キョウチクトウ 夾竹桃
Nerium oleander Linn. (1753)
Nerium indicum Miller (1846)
科 名: キョウチクトウ科 Apocynaceae
属 名: キョウチクトウ属 Nerium Linn. (1851)
中国名: 夹竹桃 jia zhu tao
英 名: oleander、rose bay、rose-laurel
原産地: アフリカ:アルジェリア・リビア・モロッコ・チュニジア・ニジェール、ヨーロッパ:アルバニア・ギリシア・イタリア・スペイン・フランス・ポルトガル、温帯アジア:オマーン・イラン・イラク・レバノン・トルコ・中国、熱帯アジア:インド・ネパール・パキスタン
用 途: 暑さ寒さに強く、公園などに植えられる
備 考: 学名は GRIN* による。
*GRIN:Germplasm Resources Information Network / アメリカ農務省

トップの写真は 小石川植物園の名札のない株。
以前は一般に Nerium olreander はセイヨウキョウチクトウ、N. indicum がキョウチクトウとされていたが、筆者が参考にしているデータベース GRIN では olreander に統一され、広い地域の国々が原産地となっている。
まず始めに、主要な図鑑の学名一覧から。

発行年 図鑑名など  キョウチクトウ  セイヨウキョウチクトウ   備 考あり
1969 『牧野 新日本植物圖鑑』19版  N. indicum   -
1985 『日本の樹木』 山と渓谷社  N. indicum   -
1964 『原色樹木検索図鑑』北隆館  N. indicum   -
1994 『園芸植物大事典』 小学館  同右 var. indicum  N. olreander
1997 『植物の世界』 朝日新聞社  N. indicum  N. olreander
両者の違い:セイヨウ. は萼片が花筒から反り返り、副花冠の切込み数が4~7と多い
「両者を同種に扱うの見解もある」との記述あり
2001 『樹に咲く花』 山と渓谷社  N. indicum   -
2016 『APG原色樹木大図鑑』  N. indicum   -
キョウチクトウとは別に、八重種の記載あり
2025 『Flora of China』  N. olreander 「夹竹桃属に一種のみ」の記述
自生地は アジア、ヨーロッパ、北アフリカ
比較的新しい 『APG原色樹木大図鑑』でも、N. indicum だった。


かつて園内には、3ヵ所と分類標本園に植えられていたが、残っているのは 日本庭園の名札のない株だけである。標本園は現在 APG順に植え替えている最中なので、どこになるかは不明。
 
キョウチクトウ の 位 置
写真① : F4 a  日本庭園の飛び石を渡った 70番通り左側
写真② : E14c  メインスロープ左側 植え込み内
写真③ : F5  西側道路拡張前の 旧塀際
 

①:名札無しのキョウチクトウ    2025.6.8.
日本庭園の西側、オオアメリカキササゲ(ハナキササゲ)の奥にある。昔から名札がなかった。栽培品種ということだろう。
副花冠に赤い筋がはいる                2008.8.24.

 蕾は サーモンピンク色、開くとほぼ白。
副花冠:花冠の一部が変形してできた付属物で、葯が変形したものも含まれる。代表的なのはスイセンの中央部の杯状・ラッパ状の付属物。

②:メインスロープの栽培品種     2011.8.4.
スダジイの下で開花中。
ピンクの八重咲き             2012.6.26.
花弁数が少ない花が咲くこともあった。名札は「キョウチクトウ」で N. indicum だった。
正規の「キョウチクトウ」ではなかったからか? 理由はわからないが、いつの時か撤去された。


③:シロバナキョウチクトウ     2011.6.16.
道路拡張前、西側の道沿いにあったもの。キョウチクトウとしては割と大きな木だった。
塀の間近だったので拡張時に撤去されたか、あるいは 御殿坂沿いのサザンカを移植した時に伐採されたのかもしれない。



キョウチクトウには以下の特徴がある。
 ・ミツバツツジと同じ3輪生葉序で、木本では珍しい
    (アカネ科のクチナシは本来 対生)
 ・時に 4輪生となる
 ・茎の髄は三角形を基本として、六角形・円形・星形など様々
 ・4輪生の茎の髄は? → 四角形
 ・捩れたように見える花冠
 ・複雑な形状の 雄しべ
これらについて、自宅の シロバナキョウチクトウで詳しく見ていきたい。

