ケクロピア・ペルタタ ヤツデグワ 八つ手桑
Urticaceae Cecropia peltata Linn. (1759)
← Cecropiaceae Cecropia peltata C. Berg (1978)
← Urticaceae Cecropia peltata Linn. (1759)
園外の植物

2006.10.2 雄花
科 名: イラクサ科 Urticaceae
旧科名: ケクロピア科 Cecropiaceae
        C. Berg. (1978)
属 名: ケクロピア属 Cecropia Linn. (1758)
キューバ名: Yagruma
スペイン名: yagrumo (現地名による)
原産地: メキシコ南部、中央アメリカ、西インド諸島、南アメリカ北部、コロンビア
用 途 : 極めて成長が速く、パルプ用に栽培されることがあるという。
葉は喘息を緩和する薬となる。
備 考: 雌雄異株、アリ植物。
一時期ケクロピア科がたてられたが、現在は元のイラクサ科となっている。セクロピアとも呼ばれる。
撮影地: ドミニカ共和国


温室で栽培されている C. palmata と同属近縁種。自生地は共通する部分もあるが、中南米のより広範囲の区域。
2006年と2008年に 仕事で 合計数か月間、ドミニカに滞在した時の写真を中心に掲載する。


樹 形    2006.1.22.
公園に植えられていたもの。高さ10m弱、幹の直径20cm強。地面付近にも枝がある。
首都サント・ドミンゴの植物園にもあったが、同園には「名札」がほとんどないため、初めは名前がわからなかった。
朝日百科『植物の世界』に載っているのをを見つけ、クワ科とイラクサ科に近い植物であることがわかった。ドミニカ共和国も原産地に含まれている。
下枝の無い樹形    2008.3.9.
ホテルの中庭の木を見上げる。高さ15m?、太さ約30cm。
托葉痕と葉痕がいつまでも残る。中空の枝の中にアステカ蟻を飼うそうだが、大木の幹も中空なのだろうか?この木は雄株。

それぞれが、何年目
なのかはわからない。






幹には、苞の落ち跡のリングと落葉痕の下向きの二等辺三角形が残る。幹が太くなっても高さ方向の変化はないので、三角模様がひたすら横に伸びることになる。何倍にも伸びた割には、筋目がはっきりと残っている。

枝振り          2008.3.8.
枝分かれが極端に少なく、青空がよく見える。一部に黄葉した葉がある。この木は雌株で開花中。
切れ込み波打つ葉
枝の先に付く葉はヤツデほどではないが、深く切れ込んでいる。葉柄は盾状につくので中肋が無いからか、葉脈の数は偶数でほとんどが10本。葉の大きさは、大きいもので約 45cm。
葉は、中央アメリカや南アメリカの熱帯林に棲むナマケモノの大好物だそうだが、ドミニカの公園では見かけなかった。
赤い托葉 参考:C. palmata
托葉が次の葉(および花序)を包んで保護している。モクレン類と同じで、托葉痕は茎の周りを一周する。
本種の托葉は赤くてこれが本来の特徴だが、小石川温室の C. palmata は白い。
葉の 表と裏
葉柄のつき方「盾着」が、種小名 peltata の由来である。主要な葉脈は赤褐色。
裏は、張り付いている綿毛のために黄味がかった乳白色で、表から見た時に、葉の周囲に白い部分が見えるところが美しい!

三役揃い踏み
次々と葉が出てくる割には、着葉枚数が少ない。それぞれの葉の寿命が短いものと思われる。
雄花序        2006.1.22.
開花前は総苞に包まれており①、それが各葉腋に2個ずつつく(①②、③④)。開花するとはたき状、と言っても若い人にはわからないだろうが、10個程度の尾状花序が散形につく。
はじめ黄色く細いものが、花が咲くと花粉で白くなり①、咲き終わると奥に見えるように、黒ゴマを振ったようになって②、すぐに落下する。風媒花である。
雌花序     2008.3.9.
雌花は花序の数が少なく、4~5個。各葉腋に2個つくのは雄花と同じ。
花が少ないのにこの写真を載せたのは、珍しく分枝しているため。めったに側枝は出さないが、分枝するときは、このように2ないし3本のことが多い ⒶⒷ。

この枝には多くの雌花がついており、蕾を含めると7組、そのほかに中央に脱落しかかったものも残っている。
上の方 左右の赤い状態が、開花中と思われる。
落ち葉    2008.3.9.
公園の傾斜地に生えている株立ちとなったケクロピアである。
古くなった葉は、黄色から褐色へと変色して落下する。表側を中にしてカールするため、裏側の白い色ばかりが目立ち、まるで白い骸骨が転がっているようだった。



名前の由来 Cecropia peltata
 和名:ヤツデグワ 八つ手桑
英国人3人による著書の翻訳本『樹木』に、本種の和名として「ヤツデグワ」が載っていた。
この本には、なんらかのかたちで「和名」あるいは外国での呼び名の「カナ読み」が載っている。
確かにヤツデのイメージだが、ヤツデの柄は「縁着」、この木は種小名が示すように「盾着」であるし、クワ科でもないので、ヤツデグワには賛成しかねる。
 種小名 peltata : 楯状の という意味
楯にしてはでこぼこで切れ込みが多く、複葉にも見えるためにイメージが湧かないが、葉の中央に柄が付いている状態「楯着葉」を表したものである。
表と裏のコントラストが みごとで、隣同士の葉脈が、境界付近で消滅していく。
 キューバ名、スペイン名:Yagruma ヤグルマ?
Angela Leiva氏による 『TREES of CUBA』 という本では、「ヤグルマ」を Common name としていた。
古い文献の多くに載っているので、スペイン語圏での一般名で、日本語の「矢車」とは関係なさそうだ。

 Cecropia ケクロピア属:人名に由来する
属名は、紀元前16世紀後半 ギリシア・アテネの最初の王とされている、Cecrops にちなんでいる。ただし、なぜ南米の植物がギリシャの王なのか その根拠は不明である。
保留名である Cecropia の命名の経緯は こちら


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