ムクノキ 椋の木
Aphananthe aspera Planch. (1873)
← Prunus aspera Thunb. ex Murr.(1784)
APG分類: バラ目 アサ科 Cannabaceae
旧科名:  イラクサ目 ニレ科 Ulmaceae
属 名 : ムクノキ属 Aphananthe
   Planch.(1848)nom. cons.
英 名 : Muku tree
中国名: 糙葉樹 ( cao ye shu )
原産地 : 関東以西の本州、四国、九州。 朝鮮半島、台湾、中国大陸の暖帯・亜熱帯
用 途 : 寺社に植えられた。熟した果実は甘く、昔は子供のおやつだった。 鳥が好んで食べる。 材は強靱で建築材・船舶材・器具に用いられる。 粗い毛のある葉は 骨や角細工の研磨に用いた。

植物園には崖地を中心に何本ものムクの大木があるが、それが植えられたものなのか、樹齢がどのくらいなのかはわからない。

まずは 比較的わかりやすい場所にあり、目通り(地面からの高さ 約 1.5 m) が 60cm以上の大木の 写真を。 言葉だけでは 場所の実感がわかないので、やはり地図が必要となる。

       ①:奥の大木   2011.2.3
奥から温室方向を見ている。カリン林は右側。高さ20.5m。
以前の分類では ニレ科だったムクノキは、仲間の ケヤキ や エノキと樹形・枝の様子が似ている。
 
ムクノキ の位置、 ① ② ③

         ②:冬の姿  2012.2.21
上の段の崖地に近い場所。すぐ近くの坂道を少し下りたところから見上げて、なんとか全体を。 径 65cm。

③ : 瘤付き
標識43 から左側に下りたところ。 傾斜地で 露出した根の一部が幹化しているようだ。辞典に「ときに木 疣(いぼ)ができる」とあるのがこれだろうか? 径75cm。


 2011.4.5          ④:ヤナギ池のムクノキ          2012.6.26
池のほとりに生えている木で、唯一、手に取れる枝がある貴重なもの。 高さ 約 15.5 m。 目通り 約 60cm。

ムクノキ の位置、④ ⑤ ⑥

                ⑤:70番通りの大木           2012.6.7
ヤナギ池の先 ラクウショウのところから見上げた写真。 根本は写っていないが 径 120cm。 右の写真はそこをずっ~と通り過ぎて、正門方向を振り返ったもの。(
ところでその左側がポッカリと空いている。(地図では⑤の隣の)

ギャップ
2011年の春に ムクノキの大木が撤去された場所だ。 根本が腐って危険になったためである。 次の写真が地面すれすれの切断面。 腐っている部分が多くて「幹」の形をなしていない。      

2011.5.13 
崖線や台地の降雨がしみ出してくるおかげで、下の段の池は「給水無し」で済んでいる。 育成部の人の話では 1mも掘ると水が湧くほど地下水位が高く、どうしても根が腐りやすいそうだ。
確かに、付近のムクノキも幹が腐ってきているものが多い。

⑥:3本のうちのひとつ

⑥:まるで 森林地帯
中島池の手前、カツラがあるあたりで、ムクノキはラベルが付いている両側の2本。

⑦:西側塀沿いの3本
中央奥に3本が重なっている。中央の一番高いものが 約 20.6 m。
支柱があるのは ウンナンエノキ。

ムクノキ の位置、⑦ ⑧

⑧:全体像がよくわかる木
70番通り ハナズオウの位置の左側。 自然樹形に近そうだ。
高さ 約 17 m。


⑦のうちの一本 傾斜地の木の根元
左の木の青いテープは、道路拡張工事に伴って「剪定する木」のしるしである。径 約90cm。
地面付近が細長く伸びている。日本で育つ木としては珍しく、幹の最下部が「板根状」になる。

巨大板根の例 Koompassia excelsa
板根とは 横に張り出した根の上部が板状になったもの。呼吸根の一種といわれ、根の下部は地中深くには入っていない。樹種によっては 背の高い木を支えているようにも見える。
その様子は トピックスの「板根の実態」をご覧下さい。

立派な板根 高さ cm

若い木の幹 径 21cm ②:太くなると 径50cm
初めのうちは伸びた部分の色が変わるだけだが、太くなると樹皮が剥がれてくる。何年目頃からなのかは わからない。

              葉の様子        2011.7.8
きれいに互生する。両面に短く粗い毛が生えていて、さわるとザラザラする。まるでサンドペーパーのようで、昔は 研磨用に使われた。(今でもか?) 次の写真は 葉の裏側、表よりも色がうすい。
いちめんに生えているわけではない。

托 葉         2014.5.19.
二枚の托葉が付くが やがて落下する。

             ジグザグの枝      2012.5.18
緑が今年出た枝、二年目の枝は 樹皮がうっすらと剥げている。

             雄花のつぼみ      2011.4.26
花は 雌雄別。雄花はたくさん付いて分かり易いが 極めて小さく、黄緑色で目立たない。

               開花中の雄花        2011.4.29
花被片(萼)と雄しべは5個。恐らく雌花はまだ咲いていない。
来年の宿題である。

            できたての青い実      2012.5.18
二つに裂けた雌しべの柱頭が まだ残っている。たくさん付く雄しべ花序の元の方に咲くのだろう。
           大きくなってきた実     2012.5.29
偶然だが 11日後に同じ実を撮ったもの。サイズが倍増している。

黄葉の開始       2012.10.31.