3 輪 生
十字対生葉序の葉がつく位置は 節ごとに90度ずれるが、3輪生の場合は 60度ずれる。真上から見ると茎の周りに6枚の葉が並ぶ (右写真は 上下をカットした 4節分)。
直列線は 6本
直列線:葉の着点をつなぐ線のうち、茎に平行するもの。
写真の赤い線が直列線の1本で、前掲の右写真でわかるようにキョウチクトウは6本。2節ごとに同じ線上に葉がつく。
分枝も3本       2009.9.22.
中央の頂芽は 来年の混合花芽。 注目は 分枝した後の第1節につく葉の数で、向軸側を欠いて「必ず」2枚となること。
2枚の葉
側枝の第1節で切断してある。分枝後間もない第1節はお互いが近い位置にあり、中心側に葉をつけても重なってしまうために、コストパフォーマンスが低いことを知っているため。
なお ミツバツツジでも、向軸側の葉は省略される。
トサノミツバツツジ  2019.8.28.
中央を向いている小さな葉は、花芽の基部の高出葉。

4 輪 生
めったに生じないが、幹の途中から出た徒長枝で二度ほど見かけた。もちろん 分枝も4本。


髄 の 形

観察に使った枝は2年生枝、開花中。

髄:茎の中心にある柔組織で、養分と水分を貯蔵する役割があると考えられている。桐などの一部の木本と、多くの草本植物では成長が進むと、随が喪失して空洞化することも多い。
観察部分
髄の状態をチェックしたのは、前年に分枝した茎の 下位の▽▽の部分で、5mmごとに印をつけた。

第1節の伸び 約10cm(ただし写真では切断)、第2節 85mm、第3節 80mm (一部切断)、太さは7~8mm。様々な位置の断面を見る前に、まず第3節と2節のほぼ中央を較べてみる。
第3節の 45 mm部 第2節の 45 mm部
髄の形は同じ三角形だが 向きが違っている。そこで、節の前後でどのように変化していくのかをチェックしたところ、位置によって次々に変わっていくことがわかった。
は切断面の位置を示す からの寸法 上から変化を見ていく

断面写真のスケールは
正確ではない
(多少の大小がある)


45mm

 ほぼ 逆三角形
30mm  3辺が
 膨らんでくる
15mm  スケールは
 1mm。
 茎の径 7.5 mm
10mm  全体に
 丸味を
 帯びてくる
.5mm  葉柄をカット
 六角形が
 緩む
2.5mm  ほぼ六角形

葉柄の
付け根
 六角星の形


-2.5㎜  髄が葉柄に
 つながる位置
 葉で作られた養分を
 髄に貯め込む

 ほかの写真よりも
 拡大している
-5㎜  「角」は短く
 なっていく

 縦断面のの位置
-10㎜
-20㎜  三角形に
 近づく
-30㎜
-40㎜  最上部の
 「第3節45㎜」を
 反転した形となった
このように 横断面の髄の形は非常に変化に富んでいる。
ところが縦断面はあまり変化が無い。左下の断面の茎は別の二年生枝で、節の上下約7センチを切ったもの。葉柄に向けて髄の幅が広くなっていく赤線部以外は、ほぼ同じに見える。
髄は大きくならないので、成長した幹では 小さく見える。
径 約 10mm 径 40mm

4輪生枝の髄の形
四角形なのは当然?として、右写真で分枝後の髄が扁平なのは、第1節の葉柄(2葉)に向けて角を伸ばし始めているため。


花の構成
集散花序   2025.6.11. 一対の小苞
枝先につく集散花序の花梗は何度も分枝して、多数の花が下から順次咲いていくために花期が長い。花梗の主軸の一回目と二回目の分枝は、通常の枝と同じように3本の側枝を出すことが多い。
花梗の分かれ目には苞葉がつき、小花の基部には一対の小苞がつく。いずれも早落性で、落ち跡が黒く残る。
捩れた?花冠      2007.6.24.
5数性の花で、合弁花冠の副花冠(付属物)は不規則に分裂する。
花冠裂片の「中肋」に線を引いてみると確かに中心から少しずれている。しかし 捩れて見える主な原因は、各花弁が左右非対称のためで、多くのキョウチクトウ科の植物に共通する特徴である。


