テイカカズラ 定家葛
Trachelospermum asiaticum Nakai (1922)
← Malouetia asiatica Siebold et.Zucc. (1846)
科 名: キョウチクトウ科 Apocynaceae
属 名: テイカカズラ属
  Trachelospermum Lem. (1851)
中国名: 亜州絡石 ya zhou luo shi
英 名: star jasmine
原産地: 本州、四国、九州。中国各地、韓国南部、台湾、インドシナ
用 途: 観賞用として 垣根や盆栽として栽培される。茎や葉を乾燥したものは絡石と呼ばれる漢方薬として、解熱・強壮剤に使われる。
2022.9.7 改定

一重で白い花。しかも良い香りがするので 好きな花のひとつで、自宅の垣根に這わせている。
つる性の常緑植物で、植物園では 柴田記念館近くの ナツミカンの木に絡んでいたが、高いところにあるうえに 実が生ったのを見た事がないので、写真はおもに自宅のもので・・・。
成長が旺盛で、ほっておくと気根を出して壁にへばり付くし、道路側にも伸び出すため、「つる」を剪定する手間が掛かるのが難点である。


本種の葉の形状は変異が多いようで、事典の説明でも「楕円、狭卵形、倒卵形に近い」の用語が並んでおり、葉の先端は「鈍頭から鋭頭、まれには尾形」となんでもあり。ごく近縁の T. jasminoides トウテイカカズラとの違いがはっきりしないが、『園芸植物大事典』の萼についての記述、
 テイカカズラ:長さ 2~3mm、花筒狭部より短い
 トウテイカカズラ:長さ 5~6mm、花筒狭部と同等か長い
を根拠に、植物園、自宅の両方ともに T. asiaticum とした。
植物園の写真はタイトルを 白、自宅のものは 黒 とする。



①:ナツミカンに絡むテイカカズラ  2011.2.22.
中央のナツミカンの上部の茶色いツル。柴田記念館側から。
この後、ナツミカンを覆いつくすように繁殖してしまった。

取り払われたテイカカズラ
2022.9.1
上部には 枯れたツルが残っている。ナツミカンの特に右下半分の枝が無くなっている。テイカカズラの繁茂のせいで陽が当たらなくなり、枯れてしまったのだろう。テイカカズラは現在は、左側のイヌマキだけに絡まっている。
太いツル      2011.2.22.
  葉の様子           ともに 2011.2.22.
植物園の個体の葉は細長い。左:冬の冷気で赤くなった葉。
右:ナツミカンの幹の回りの葉は緑色である。
自宅の葉 と 冬芽      2019.2.10.
頂芽は混芽かもしれないが、側芽は花芽。葉はほぼすべてがこのような楕円形である。
.2016.4.12       頂芽の成長 乳液
頂芽では、芽鱗の腋に数個の花序をつける。新梢の茎につく葉を苞葉と考えれば、全体を花序と捉えることもできる。
右:新梢には毛があるが脱落する。茎を千切ると、たちまち白い液が滴り落ちる。成長が旺盛で、芯摘みをしたつもりでもすぐに腋芽が伸び出してくる。
春の紅葉・落葉     2012.4.24.
無数の花         2004.5.9.
垣根に仕立て、年に数回剪定しないとこうはならない。
それぞれの花は、咲き始めからいい匂いを漂わせて数日間咲き続け、次第に黄色みを帯びる(次の写真)。開花にずれがあるため、比較的花期が長い。また、初夏に最初の花が咲いたあと、数は少ないが、伸び出した新梢にも花がつく。
花               2008.5.23.
キョウチクトウ科の特徴、ねじれた花。もともと非対称の花弁が裏側に反り返るために、いっそう捩じれて見える。平均的な花のサイズは直径 約2cm。花柄は長く さらに首(花筒・喉部)の長い花がつく
花の詳細
花の断面
柱頭のすぐ下で 雄しべが合着する。この個体の萼は、反り返らずに花筒に沿っている。
植物園の花
は 花筒狭部より短いものの、反り返っている。
葉形が極めて細長いことも含めて、次の写真 T. jasminoides トウキョウチクトウ(トウテイカカズラ)の気配がある。

参考:T. jasminoides
Wikipediaより
花筒の長さと比較しにくいが、額片は長く 反り返っている。

二股の果実 と 葉の様子     2007.10.7.
キョウチクトウ科の心皮は2つで、本種では完全に2本に分かれた果実となる。ただし めったに結実しない。
サヤが割れた状態
果実の長さは 10~15cm。種子に付いている長い毛は 約2~2.5cmもあり、種子よりも長い。束ねた形で並んでいたものが莢から外れると わずかに「渦巻いた形」で水平に広がる。
毛が開いた状態の種子
日本に自生する植物で、長い羽毛がつく種子は珍しい。


