カンコノキ
Glochidion obovatum Sieb.& Zucc.(1843)
科 名 : コミカンソウ科 Phyllanthaceae
属 名 : カンコノキ属 Glochidion
  J. R. Forst. & G. Forst. (1776)
旧科名 :  トウダイグサ科 Euphorbiaceae

原産地 :

本州近畿地方以南、四国、九州、奄美諸島、沖縄諸島
用 途 :


小石川植物園の名札は トウダイグサ科であるが、『植物分類表/大場秀章』、「GRIN」ともに 新しい科 Phyllanthaceae コミカンソウ科 に分類している。

樹 形     2012.10.3.
場所は 分類表本園の中ほどで 高さ 約3メートル。上に行くほど細長く広がる樹形で6メートルにまでなるそうだが、この木は 1メートル強の所で何度か剪定されているので、自然の樹形ではない。

冬の状態    2012.2.16.
落葉樹。先端に枯れ葉が残っている。

幹の様子 剪定後に伸びた徒長枝 2012.10.3.

葉の様子
葉の形は 植物用語で「倒卵形 とうらんけい」~「倒披針形 とうひしんけい」。「倒」は先が広く、葉柄側が狭まって くさび形となっている形を指す。全体に細くて先が丸いと「箆形 へらがた」とも言う。

披針形 ホソバイヌビワ 倒披針形 マテバシイ

開花の様子       2012.10.8.
今年伸びた枝の元の方に雄花、先の方に多量の雌花が付く。花期を「夏」 としている事典があるが、6月から10月まで咲いている。
       雌花序          若い実   雄花序
花弁は無く 萼は6つに分かれている。雄花の花柄は長く 1センチ。
雌花の萼は開かない。

ミニミニかぼちゃ      2012.10.3.
径7ミリ。熟れると実は白くなる。花は次々と咲くので、同時期に様々な状態が見られる。
各室には2個の胚珠があり、勢いが良い状態では赤い実が2つずつできるが、10月で終わりに近いためか、ひとつの果実に2・3個しかなく、大きくならない種子が多かった。

赤い実         2012.10.3.
筑波植物園で、カンコノキの受粉は「ハナホソガ」が行うという展示があった。
ハナホソガは蜜や花粉を食べるわけではなく、送粉時に 雌花に卵を産んで、孵化した幼虫がカンコノキの柔らかい状態の種子を食べて育つ。
カンコノキの実には 通常6個以上の種子があり、1匹のハナホソガの幼虫が食べるのは せいぜい3個なので、受粉を助けてもらう代償として種子を食べられても 勘定が合う。

カンコノキの仲間は世界に300種もあるが、それぞれのハナホソガは特定のカンコノキの種子しか食べないので、ハナホソガも300種以上いると考えられる。
自分の実を食べてしまう昆虫に受粉を依存している関係を、絶対送粉共生と呼ぶ。
「イチジク類とイチジクコバチ」も 絶対送粉共生のひとつ。

何回かの撮影中に、黒く細長い蛾が飛んでいるのを見かけた。


 
カンコノキ の 位置

















 





分類標本園:  売店側から 13列目 一番 右端


名前の由来 カンコノキ Glochidion obovatum

カンコノキ
由来のひとつは、
和船・を四国地方で「カンコ舟」と呼んでおり、カンコノキの葉の形が似ているところから名付けた、というもの。

もうひとつは、中国から古くに伝わった 唐果物のひとつ「カッコ」が、カンコノキの果実に似ているため。
元は、昆虫の幼虫(コガネムシ・カブトムシなどの幼虫・地虫)に、粉をまぶして揚げたものから派生して、小麦粉で似た形に作って揚げた 菓子の一種。
カンコノキは日本に自生する植物であり、その名として、初めは特定の人しか食べられなかったであろう 渡来品の嗜好品の名を付ける、というのは不自然である。

別名を カボチャノキ としたい。



種小名 obovatum : 倒卵形の の意味
葉の形による。

 
Glochidion属 :
ギリシア語の「glochis カギ状の剛毛、鉤の手になった刺」の意味ということだが、何を指すのか 不明。

コミカンソウ科 小蜜柑草科 : 実の形による
コミカンソウ     2007.10.14.
5ミリ前後の小さな実の形が、扁平でミカンに似ているため。
枝に並んだ葉が まるで複葉に見えるのが特徴。
セイロン島の原産といわれているが、全世界に広がり、どこにでも いつの間にか生えてくる。

Phyllanthaceae :
ギリシア語の phyllon 葉 と anthos 花 を合成したもので、葉のように広がった枝に花が咲く種があることに由来する。
Phyllanthus epiphylanthus
フェアチャイルド熱帯植物園の写真より

エングラー や クロンキストによる 旧分類
トウダイグサ科 灯台草科 Euphorbiaceae :
20~40cmの雑草で、本州から沖縄までどこでも見ることができる。
名前は 草の形を中世の照明器具のひとつ「灯台」に例えたものといわれている。 詳しくは 別項 トウダイグサ を参照
トウダイグサ
小石川植物園 本館前



植物の分類 APG II 分類による カンコノキ の位置

以前、植物の外観や構造などの形態学的な解析で分類していた時には、よくわからない植物が トウダイグサ科に入れられていたという。葉緑素の核酸の塩基配列などを分析する手法の研究が進み、APG II 分類では、トウダイグサ目は キントラノオ目にまとめられた。

また トウダイグサ科の中も分けられて、新たにコミカンソウ科が作られた。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物 (シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所 トウダイグサ目  ←消滅。ツゲ科、シムモンドシア科、トウダイグサ科など
トウダイグサ科  コミカンソウ属、トウダイグサ属、アブラギリ属、など
マメ 群 : ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
キントラノオ目  ヤナギ科、スミレ科、トケイソウ科、ラフレシア科、
 トウダイグサ科、コミカンソウ科、フクギ科、アマ科、
 オトギリソウ科、ヒルギ科、キントラノオ科、など
コミカンソウ科  カンコノキ属、コミカンソウ属、ヒトツバハギ属、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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