セイヨウバクチノキ 西洋博打の木
Prunus laurocerasus Linn. (1753)
科 名 : バラ科 Rosaceae
属 名 : サクラ属 Prunus Linn.
  サクラ亜属 バクチノキ節
異 名 : Laurocerasus officinalis M. Roem.
原産地 : 南西アジア(イラン、トルコなど) から 東南ヨーロッパ(ブルガリア、セルビアなど)
英語名 : cherry-laurel
用 途 : ヨーロッパでは 刈り込んで生垣や 境栽にされることが多く、比較的耐寒性の強い常緑樹として、遮蔽目的に使われる。
       『園芸植物大事典/小学館』
葉が大きいので 住宅の生垣には適さない。

サクラ類の学名は 各所各人でまったく違うため、サクラ属に関しては、米国農務省のデータベース『GRIN Germplasm Resources Infor. Network』 の学名で統一する。

GRINでは サクラ類、ウメ・スモモ類、モモ類を、すべて「サクラ属」として統一している。花序の構成や果実の形状などには違いがあっても、遺伝子的には変わりが無い というのが、その根拠だと思われる。

その結果、サクラ属 Prunus の中を、次の3つの亜属に分けている。
  サクラ亜属 Cerasus、スモモ亜属 Prunus、モモ亜属 Amygdalus
さらに分類を判りやすくするために、亜属は多くの「節」に分けられ、セイヨウバクチノキ や バクチノキは、サクラ亜属 バクチノキ節 Laurocerasus に属す。

サクラ属の中を 以下の5つに分ける考え方もある。
   ウワミズザクラ亜属、サクラ亜属、スモモ亜属、モモ亜属、
   バクチノキ亜属
さらには、これらの亜属を 5つの属として独立させる考え方もあり(大場秀章 など)、その場合は、属名だけでなく種小名まで変わる例もある。(異名 参照)


樹 形         2011.4.15.
画面の右半分がセイヨウバクチノキ。20番通りのユリノキの大木を過ぎて、常緑樹林が始まった場所の右側。奥に見える看板が 標識25番である。
開花時期に        2013.4.4.
高さは3mぐらいしかなく、枝が地面に着いている。本来は6mになる常緑低木だが、この木は風で倒されたためにこのようになってしまった。通り側からはわからないが、裏に回ると異常な樹形が見える。

幹の様子        2007.3.31.
枝が地面に食い込んで、たくさん生えているように見える。バクチで打ちのめされても またよみがえる、西洋の博打の木。

幹の様子 参考:バクチノキ

太さ 約 40センチ
← 太さ 約 14センチ
バクチノキと同じ属だが、幹が細いせいか 樹皮は剥げ落ちていない。園内にあるバクチノキも、若い 直径15センチの幹では剥がれていない。
葉の様子 と 冬芽(花芽)               2012.2.21.
葉は皮質で細長く 先端附近に浅い鋸歯がある。全縁のこともある。

膨らんだ花芽     2012.3.11.
前年に延びた枝の葉腋に、たくさんの花芽を付ける。

伸びた花序 花序の詳細         2013.3.17.
ひとつひとつの花(小花)は 早落性の苞に包まれている。

つぼみのまま        2012.4.9.
小苞がすっかり落ちても、なかなか咲かない。

開 花     2007.3.31.
当然のことながら、開花は年によって違う。長さは15~20センチ。
2011.4.15

花の詳細             2012.4.22.
ひとつの花は 1センチ程度。萼筒の内部はパパイア色、星形の萼は 淡い黄緑。長い雄しべは中央部にたたまれていて、バネ仕掛けのように広がるのはこの属に共通している。

若い果実        2013.5.15.
実の付きは非常に悪く、ほとんどできない。右側は花後に伸び出した今年の枝。2枚の托葉がある。
この後 実の観察を怠って、熟した実、種子の写真がない。

黄葉、落葉             2013.5.15.
落ちるのは2年前の葉と思われる。

新 葉         2013.5.15.
スペースがあれば 適宜枝分かれする。


 
セイヨウバクチノキ の 位置
C 6 a 20番通り、標識25の手前 右側


名前の由来 セイヨウバクチノキ Prunus laurocerasus

セイヨウバクチノキ : 外国産のバクチノキ
近縁種に国産の バクチノキ があるので、その外国種として「西洋」を付け加えたもの。しかし、セイヨウバクチノキの樹皮は剥げ落ちない。
原産地が狭い範囲の場合は、ドイツ・オーストラリア・アメリカ(合衆国)など 国名を冠す場合もあるが、本種はアジアからヨーロッパにかけての原産なので、西洋となった。

本種は 20番通りに面した場所にあり、花もたくさん咲くのでよく目立つ。一方、本家「バクチノキ」はメインスロープの左側で、ほとんど目につかない場所にある。隣り合わせに植えられていれば 名前の由来が判るかも知れないが、「西洋バクチの木」だけでは 意味不明だろう。

 ← バクチノキ : 博打の木 の意味
バクチノキは幹が太くなると樹皮が剥げ落ちる。サルスベリを初めとして 樹皮が剥げる木は多いが、バクチノキは落ち跡が赤く、林の中で異様な雰囲気となる。
博打(ばくち)に負けて身ぐるみ剥がされる という例えを名前としたのは、温帯では珍しいその色が原因となっていよう。
小石川植物園 京都植物園
京都植物園の写真は離れた位置から撮っているが、幹のサイズは同じぐらいである。全体的に落ちるためか、真っ赤になる。

種小名 laurocerasus : 月桂樹桜
英語名は cherry-laurel と逆になっているが、イメージ的に葉が月桂樹に似ているところから名付けられた。両者を並べてしまうと、葉の形が違うのが判ってしまうが、西洋では本種の葉をリースの材料に使うそうだ。
セイヨウバクチノキ ゲッケイジュ  2011.5.31.
若葉だと 鮮やかな緑色に惑わされて、似ているように思えるかも知れないが、成葉では葉の厚みや色艶なども変わってくるし、サイズが数倍となる。写真は ノン・スケール。
セイヨウバクチノキ 2013.4.4. ゲッケイジュ  2009.4.22.

Prunus サクラ属 : スモモ から
ラテン語のスモモ prunum (『植物学名辞典/牧野』によると proumne)に由来する。リンネ以前に、トゥルヌフォール(1656-1708)が命名していた。

「サクラ」の由来は、別項 サクラ・コレクション を参照の事。



植物の分類: APG II 分類による セイヨウバクチノキ の位置

バラ目であるバラ科サクラ属、クロンキストの分類では当然のように「バラ亜綱」に分類されていた。 ところがAPG分類ではさらに後から分化した「マメ群」に位置付けられた。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所   バラ目  アジサイ科、ベンケイソウ科、ユキノシタ科、バラ科、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
  バラ目  バラ科、グミ科、クロウメモドキ科、ニレ科、アサ科、クワ科、など
バラ科  カナメモチ属、サクラ属、ヤマブキ属、バラ属、キイチゴ属、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