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科 名: | キョウチクトウ科 Apocynaceae | ||
属 名: | キョウチクトウ属 Nerium Linn. (1851) | |||
中国名: | 夹竹桃 jia zhu tao | |||
英 名: | oleander、rose bay、rose-laurel | |||
原産地: | アフリカ:アルジェリア・リビア・モロッコ・チュニジア・ニジェール、ヨーロッパ:アルバニア・ギリシア・イタリア・スペイン・フランス・ポルトガル、温帯アジア:オマーン・イラン・イラク・レバノン・トルコ・中国、熱帯アジア:インド・ネパール・パキスタン | |||
用 途: | 暑さ寒さに強く、公園などに植えられる | |||
備 考: | 学名は GRIN* による。 |
*GRIN:Germplasm Resources Information Network / アメリカ農務省 |
トップの写真は 小石川植物園の名札のない株。 |
以前は一般に Nerium olreander はセイヨウキョウチクトウ、N. indicum がキョウチクトウとされていたが、筆者が参考にしているデータベース GRIN では olreander に統一され、広い地域の国々が原産地となっている。 |
まず始めに、主要な図鑑の学名一覧から。 |
発行年 | 図鑑名など | キョウチクトウ | セイヨウキョウチクトウ | 備 考あり |
1969 | 『牧野 新日本植物圖鑑』19版 | N. indicum | - | |
1985 | 『日本の樹木』 山と渓谷社 | N. indicum | - | |
1964 | 『原色樹木検索図鑑』北隆館 | N. indicum | - | |
1994 | 『園芸植物大事典』 小学館 | 同右 var. indicum | N. olreander | |
1997 | 『植物の世界』 朝日新聞社 | N. indicum | N. olreander | |
両者の違い:セイヨウ. は萼片が花筒から反り返り、副花冠の切込み数が4~7と多い 「両者を同種に扱うの見解もある」との記述あり |
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2001 | 『樹に咲く花』 山と渓谷社 | N. indicum | - | |
2016 | 『APG原色樹木大図鑑』 | N. indicum | - | |
キョウチクトウとは別に、八重種の記載あり | ||||
2025 | 『Flora of China』 | N. olreander | 「夹竹桃属に一種のみ」の記述 | |
自生地は アジア、ヨーロッパ、北アフリカ | ||||
比較的新しい 『APG原色樹木大図鑑』でも、N. indicum だった。 |
かつて園内には、3ヵ所と分類標本園に植えられていたが、残っているのは 日本庭園の名札のない株だけである。標本園は現在 APG順に植え替えている最中なので、どこになるかは不明。 |
キョウチクトウ の 位 置 |
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写真① : | F4 a | ● | 日本庭園の飛び石を渡った 70番通り左側 |
写真② : | E14c | ● | メインスロープ左側 植え込み内 |
写真③ : | F5 | ● | 西側道路拡張前の 旧塀際 |
①:名札無しのキョウチクトウ 2025.6.8. |
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日本庭園の西側、オオアメリカキササゲ(ハナキササゲ)の奥にある。昔から名札がなかった。栽培品種ということだろう。 |
副花冠に赤い筋がはいる 2008.8.24. | |
![]() | ![]() 蕾は サーモンピンク色、開くとほぼ白。 |
副花冠:花冠の一部が変形してできた付属物で、葯が変形したものも含まれる。代表的なのはスイセンの中央部の杯状・ラッパ状の付属物。 |
②:メインスロープの栽培品種 2011.8.4. |
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スダジイの下で開花中。 |
ピンクの八重咲き 2012.6.26. | |
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花弁数が少ない花が咲くこともあった。名札は「キョウチクトウ」で N. indicum だった。 |
正規の「キョウチクトウ」ではなかったからか? 理由はわからないが、いつの時か撤去された。 |
③:シロバナキョウチクトウ 2011.6.16. |
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道路拡張前、西側の道沿いにあったもの。キョウチクトウとしては割と大きな木だった。 |
塀の間近だったので拡張時に撤去されたか、あるいは 御殿坂沿いのサザンカを移植した時に伐採されたのかもしれない。 |
キョウチクトウには以下の特徴がある。 |
・ミツバツツジと同じ3輪生葉序で、木本では珍しい (アカネ科のクチナシは本来 対生) ・時に 4輪生となる ・茎の髄は三角形を基本として、六角形・円形・星形など様々 ・4輪生の茎の髄は? → 四角形 ・捩れたように見える花冠 ・複雑な形状の 雄しべ |
これらについて、自宅の シロバナキョウチクトウで詳しく見ていきたい。 |
3 輪 生 |
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十字対生葉序の葉がつく位置は 節ごとに90度ずれるが、3輪生の場合は 60度ずれる。真上から見ると茎の周りに6枚の葉が並ぶ (右写真は 上下をカットした 4節分)。 |
直列線は 6本 |
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直列線:葉の着点をつなぐ線のうち、茎に平行するもの。 写真の赤い線が直列線の1本で、前掲の右写真でわかるようにキョウチクトウは6本。2節ごとに同じ線上に葉がつく。 |
分枝も3本 2009.9.22. |
