てて苗が植えられたのは もう何年も前だが、いっこうに「斑」がはいらない。斑入りでないのは明らかなのに、立て札もそのまま・・・・。

③:フイリイチョウ         2012.9.19.
高さ 約5m。 両側はアメリカヒトツバタゴ。

真っ青な 葉の状態
斑入りの実物は 園芸店などでしか見たことがないが、小さな苗でも斑が入っており、なぜこんなに大きく育てるのかが不思議でならない。

幹の様子


 
イチョウ・変種など の 位 置
写真① : G10 a シダレイチョウ 2本
写真② : G10 a ラッパイチョウ
写真③ : G10 c 斑のない フイリイチョウ
すべて雌雄の別は不明
 
名前の由来 イチョウ Ginkgo biloba
以下 イチョウの項と同じ

イチョウ 銀杏 :
17世紀の終わり、元禄時代にはすでに「イチョウ」と呼ばれていた。
1690年(元禄3年)、オランダ商館付きの医師として日本にやってきた ケンペル が、帰国後に刊行した『廻国奇観』(異邦の魅力) 811-13 ページに イチョウが記載されている。
「杏銀」の漢字は右から左へ。その読みとして「一般に Itsjò」となっている。

イチョウの由来は、中国名のひとつに鴨脚樹があり、「鴨脚」は、宋時代の広東では「イチャオ」、揚子江北では「ヤチャオ」と発音した。『大言海』 
これが「イチョウ」に転訛したもの。

種小名 biloba: 浅く二裂した という意味 
葉の様子を表したもの。命名者はリンネだが、『植物の種』(1753)ではなく、『補遺 そのⅡ』(1771)に記載した。
1730年頃には ヨーロッパにイチョウが導入されたと言われているので、実物を見て名付けた可能性もあるが、ケンペルの図を参考にしたのかも知れない。その図では 葉のほとんどがきれいに二裂している。


実際の葉は 木によって、またひとつの木の中でも様々で、少し探せば、0 から 4裂 ぐらいまではすぐに見つかる、こともある。

Ginkgo イチョウ属 :
本来は Ginkyo となるべきだったもの。

ケンペルは 日本での植物名を熱心に聞き取り調査しており、イチョウにも3種類の名が記されている。「Ginkgo または Gin-an、一般に Itsjò.硬い実のなる高木で 葉はクジャクのような形」となっている。
その最初の名前 Ginkgo は、「銀杏」の日本での読み方「ギンキョウ ginko、」だったのだが、活字を組んだ時の の誤植に気が付かずに刊行されてしまったものだ。

リンネが『補遺』で そのまま Ginkgo biloba と記載したために、「正名」となってしまった。種小名 biloba は自分で名付けたようだが、人が付けた名前 Ginkgo の「意味・由来」までは確認をしなかった、ということだ。
辞典での読みは「ギンクゴ」となっている。



植物の分類 : APG II 分類による イチョウ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
イチョウ目  イチョウ科 のみ
イチョウ科  イチョウ属 イチョウ のみ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