花の断面 断面詳細
花冠の2裂片と雄しべのひとつを取り外している。子房は上位だが、萼に隠れている。
渦を巻きながら副花冠から突き出しているのは「葯の付属物」で、上から見て時計回りに捩れている。枝葉は無毛なのに、花の中心部は毛だらけである。
花糸が湾曲して葯が中央部に集まり、雌しべを取り囲んでいる。毛で覆われた葯の基部は柱頭に接していうえに、上部は円錐状に集合しているため、これをこじ開けて花粉を届ける昆虫がめったにいないそうで、そのため結実は希となる。


果実と種子
①:直立する果実      2009.4.3.
名札のない ①の株で昔見たもの。子房は2室で熟すと裂開する。
自宅のシロバナキョウチクトウ   2009.2.2.
ほっておくと果実が弾けて 種子が飛んでいってしまうので、早めに収穫して追熟したもの。このため果皮が緑色をしている。
有毛の種子         2009.2.2.
萼が最後まで残っている。種子には冠毛があり、本体部にも短毛が密生する。



名前の由来 キョウチクトウ Nerium oleander
 キョウチクトウ:夹竹桃
中国名の音読み。キョウチクトウは中国雲南省に自生するため、『Flora of China』に載っているが、名称は「欧州夹竹桃」となっている。
現在の日本の表記では「夾」だが、中国語では「夹 jiā」が普通で、その意味は『小学館 中日辞典』によると、
 1. 挟む、 2. わきに抱える、3. 二つの物の間にある、
 4. 入り交じる、 5. 物を挟む道具
であり、「夹竹桃」の用例もある。
今まで何となく「狭い」という意味だと思っていたのだが、間違っていた!
改めて 夹竹桃 の由来を確認すると、吉田金彦『語源辞典/植物編』に、中国の本『群芳譜』に、「夾竹桃、花五弁、弁微尖、淡紅嫡豔、類(二)桃花(一)、葉狭長類(レ)竹、故名(二)夾竹桃(一)」という説明があり、「花は桃、葉は竹に似ているので 夾竹桃の名となった」ということである。つまり「夹」の意味は『中日辞典』の4.に近い。
 属名 Nerium:ギリシア語 neros 湿った に由来する
牧野富太郎の『植物學名辞典』には「neros 湿りたる」しか書かれていないので意味がわからなかったが、前出『語源辞典』に属名の解説も載っていた。
曰く「ギリシア人がキョウチクトウが湿気を好む木だと思いこみ、nerion と呼んだため」とのこと。後半の「命名物語」にも登場する。
 種小名 oleander: ?
由来がはっきりしない。
Merriam-Websterによると「中世のラテン語で、恐らく arodandrum、lorandrum あるいは ラテン語 rhododendron の変化したもの」とある。
リンネ以前には、rhododendron がキョウチクトウの名のひとつとして使われていた。後半の「命名物語」参照。
 キョウチクトウ科 Apocynaceae:
キョウチクトウ科の基準属は アポキヌム属 Apocynum Linn. (1735) で、牧野の『植物學名辞典』には apo (離れて) +kyon (犬) とある。これでは意味がわからない。
「離れて」は果実がふたつに分かれることを指すものかと思ったが、まるで違っていた。
Wikipedia に "away dog" という言葉があり、かつて(大昔に)キョウチクトウ科の dogbane (Cionura erecta) が、野犬除けの毒薬として使われたことによる、とあった。
アポキヌム属は基準属となっているにもかかわらず、キョウチクトウ科を代表するようなポピュラーな属ではない。日本には「バシクルモン」という、変わった名前の多年草がある。 
バシクルモン
北海道から新潟県にかけての日本海側に分布。外国語のような名前は、アイヌ語の「パスクル(カラス)」と「ムム(草)」に由来する 『植物の世界』 とあるが、ピンクのかわいらしい花なので、カラスには不似合いである。
別名 オショロソウ。
Apocynum venetum Linn.
var. basikurmum H.Hara
写真は 春日健二氏のホームページ「日本の植物たち」
kasuga@mue.biglobe.ne.jp)の中からお借りした。 