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中央の頂芽は 来年の混合花芽。 注目は 分枝した後の第1節につく葉の数で、向軸側を欠いて「必ず」2枚となること。 |
2枚の葉 |
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側枝の第1節で切断してある。分枝後間もない第1節はお互いが近い位置にあり、中心側に葉をつけても重なってしまうために、コストパフォーマンスが低いことを知っているため。 |
なお ミツバツツジでも、向軸側の葉は省略される。 |
トサノミツバツツジ 2019.8.28. |
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中央を向いている小さな葉は、花芽の基部の高出葉。 |
4 輪 生 |
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めったに生じないが、幹の途中から出た徒長枝で二度ほど見かけた。もちろん 分枝も4本。 |
髄 の 形 |
観察に使った枝は2年生枝、開花中。 |
髄:茎の中心にある柔組織で、養分と水分を貯蔵する役割があると考えられている。桐などの一部の木本と、多くの草本植物では成長が進むと、随が喪失して空洞化することも多い。 |
観察部分 |
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髄の状態をチェックしたのは、前年に分枝した茎の 下位の▽▽の部分で、5mmごとに印をつけた。 |
第1節の伸び 約10cm(ただし写真では切断)、第2節 85mm、第3節 80mm (一部切断)、太さは7~8mm。様々な位置の断面を見る前に、まず第3節と2節のほぼ中央▼を較べてみる。 |
第3節の 45 mm部 | 第2節の 45 mm部 | |
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髄の形は同じ三角形だが 向きが違っている。そこで、節の前後でどのように変化していくのかをチェックしたところ、位置によって次々に変わっていくことがわかった。 |
●は切断面の位置を示す | 節▼からの寸法 | 上から変化を見ていく | ||
![]() 断面写真のスケールは 正確ではない (多少の大小がある) |
第 3 節 |
45mm | ![]() |
ほぼ 逆三角形 |
30mm | ![]() |
3辺が 膨らんでくる |
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15mm | ![]() |
スケールは 1mm。 茎の径 7.5 mm |
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10mm | ![]() |
全体に 丸味を 帯びてくる |
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.5mm | ![]() |
葉柄をカット 六角形が 緩む |
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2.5mm | ![]() |
ほぼ六角形 | ||
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▼ 葉柄の 付け根 |
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六角星の形 | |
第 2 節 |
-2.5㎜ | ![]() |
髄が葉柄に つながる位置 葉で作られた養分を 髄に貯め込む ほかの写真よりも 拡大している |
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-5㎜ | ![]() |
「角」は短く なっていく 縦断面の▼の位置 |
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-10㎜ | ![]() |
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-20㎜ | ![]() |
三角形に 近づく |
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-30㎜ | ![]() |
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-40㎜ | ![]() |
最上部の 「第3節45㎜」を 反転した形となった |
このように 横断面の髄の形は非常に変化に富んでいる。 | |
ところが縦断面はあまり変化が無い。左下の断面の茎は別の二年生枝で、節の上下約7センチを切ったもの。葉柄に向けて髄の幅が広くなっていく赤線部以外は、ほぼ同じに見える。 | |
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髄は大きくならないので、成長した幹では 小さく見える。 |
径 約 10mm | 径 40mm | |||
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→ | ![]() |
4輪生枝の髄の形 |
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四角形なのは当然?として、右写真で分枝後の髄が扁平なのは、第1節の葉柄(2葉)に向けて角を伸ばし始めているため。 |
花の構成 |
集散花序 2025.6.11. | 一対の小苞 | |
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枝先につく集散花序の花梗は何度も分枝して、多数の花が下から順次咲いていくために花期が長い。花梗の主軸の一回目と二回目の分枝は、通常の枝と同じように3本の側枝を出すことが多い。 |
花梗の分かれ目には苞葉がつき、小花の基部には一対の小苞がつく。いずれも早落性で、落ち跡が黒く残る。 |
捩れた?花冠 2007.6.24. |
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5数性の花で、合弁花冠の副花冠(付属物)は不規則に分裂する。 |
