アオカズラ 青葛
Sabia japonica Maxim. (1868)
科 名: アワブキ科 Sabiaceae
属 名: アオカズラ属 Sabia Colebr. (1818)
別 名: ルリヒョウタン 瑠璃瓢箪
中国名: 清風藤 qing feng teng
原産地: 四国、九州にまれに
中国 中・南部
用 途: 観賞用。漢方では茎や枝を水腫・関節痛などに利尿剤として用いる

アオカズラは分類標本園の中頃に植えられている。標本園では大きくなりすぎないように、毎年 剪定、時には植え替えを行うので、自然の状態とはまったく違う。

樹 形 ?           2012.9.4.

そこで、福岡教育大学の福原先生の教材をお借りする。
自然の状態のアオカズラ       2007.5.10.
撮影:福岡教育大学 福原達人 掲載許可取得済み
左の写真では、太い幹から 緑の新しいツルが出ている。
右の写真でトゲに見えるのは、葉の付け根の部分 すなわち葉柄の一部が変化したものである。形成層よりも外側にあるため、幹が太くなっても埋没することなく表面に残っているが、二股に分かれた落ち跡そのものは大きくならない。葉の写真で再度説明したい。

花期の状態          2012.4.3.
春、葉に先駆けて花が咲く。

一つの冬芽から1輪~3輪    2012.4.3.
花は前年の枝の冬芽から直接咲く。咲き始めは黄緑が濃いが、雄しべが熟す頃には黄色くなる。径7ミリ程度で 花被片・雄しべの数は5。左の写真では雌しべと重なって、4本に見えている。

葉の裏 (白い部分) と 表     2012.9.4.
勢いよく伸びる「ツル」と、来年花を付ける可能性のある「普通枝」とでは、葉の付け根に違いが出る。

 ツル の観察
まず、ツルは当然? ほかのものに巻き付いて、勢力範囲を広げる。
ツルの先端         2012.9.4.
通路を越えて 隣のドクウツギに絡んでいる。9月なので 今年二度目の伸びだろう。巻き方は 進行方向を見て時計回り。(これを"右巻き" と呼ぶのが分かり易い。)

何らかの理由で先端 (成長点) が傷つくと、脇芽が出て伸び続ける。

次善の策として、トゲを作って引っかかりやすく 外れにくくする。
葉の付け根の、特殊な形に変化した葉柄が トゲ状になる ”技”は、ユリ科のサルトリイバラにも見られる。
トゲの素            2012.9.4.
若葉の時から トゲ部分は はっきりしている。ほかのものに引っ掛かるように、枝の方向(上が先端方向)に対して下向きに付いている。葉の付け根である「葉腋」には芽がある。
葉は二股に分かれたトゲの間から出てきたようにさえ見える。
 
2012.9.4.
2011.11.1.
アオカズラは落葉樹なので この後 葉が落ちるが、トゲになる部分はすでに茶色く木質化している。標本園のツルの多くは剪定されてしまうので、ツルの二年目の状態を観察しにくい。

 普通枝 の観察
花後に伸びた普通枝は ツルよりも少し幅広の葉を付け、顕著なトゲは付けない。
普通枝 と ツル
春に伸びた濃い葉の方が普通枝、ツルは夏に新しく伸びたもの。葉の形とサイズが違う。また、葉が付く向きも。

普通枝の葉の基部         2012.9.4.
落葉後は 小さいながらも基部が残る。しかしトゲとの違いは明瞭で、葉腋には来年の花芽を用意する。

膨らんできた果実      2004.6.12.
子房が2室あるので ひとつの花に二つずつの果実が付くが、片方だけが大きくなることも多い。初めは扁平。

白から青へ       2011.11.3.
実の大きさは、片側の長さでせいぜい1センチ止まり。緑に埋没しているため、注意して探さないと生っているのがわからない。

青から黒へ        2005.11.5.
もちろんすべてが一斉に青くなるわけではない。


 
アオカズラ の 位置
















 






分類標本園:  売店側から 14列目 左側


名前の由来 アオカズラ Sabia japonica

アオカズラ 青葛 :
『植物の世界』に「枝が緑色であるため」とあるが、ほかにも青いツルの植物はたくさんある。アオキ や アオギリの幹のようにいつまでも青ければ別だが、アオカズラは翌年には普通の枝となってしまうので、ここはやはり「青い実の生るガズラ」だろう。

そもそも 青い実は珍しい。しかも ペア であり、「瑠璃瓢箪」の別名が付いている。しかし、最終的には黒ずんでしまう。

本当に青い実として、「世界の植物」から、インドジュズノキオウギバショウ を紹介したい。
インドジュズノキ ホルトノキ科 オウギバショウ バショウ科

種小名 japonica: 日本産の
原産地のひとつを示している。命名者マキシモヴィッチは1860年から64年まで日本に滞在し、九州にも滞在しているが、アオカズラを自分で採取したかどうかはわからない。日本の植物学者が標本を送った可能性もある。
 
属名・科名 Sabia: 不明
『植物学名辞典』を意訳すると、Sabia属のある種のベンガル地方での呼び名 sabja-lat に由来する ということだが、それ以上のことはインターネットで調べても出てこない。
 
アワブキ科 : 泡を吹く
アオカズラ属の隣、アワブキ属 アワブキは枝の中に多くの水分があり、生木を燃やすと小口から泡を吹き出すことによる。
種から実生を育てでもしないと、実験はできない。

極上の香りがするアワブキについては 別項で。
アワブキの花(つぼみ)



植物の分類 : APG II 分類による アオカズラ の位置
アワブキ科は古い分類ではムクロジ目に分類されていたが、APGでは位置が変わった上に 「アワブキ目」が新設された。それだけ分類が難しかった と言えるだろう。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
以前の分類場所 キンポウゲ目  キンポウゲ科、アワブキ科、メギ科、ツヅラフジ科、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
アワブキ目  アワブキ科
アワブキ科  アワブキ属、アオカズラ属、Ophiocaryon属
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
以前の分類場所 ムクロジ目  エングラーの分類
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
ところで 見た目には まったく違う姿のアオカズラとアワブキが、なぜ同じアワブキ科に分類されるのか? を説明できない。

「アオカズラ属は花粉を持つ雄しべが5本あってほかの2属とは異なることから、Sabiaceae をアオカズラ科とし、ほかの2属を Meliosmaceae アワブキ科とする考えもある。」 やはり、・・・。
『Mabberley's Plant-Book 3rd edition』/ D. J. Mabberley

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