コレクション
2025.4.9. 改定

「サクラ」は和名としては 総称・一般名称 だが、花見といえばサクラを指すほど日本独自の文化を担ってきた。アメリカにソメイヨシノを送ったのは1912年で、100年以上が経過して、アメリカでも「hanami」という日本語が定着している。
高尾の多摩森林科学園や大阪造幣局などに較べてしまうと 種類は見劣りするが、小石川植物園内にはソメイヨシノを中心に、多くの種や品種があり、本数でも負けてはいない。 

正門上のソメイヨシノ     2009.4.7.

注) 大風のために大枝が折れ、現在はこの姿は変わり果てている。

1月下旬のカンザクラに始まって 5月初めのサトザクラまで、まるまる 3ヶ月も様々なサクラを 「都心で」楽しめるのも、植物園ならでは。園内はお酒が禁止なだけに、落ち着いて花見ができる。場所取りに苦労することもなく、座って弁当を食べるも良し、園内を歩き回って色々な場所のサクラを眺めるも良し。

このページでは各種サクラやその品種をまとめた目次とし、3月中旬までに開花するものは、おおよその開花時期順に並べてみた。その他の特に園芸品種は系統別とする。詳しいページはおいおいと・・・。


サクラ属の分類は難しい・・・。団体・人によってまるで違う学名となっている。ここでは米国農務省(USDA)のデータベース『GRIN』で統一する。
 → 別ページ「サクラ属の分類」
日本では「Cerasus 派」が優勢になってきており、小石川植物園でも2023年あたりから名札が「Cerasus」に変更された。本ホームページでは、GRIN の「Prunus」であるため、学名の項を一段追加して二段とした。
開花時期は年によって大きく違うので、あくまで目安である。

サクラ の 位置
ソメイヨシノ は、図示以外にもたくさんある。

このページは 目次・インデックスだが、詳細項目は少しずつアップしていきたい。掲載済みの項は 番号を黄色とした。
地図
番号
和 名 ・ 品 種 名 備 考
学名 GRIN( P.Prunus の略) およその開花時期
植物園の名札 ( C.Cerasus の略) 園内の位置
 1 月 〜 
@
枯れ
 ヒマラヤザクラ / ヒマラヤ桜  ヒマラヤでは秋に咲く
 園では、早ければ
 12月下旬。1月中旬だった
    C 11 d
 P. cerasoides
 枯れたため 名札無し
枯れるたびに何度か植え直されたが、結局 東京の夏の暑さに適応できなかった。
A  カンザクラ / 寒 桜  栽培品種。カンヒザクラと
 ヤマザクラの種間雑種。
 1月下旬から2月初旬
    D 10 b
 P. × kanzakura 'Preacox'
 C. × kanzakura 'Preacox'
 2 月 〜
B  カンヒザクラ / 寒緋桜  原産地:中国、台湾
 2月下旬から
    C 13 d
 P. campanulata
  C. campanulata
 3 月 〜
C  旧 カンザキオオシマ / 寒咲き大島  オオシマザクラの早咲き
 品種。良い香りがする
 APGで オオシマ となった
 お勧め。3月初旬から
 P. speciosa 'Kanzakiohshima'
 オオシマザクラ C. speciosa
D  旧名 ソウシュンザクラ / 早春桜  カンヒザクラ×マメザクラ
 2本、成長に差がある
 3月中旬頃
    C 9 d , C 10 b
 現在は 品種 オカメ  
 P. incisa 'Sousyunzakura'
  Cerasus 'Okame'
E  旧名 アンギョウカンピ / 安行寒緋  栽培品種(サトザクラ)
 一重、3月中旬から
    F 7 a
 倒壊したが ひこばえが再生
 P. lannesiana 'Angyokanpi'
  ?
F  シダレザクラ / 枝垂れ桜  遠いのでアップの写真が
   無い。3月中旬から
     C 12 b
 天空を見上る C6d もお勧め
 P. itosakura
  C. itosakura 'Pendula'
G  ヤマザクラ / 山 桜  先に出る赤い葉との
    取り合わせがよい
 3月中旬から
 D 10 b に2本、他にも
 P. jamasakura
  C. jamasakura
H  エドヒガン / 江戸彼岸  シダレザクラのもとになった
 APGでシダレザクラト同じに
 花の色は変異がある
 3月中旬から / C 6 d
 P. itosakura
枯れ   2本とも倒壊したため 無し