熟れた実        2012.10.31.
もっと前から順次熟れていた。葉が黄色くなってくると一気に秋の気配へ。
干からびてきた実      2008.11.2.
フラッシュ使用
実の直径は1cm強。柱頭や花被片が最後まで残るものもある。干からびてもなかなか落ちない。
おいしい!とは言えないが、甘くて食べられる。果肉を食べ終わると、硬い核が シャリシャリと歯にあたる。

なお ムクドリ 椋鳥 は、ムクの実を好んで食べる事から名付けられたようだ。

          梅林にいた つがいのムクドリ   2012.7.22




名前の由来 ムクノキ Aphananthe aspera

和名 ムクノキ 椋の木 :
昔からよく利用された有用樹だけに、寺社や邸宅に植えられた。単に「ムク」とも呼ばれる。 その由来の本命は、

樹皮が「剥(む)ける」、「剥く」の意味。
樹形はエノキに似ていて間違えられることも多いが、幹の様子を見れば はっきりする。剥けるのが ムクノキ。
エノキ ムクノキの樹皮
ほかにも諸説あって、
  ・葉で物を磨き剥がすから。
  ・実黒(ミクロ)の転化。
  ・木工用に用いられるので 木工(ムク)の意味。
など。

和名 
音は リョウ、意味はムクノキの事だが、なぜこの字が使われるようになったかは不明。 京は音(おん)を表しており、意味は無いようだ。 

種小名 aspera : ざらざらした という意味
葉の毛の状態を示している。

最初の命名者は 18世紀に日本にやってきたチュンベリーだが、Prunus属に分類した。これがサクラの訳はないでしょう!と思っていたら、バラ科の Prunus属ではなく、ニレ科に
   Ulmaceae Prunus aspera
と記載したようだ。(GRINのコメントによる)なぜだろう?

なお、後に日本にやってきたシーボルトは、1830年に出版した本の中に Celtis muku と、エノキ属に分類した。

中国名 糙葉樹 cao ye shu
「糙」の字の意味は、くろごめ・玄米・あらい で、やはり葉の様子から。

ムクノキ属 Aphananthe 属 :
ギリシア語の aphanes 目立たない + anthos 花 の合成である。

アサ科 Cannabaceae :
広義のアサは、繊維が取れるほかの植物(アマなど)も含まれる。 由来としては、
 ① 青い皮から繊維(ソ)を採るところから、「アオソ」
   が転訛した
 ② 青割「アオサキ」の略語
 ③ 「浅い」の意味から      などの諸説がある。
アサ (中国で撮影)
日本では所持することも
禁止である。
 
 旧科名 ニレ科 Ulmaceae :
15属 200種があり、日本のニレ属 Ulmus には ハルニレ・アキニレ・オヒョウ がある。
植物園には 分類標本園に「アキニレ」があった。
名前の由来は 後日に。

 

 エノキ属 エノキ と、 ムクノキ属 ムクノキ の違い
辞典の説明文に ほかの属との違いが説明されていることはめったにないが、『園芸植物大事典/小学館』に エノキとの違いが載っていた。
・ムクノキは葉脈が葉の鋸歯まで届いている。
・ムクノキの子葉は細長い。

ムクノキの葉

エノキの葉

子葉の比較は 種子を撒いて発芽を待ってから・・・。


 
2012年の秋から冬にかけて 両方の種子をプランターに撒いた。思いも掛けず、冬のさなかに ひとつずつが芽を出した。

ムクノキの子葉は そのイメージを裏切る細さだった。ともに子葉には毛がないが、エノキの本葉には毛が認められる。
ムクノキ エノキ  共に 2013.1.15.

最初の本葉は 両方ともに「対生」で、葉脈はすでにその特徴を示していた。  2013.2.5

二番目からは「互生」となった。                  2013.3.7
ムクノキ エノキ

原始的な植物であるイチョウの葉は 長枝では互生するので、植物の起源が対生だったとは言い切れない。

子葉や最初の本葉が なぜ 対生なのか? とりあえずの説として、初めはなるべく多くの葉を出して光合成をするため、を挙げておく。

参考までに、イチョウと同じ裸子植物であるヒノキ科 (旧スギ科)では、輪生状に複数の子葉が出る。
ラクウショウの子葉

 
ムクノキの実生 その後
樹木形態・分類学が専門の 八田洋章先生から、「高木は実生苗もどんどんと上に延び、低木は早いうちから枝分かれする」というお話を聞いていた。ところが! 育てているムクノキの実生は、早くも、しかも双葉の腋からも 枝が出だした。
2013.4.1.
双葉の腋から ①:最初の本葉の腋から
独特な双葉の形から ムクノキであることは 間違いない。観察を続けることにしよう。

実生苗は 一年間で1m88センチ伸び、頂部を枯らして越冬した。翌年には茎頂の直下、あるいは二番目の腋芽が主軸として伸び出したが、伸びはわずか10センチ程度だった。

茎頂脱落 二年目の春の状態
が 昨年の茎頂。腋芽が主軸として成長していく。(仮軸分枝)

写真右:中間部の6本の枝は昨年出たもので、二列互生そのままの枝振り。観察は 一年少々で終了することにした。

下部の側枝        2014.5.19.
双葉の位置や 第一葉の対生の腋芽から伸びた枝も健在で、2年目の新葉が出ている。



 植物の分類:  APG II 分類による ムクノキ の位置

クロンキストの分類でのムクノキは、マンサク亜綱・イラクサ目ニレ科 に位置していたが、APG分類では全く違う位置、「マメ群・バラ目」の中に移っている。
属する科もニレ科から「アサ科」となった。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
以前の分類場所 イラクサ目  イラクサ科、アサ科、クワ科、ニレ科、など
 (イラクサ目はなくなる)
ニレ科  ケヤキ属、ニレ属、エノキ属、ムクノキ属 (バラ目に移動↓)
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
バラ目  バラ科、クロウメモドキ科、ニレ科、アサ科、クワ科、など
アサ科  ムクノキ属、アサ属、エノキ属、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