花冠裂片の「中肋」に線を引いてみると確かに中心から少しずれている。しかし 捩れて見える主な原因は、各花弁が左右非対称のためで、多くのキョウチクトウ科の植物に共通する特徴である。 |
花の断面 | 断面詳細 |
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花冠の2裂片と雄しべのひとつを取り外している。子房は上位だが、萼に隠れている。 |
渦を巻きながら副花冠から突き出しているのは「葯の付属物」で、上から見て時計回りに捩れている。枝葉は無毛なのに、花の中心部は毛だらけである。 |
花糸が湾曲して葯が中央部に集まり、雌しべを取り囲んでいる。毛で覆われた葯の基部は柱頭に接していうえに、上部は円錐状に集合しているため、これをこじ開けて花粉を届ける昆虫がめったにいないそうで、そのため結実は希となる。 |
果実と種子 |
①:直立する果実 2009.4.3. |
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名札のない ①の株で昔見たもの。子房は2室で熟すと裂開する。 |
自宅のシロバナキョウチクトウ 2009.2.2. |
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ほっておくと果実が弾けて 種子が飛んでいってしまうので、早めに収穫して追熟したもの。このため果皮が緑色をしている。 |
有毛の種子 2009.2.2. |
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萼が最後まで残っている。種子には冠毛があり、本体部にも短毛が密生する。 |
名前の由来 キョウチクトウ Nerium oleander | ||||||||||
キョウチクトウ:夹竹桃 | ||||||||||
中国名の音読み。キョウチクトウは中国雲南省に自生するため、『Flora of China』に載っているが、名称は「欧州夹竹桃」となっている。 | ||||||||||
現在の日本の表記では「夾」だが、中国語では「夹 jiā」が普通で、その意味は『小学館 中日辞典』によると、 1. 挟む、 2. わきに抱える、3. 二つの物の間にある、 4. 入り交じる、 5. 物を挟む道具 であり、「夹竹桃」の用例もある。 今まで何となく「狭い」という意味だと思っていたのだが、間違っていた! |
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改めて 夹竹桃 の由来を確認すると、吉田金彦『語源辞典/植物編』に、中国の本『群芳譜』に、「夾竹桃、花五弁、弁微尖、淡紅嫡豔、類(二)桃花(一)、葉狭長類(レ)竹、故名(二)夾竹桃(一)」という説明があり、「花は桃、葉は竹に似ているので 夾竹桃の名となった」ということである。つまり「夹」の意味は『中日辞典』の4.に近い。 | ||||||||||
属名 Nerium:ギリシア語 neros 湿った に由来する | ||||||||||
牧野富太郎の『植物學名辞典』には「neros 湿りたる」しか書かれていないので意味がわからなかったが、前出『語源辞典』に属名の解説も載っていた。 曰く「ギリシア人がキョウチクトウが湿気を好む木だと思いこみ、nerion と呼んだため」とのこと。後半の「命名物語」にも登場する。 |
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種小名 oleander: ? | ||||||||||
由来がはっきりしない。 Merriam-Websterによると「中世のラテン語で、恐らく arodandrum、lorandrum あるいは ラテン語 rhododendron の変化したもの」とある。 |
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リンネ以前には、rhododendron がキョウチクトウの名のひとつとして使われていた。後半の「命名物語」参照。 | ||||||||||
キョウチクトウ科 Apocynaceae: | ||||||||||
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キョウチクトウ の 命名物語 |
壮健でたくさんの花を咲かせるためか、古くから、といっても調べたのは17世紀初めからだが、多くの文献に登場している。 |
は正名、 | は異名 | ||
図版は主に、Biodiversity Heritage Library より |
学名の出発点『植物の種』(1753) 以前の記載 | 正名・異名の対象外 | ||||||||||||
年 | 名 称 | 著 者 | 備考 など | ||||||||||
❶ | 1616 | De Rhododendro | ドドエンス | ||||||||||
![]() 後略 |
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年 | 名 称 | 著 者 | 備考 など | ||||||||||
❷ | 1623 | NERION | ボーアン 弟 | ||||||||||
![]() 後略
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年 | 名 称 | 著 者 | 備考 など | ||||||||||
❸ | 1700 | Nerion | トゥルヌフォール | 別名 Laurier-rase | |||||||||
![]() 後略
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年 | 学 名 | 命名者 | 属名・備考 など | ||||||||||
④ | 1753 | Nerium oleander | リンネ | 本種の正名 | |||||||||
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年 | 学 名 | 命名者 | 属名・備考 など | ||||||||||
⑤ | 1768 | Nerium indicum | ミラー | 本種の異名 | |||||||||
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