エノキ 
Celtis sinensis Pers. (1805)
APG分類: バラ目 アサ科 Cannabaceae
旧科名:  イラクサ目 ニレ科 Ulmaceae
属 名 : エノキ属 Celtis Tour. ex Linn.
英 名 : Chinese hackberry, Chinese nettle-tree
中国名: 朴樹 ( pu shu )
原産地 : 本州(福島県以南)、四国、九州。
朝鮮半島、台湾、中国中南部、ベトナム、タイ
用 途 : 庭園樹、公園樹、街路樹。 一里塚や道祖神のそばに植えられた。
大木となるので民話やいわれに登場する。
材は家具、器具に使われ、ケヤキの代用品ともされた。

山の中にごく普通に見られる木で、植物園の崖線斜面にも大木がある。

  @ : 70番通り        2011.1.25
園路の上に斜めに張り出した エノキ。

  2010.10.11            A : 70番通り 標識75番近くのエノキ                2011.1.5
春の芽吹き             2011.4.17
@ のすぐ先、島池(仮称)のほとりでわかり易い位置にある。  
根際で3本に分かれていたのが、太くなるにつれてお互いが密着してしまった、三連理というよりは 三幹一体のエノキ。  高さ10m強。

幹の様子

枝振り               2007.3.18
枝の先は細かく分かれ、同じ科の ムクノキ とイメージが似ているが、幹を見れば区別できる。  また、ケヤキ のような整った樹形にはならない。

エノキ ムクノキ
ムクノキの肌は ささくれ立つ。

花が咲いている様子          2011.4.17
花は 両生花と雄花が混在して咲くが、極めて小さく、目立たない。

雄花の様子            2011.4.15
雄花は新しく伸びる枝の下の方につく。  夕日で色が黄色くなっているが、白い十字の形が4枚の花弁を持つ雄花。 花弁の先端部に黄緑色の葯がある。 

右端に、これから伸びる葉や両性花が 固まっている。

                    両性花 と 雄花           2011.4.17
左側が 新しい枝の葉腋につく両性花(雄しべと雌しべの両方がある)。 
膨らんだ子房、雌しべの先端は大きくふたつに分かれている。 右側が雄花。 多くの雄花はすでに落ちてしまっている。 4枚の花弁はともにうす茶色。

                      葉の様子             2001.6.20
表面には毛が無く ツヤがある。 葉の先の半分にだけ鋸歯(ぎざぎざ)がある。  サイズは 6cm前後。

                     まだ青い実             2001.6.30
背景に水面が写っている。
事典に「果実は甘くておいしい」とあるが、まだ食べた事はない。 次回に・・・。

色付いた葉            1999.11.19

緑と黄色 佐倉市川村美術館       2011.11.6.

2001.12.1                     落ちた実を拾って                   2008.1.13
枝の先端ごと落下する。  直径 7mmの実は乾燥してしまっている。

果皮を除いた「核」には 網の目模様がある

芽生えの様子を ムクノキと比較した写真は、こちらを。

B : 細長く伸びた樹形    2011.1.23
       中央がエノキ↓

周りに木があるために 上へと伸びた大木。  本来の樹形ではない。

 
エノキ の 位 置
写真@: F8 a
70番通り 右
写真A: F7 c 70番通り 右、島池(仮称)の端 標識75番
E14 d
F12 c
F11 c
F12 c
F12 a
F11 a
F10 c
E13 b
E12 d








60番通り 右側斜面(標識61の先)
60番通り 右側斜面(標識62の手前)
60番通り 右側斜面(標識62 - 63間)
標識62→51への道の右斜面
標識62→51への道の右斜面
50番通り 右側斜面 2本
50番通り 左側
40番通り 左手
40番通り 左手 2本
写真B: E8 b 40番通り 石段の途中
D3 c 日本庭園の傾斜地
B3 c カリン林 右手
未調査の場所に もっとありそうだが とりあえず・・・

名前の由来 エノキ Celtis sinensis

和名 エノキ
エノキの名前の由来はたくさんあり、どれが定説とはなっていない。
やはり A番であろうか。

 @ 枝の木: よく分枝し 枝が多いところから
 A 柄の木: 材がやや硬く裂けにくいために器具の柄に使われた
 B 餌の木: 小鳥が好んで実を食べるため
 C 燃えの木: よく燃えるため
 D 選りの木: 一里塚に植えられる選ばれた木 エリノキ→エノキ
 E サエの木: 道祖神を「サエの神」と呼ぶところから
                               サエノキ→エノキ
 