 
テイカカズラ の 位 置
写真① : C13 c 柴田記念館への道の曲がり角、イヌマキによじ登っている
 


名前の由来 テイカカズラ Trachelospermum asiaticum
 テイカカズラ : 定家葛
和名は、藤原定家の伝説にちなむ謡曲 『定家』 に由来するといわれる。
定家が思いを寄せた式子内親王の墓に 定家の思いが「カズラ」となってまつわりつくので、内親王が霊となって、その苦しみを 旅の僧に訴える というもの。
後に そのかずらを 「定家葛」と呼ぶようになった。 
 種小名 asiaticum: アジア産の という意味
かつては T. asiaticum を「チョウセンテイカカズラ」とし、テイカカズラはその変種 T. asiaticum var. intermedium とする説もあった。
 Trachelospermum : テイカカズラ属
ギリシア語の trachelos (首・頸) + sperma (種子)で、「首のような種子」。毛を頭髪に見立てたものか? 
 キョウチクトウ科 Apocynaceae:
キョウチクトウ科の基準属は アポキヌム属 Apocynum Linn. (1735) で、牧野富太郎の『植物学名辞典』には apo (離れて) +kyon (犬) とある。これもまた、意味がわからない。
「離れて」は果実がふたつに分かれることを指すものかと思ったが、Wikipedia に "away dog" という言葉があり、かつて(大昔に)キョウチクトウ科の dogbane (Cionura erecta) が、野犬除けの毒薬として使われたことによる、とあった。
アポキヌム属は基準属となっているにもかかわらず、キョウチクトウ科を代表するようなポピュラーな属ではない。日本には「バシクルモン」という、変わった名前の多年草がある。 
バシクルモン
北海道から新潟県にかけての日本海側に分布。外国語のような名前は、アイヌ語の「パスクル(カラス)」と「ムム(草)」に由来する 『植物の世界』 とあるが、ピンクのかわいらしい花なので、カラスには不似合いである。
別名 オショロソウ。
Apocynum venetum Linn.
var. basikurmum H.Hara
写真は 春日健二氏のホームページ「日本の植物たち」
kasuga@mue.biglobe.ne.jp)の中からお借りした。 


 
テイカカズラ属 Trachelospermum の命名物語

GRINのリストを見ていたら、テイカカズラ属に「conserved (nom. cons.) with a conserved type」というコメントがあったので調べてみた。
は正名、 は異名
内は 推定事項
  肖像写真は Wikipediaより
  図版は、Biodiversity Heritage Library より
2022.11.9 内容を追加修正
『植物の種』以降の出版、記載  基準日:1753年5月1日
学 名 命名者 属名・備考 など
1825  Rhyncospermum  ラインヴァルト  キク科
 Rhyncospermum verticillatym
Caspar Georg Carl Reinwardt (1773–1854) はオランダの植物学者。
キク科の植物を『Sylloge plantarum novarum itemque minus cognitarum ~』p.7 に記載した。
属名は「嘴状の種子の」という意味で、GRINにあるものの、そこに登録されている 種 はない。
1844  Rhyncospermum  A. ドゥ カンドール  キョウチクトウ科
Alphonse P. de Candolle (1806-1893) はスイスの植物学者で、ジュネーブ大学教授。植物の命名法の原案をつくり、現在の命名規約の元となった。
父もスイスの植物学者で Augustin P. de Candolle (1778-1841) 。
テイカカズラ属を『Prodromus systematis naturalis regni vegetabilis』第8巻 p.431 に記載した。
ドゥ カンドール
ところが ①と同じ綴りだった。現在の命名規約では、たとえ科が違っていても同じ属名は認められないため、異名となっている。
学 名 命名者 属名・備考 など
1846  Rhynchospermum jasminoides  異名
 リンドリー
John Lindley (1799-1865) はイギリスの植物学者・園芸家。高等教育を受けることが叶わなかったが、ジョセフ・バンクス、ウィリアム・キャトレーの仕事をするなどして研鑽し、21歳でロンドン・リンネ協会の会員となった。生涯で多くの専門書・園芸書を著し、自ら図版も描いた。
初めてトウキョウチクトウ(トウテイカカズラ) を記載したのは『The Journal of the Horticultural Society of London』第1巻 p.74 。
リンドリー
シンプルな線描画だが実態をよく表しており、萼片が長くて反り返っている(次の図)。
標本を上海で採取したのは、ロバート・フォーチュン。

なお③の属名は、ドゥ カンドールが記載した属名に " h " が余分にはいっていたが、②と同等として扱われている。
1851  Trachelospermum  ルメール  正名 ただし 保留タイプ
 を伴った保留名
 Trachelospermum jasminoides
Charles Antoine Lemaire (1800-1871) はフランスの植物雑誌編集者・植物画家・植物学者。古典文学の教授になったのちに植物に興味をもった。著書はないが、雑誌などに多くの論文を発表している。
トウキョウチクトウ(トウテイカカズラ)を 新しい属に記載し直したのは、『Jardin fleuriste』という年間誌の第1巻 。
ルメール
この雑誌にはところどころに図版が挿入されているが、トウキョウチクトウの図は無く、記述だけである。

考察:
ひとつひとつの種には、基準となる標本「タイプ標本」が必要とされている。このため現在は、新種を定義する時には標本の提出が義務付けられているが、古い出版物では標本の代わりに「図」も「タイプ」となりうる。
そこで、確証はないが以下のように考えた。
④の定義では トウキョウチクトウ の図版・標本が無いので、異名となっている リンドリーの ③ Rhync(h)ospermum jasminoides の図を「保留タイプ」と認定した。
別の言い方では、
Trachelospermum属 の基本種は T. jasminoides だが、その「タイプ」は Rhyncospermum jasminoides の図で、「保留タイプ」となっている。
このような特殊な保留名であるため、通常の保留名に対応する「棄却名」は無い。



植物の分類 : APG II 分類による テイカカズラ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
リンドウ目 マチン科、リンドウ科、キョウチクトウ科、など
キョウチクトウ科 アリアケカズラ属、バシクルモン属、トウワタ属、キョウチクトウ属
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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