 ソメイヨシノ / 染井吉野  園芸品種 または 栽培品種

 3月下旬から/園内各所
 P. × yedoensis
 C. × yedoensis 'Somei-yoshino'
  ソメイヨシノの品種   サクラ園を中心に
  色々な品種がある
 4 月 〜
I  オオシマザクラ / 大島桜  白い花と緑の葉、香りもある
  ソメイヨシノの片親
   C10 d 、C11 b 他
 P. speciosa
  C. speciosa
J  オオヤマザクラ / 大山桜  北海道の花見は 本種
  色は通常濃い目だが、
  本園のは白い。 C8 d
 P. sargentii
  C. sargentii
 サトザクラ / 里 桜 各種  サクラ園を中心に
 いくつかの品種がある
 が、種類は少ない
     写真は”雨宿り”
 P. serrurata var. lannesiana
 C. Sato-zakura Groupe '○○ '
 P. は Prunus の略。



サクラの位置付け、分類
バラ科に属すことは間違いないが、属の分け方では意見が分かれている。サクラ属(Prunus スモモ属とする場合もある)に 梅や桃も含める広義の見解と、別の属とする狭義の考え方である。
2009年にAPG分類による『植物分類表』を出版した 大場秀章氏は狭義の見解であるが、その分類方法と遺伝子情報が完全には一致しない。
このため、Mabberley氏、アメリカ農務省 GRIN などは 広義の見解となっている。小石川植物園の名札も広義の見解である。
そうすると、
サクラ属には様々な種類があり、サクラとは呼ばれないものも多い。なにしろ 梅 や 桃もサクラ属となる。
科 名 : バラ科 Rosaceae
属 名 : サクラ属 Prunus Linn.  (1822)
亜属名 : サクラ亜属 Cerasus
英 名 : cherry
中国名 : 李 属
原産地 : 花が美しいサクラ類は、日本を中心として 東南アジアに多く、一部 中国とヒマラヤに自生する。
  詳しくは 別ページ「サクラ属の分類」 を参照。

 
名前の由来 サクラ Prunus
 サクラ:「咲く」から
「諸説があるが その多くはこじつけであり、咲く(接尾語)が 簡単明快。これでよい」『語源辞典/植物編』 という吉田金彦氏の考えに、大賛成である。

花の代表だった「ウメ」が 「サクラ」にその座を譲ったのは平安時代で、平安神宮紫宸殿の「左近のウメ」が「サクラ」に植え替えられたのがこれを象徴している。平安京遷都後、40年を経た承和年間(838-848)年、仁明天皇の時代だという。 『花と樹の大事典』

もちろん、当時のサクラは「山桜」が代表で、奈良時代(万葉集)や平安時代にサクラを歌に詠んだのは、庶民ではなく貴族たちだった。江戸時代になって万人のものとなったが、決して「武士道」や「軍国主義」に結びつけることなく、花を楽しみたい。 

本居宣長(1730-1801)の有名な歌、
  敷島の 大和心を人とはゞ 朝日に匂ふ 山桜花
も、理屈なしで感嘆することが 日本人の精神だ、という気持ちを詠ったものだそうだ。
 Prunus サクラ属:スモモ から
ラテン語のスモモ prunum (『植物学名辞典/牧野』によると proumne)に由来する。
リンネ以前に、トゥルヌフォール(1656-1708)が命名していた。
 

植物の分類 : APG II 分類による サクラ の位置

バラ目であるバラ科サクラ属、クロンキストの分類では当然のように「バラ亜綱」に分類されていた。 ところが APG分類ではさらに後から分化した「マメ群」に位置付けられた。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物:  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物: ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物:  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物:  種子が露出している
ソテツ 類: ソテツ、ザミア、など
イチョウ類: イチョウ
マツ 類: マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物:  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群: アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱: コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類: ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類: キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群:
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所   バラ目  アジサイ科、ベンケイソウ科、ユキノシタ科、バラ科、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
  バラ目 バラ科、グミ科、クロウメモドキ科、ニレ科、アサ科、など
バラ科 カナメモチ属、サクラ属、ヤマブキ属、バラ属、キイチゴ属、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群: ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