和名 
一里塚や道祖神の脇に植えられて 一休みする木陰を作るところから、漢字とは別に「夏の木」という意味で使われたようだ。
 
種小名 sinensis : 中国の という意味
原産地のひとつを示している。
 
英語名 Chinese hackberry
hackberry はエノキ属一般を指す。
hack は「斧、つるはし」 などの道具のことであり、和名の A番と同じ。
 
中国名 朴 樹 pu shu
由来は不明。  朴 (ぼく) には「木の皮」、「すなお。うわべを飾らない」という意味がある。 エノキの樹皮に特別な特徴はないと思うので、「飾り気のない、変哲のない木」ということだろうか。
 
Celtis 属 : 
紀元前のギリシア詩人 ホメーロス が架空の甘い果実あるいはその木に付けた名前が、後に転用されたものだという。
 
アサ科 Cannabaceae :
広義のアサは、繊維が取れるほかの植物(アマなど)も含まれる。
由来としては、
@ 青い皮から繊維(ソ)を採るところから、「アオソ」が転訛した
A 青割「アオサキ」の略語
B 「浅い」の意味から     などの諸説がある。
アサ (中国で撮影)
日本では所持することも
禁止である。
 
 旧科名 ニレ科 Ulmaceae :
15属 200種があり、日本のニレ属 Ulmus には ハルニレ・アキニレ・オヒョウ がある。
植物園には 分類標本園に「アキニレ」があった。
名前の由来は 後日に。


エノキ の学名について

@ : Celtis sinensis 変種
現在は 左側の学名が支持されているようだ。 (ただし、APG分類ではアサ科) 植物園でも、一番目立つところにある島池(仮称)のほとりの木のものは、新しい名札に付け替えられている。  山の中の多くの名札は 以前のままである。

命名の経緯を以下に示す。

西暦 学名 命名者 備 考
1. 1805  Celtis sinensis  C. H. Persoon 結果的に 現在の正名
2. 1873  C. japonica  J. E. Planchon 恐らく日本で採取したものを、別の種
として 記載・発表した。
3. 1914  C. sinensis var. japonica  中井猛之進 2. は 1. の別種ではなく「変種」である、
とした。
これが長らく受け入れられていた。
標本の再判定の結果、2. 3. は結局 1. と
同じ種である、と結論付けられた。


 トピックス 一里塚のエノキ

志村の一里塚

江戸時代の一里塚には エノキが植えられることが多かった。 その理由としては
  @ 土地を選ばず良く育成する。
  A 大きく成長して遠くからの目印となる。
  B 旅人に木陰を提供する。 などが考えられる。
板橋区教育委員会の説明によると、都内ではここ 板橋区 志村 と 北区 西ヶ原の二箇所だけとのこと。 志村の一里塚は国の史跡に指定されている。

長くなるが、説明の前半を ほぼそのまま引用する。
江戸に幕府を開いた徳川家康は、街道整備のため、1904年(慶長9年) 2月に諸国の街道に一里塚の設置を命じた。 これにより、五間(約9m)四方、高さ一丈(約3m)の怩ェ江戸日本橋を起点として 一里(約4km弱)ごとに、道を挟んで二基ずつ築かれた。
志村の一里塚は、本郷森川宿、板橋平尾宿に続く中山道の第三番目の一里塚として築かれたもので、1830年(天保元年)の『新編武蔵風土記』では、「中山道往還の左右にあり」と紹介されている。
幕末以降、十分な管理が行き届かなくなり、さらに 1876年(明治9年)に廃毀を命じた法が下されるに及び 多くの一里塚が消滅していったが、志村の一里塚は 1933年(昭和8年)から行われた 新中山道の工事の際に、周囲に石積みがなされて土砂の流出をふせぐ工事が施されて保全され、現在に至っている。



植物の分類 APG II 分類による エノキ の位置

クロンキストの分類でのエノキは、マンサク亜綱・イラクサ目・ニレ科 に位置していたが、APG分類では全く違う位置、「マメ群・バラ目」の中に移っている。
属する科もニレ科から「アサ科」となった。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
以前の分類場所 イラクサ目  イラクサ科、アサ科、クワ科、ニレ科、など
 (イラクサ目はなくなる)
ニレ科  ケヤキ属、ニレ属、エノキ属、ムクノキ属(バラ目に移動↓)
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
バラ目  バラ科、グミ科、クロウメモドキ科、ニレ科、アサ科、クワ科、など
アサ科  ムクノキ属、アサ属、エノキ属、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