 
キョウチクトウ の 命名物語

壮健でたくさんの花を咲かせるためか、古くから、といっても調べたのは17世紀初めからだが、多くの文献に登場している。
は正名、 は異名
 図版は主に、Biodiversity Heritage Library より

 学名の出発点『植物の種』(1753) 以前の記載 正名・異名の対象外
名 称 著 者 備考 など
1616  De Rhododendro  ドドエンス
Rembert Dodoens (1517-1585) はフランドル(ベルギー西部からフランス北端地域)生まれの医師で植物学者。晩年ライデン大学の医学部教授となった。1554年以来、薬用草本に関する『草木誌』の版を重ねた。この本は彼の死後にわたってベルギー版からオランダ語・フランス語・英語訳されたという。

名前は Rhododendroで、現在の「ツツジ属」の名で呼んでいたことがわかる。本文中に「Nerion に似ている」という記述もあり(緑の下線部)、その他の別名もいくつか挙げられている。
本文左側の図版

後略
名 称 著 者 備考 など
1623  NERION  ボーアン 弟
Caspard Bauhin (1560-1624) は兄とともにスイスの植物学者。
『植物の劇場総覧』で 6,000種以上の植物を記載した。リンネの『植物の種』の130年前に、すでに学名を2つの名前で表す「二名法」の考えを示していた。

後略
属名は現在の Nerium の元となった NERION で、4種を記載している。
nerion はギリシア語「neros 湿った」の意味で、「ギリシア人がキョウチクトウが湿気を好む木だと思いこみ、nerion と呼んだため」。
第1種の「赤花」の項には この時点で使われていた様々な呼び名が載っている。第2種が「白花」。以下は前図左下部分の拡大。

ボーアンが採用した NERION 以外に、すでに Nerium、Oleander、 Rhododendron ❶(意味はバラの木。現在はツツジ・シャクナゲ)、Rhododaphne(バラ+ 月桂樹) の呼び名があったことがわかる。
名 称 著 者 備考 など
1700  Nerion  トゥルヌフォール  別名 Laurier-rase
Joseph Pitton de Tournefort (1656–1708) はフランスの植物学者。
『基礎植物学 Eléments de botanique, ou Méthode pour reconnaître les Plantes』で、約7千種を 約700 の属に分類した。これをラテン語に訳したのが『Institutiones rei herbariæ』で、キョウチクトウは 604ページと 第374図に記載されているが、名称はやはり Nerion である。
第374図

後略
604ページは図版374 の説明で、次の605ページに6種を載せているが、名称はすべて Nerion で始まっている。
『植物の種』以降の出版、記載  基準日:1753年5月1日
学 名 命名者 属名・備考 など
1753  Nerium oleander  リンネ  本種の正名
学名の出発点とされている リンネの『植物の種』第1巻 209ページ。

リンネはそれまで使われていた様々な名前の中から、属名に Nerium を選んだ。第1種が本種で、種小名 oleander もその中のひとつだった。
自生地はクレタ島・パレスチナ・シリア・インドとなっている。ほかの2種は、いずれも後に別属に変更された。
学 名 命名者 属名・備考 など
1768  Nerium indicum  ミラー  本種の異名
Philip Miller (1691-1777) はスコットランドの植物学者・園芸愛好家で、ロンドン チェルシー薬草園の園長を務めた。植物をアルファベット順に並べた『園芸事典 The Gardeners Dictionary』を刊行し、改定を重ねた。以下はその第8版。
前略

後略
3種が掲載されており、第1種はリンネの N. oleander
第2種がインド産とされる N. indicum で、日本の事典での多くがこの学名だった。しかし記載原本には「甘い香りがする(緑の下線部) ひと重の花」とあり、その後半にある解説にも「花色は淡い赤、麝香の香りがする」と書かれていて、香りのない今の一般的なキョウチクトウとは違うものである。なお Rhododaphne(バラ+ 月桂樹) から派生した Rose Bay が、共通した通称として使われている。


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