ココノエギリ 九重桐
Paulownia fortunei Hemsl. (1890)
← Campsis fortunei Seem. (1867)
別 名: ミカドギリ、シナギリ
異 名: Paulownia mikado T. Ito (1912)
APG分類: キリ科 Paulowniaceae
旧科名 :  ゴマノハグサ科 Scrophulariaceae
属 名 : キリ属 Paulownia
Siebold et Zuccarini (1835)
原産地 : 中国南部
用 途 : 材を取るためにキリの代用として栽培される。

台風で倒れてしまい 切り株も撤去されため、今は見ることができない。
小石川植物園には「キリ」は植えられていないので、キリ属の植物はなくなってしまった。 ただし 管理区域内にもう一本のココノエギリがあるようだ。

「小石川植物園の樹木」のために 改めて写真を撮ろうと思ったが後の祭り、係りの人の話では、倒れたのは2008年ということであったが、2007年かも知れない。
このため 写真の枚数が少ない。

キリは古くから日本でも栽培され、昔から高貴な花として皇室の紋章にも使われてきた。 材としても重要で桐材が不足した時に、中国から「ココノエギリ」材が、大量に輸入されたそうだ。 キリよりもさらに成長が早いためか 国内で栽培もされたそうだが、現在の状況は不明である。

ココノエギリが生えていた場所
後ろの白い幹は シマサルスベリの並木

掛かっていた名札

葉の様子
この写真の撮影時期が12月であるため、葉は少なめ。

ココノエギリの花 キリの花
地面に落ちたものを並べて撮ったもの。
明らかにキリの花とは違うが、事典の記載表現は「淡い黄色」からはほど遠い。
ほんとうに ココノエギリだったのだろうか・・・。

冬の姿  2007.3.18
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前年の実が生っているが 枯れた枝があり、太い幹から徒長枝が出でいる。
この1年半後に倒れた事になるが、木が弱っていて、根がしっかり張っていなかったのかも知れない。

 
ココノエギリが生えていた場所

名前の由来 ココノエギリ Paulownia fortunei

和名 ココノエギリ 九重桐 :
九重には 数多く重なること、のほかに「皇居」の意味がある。
本種は中国原産であるが、同じく中国原産といわれる「キリ」が皇室の紋章として使われていることに影響されて命名されたのだろう。
 
別名 ミカドギリ 帝桐 :
「ミカド」は 明治天皇を指すものと思われる。

ミカドギリに関係する学名 「 Paulownia mikado (1912) "ココノエギリの異名"」 を記載したのは、 伊藤篤太郎 (1868-1914)である。 
伊藤は 江戸時代の本草学者 伊藤圭介の孫で、イギリスに留学して祖父の学業を継いだ。

植物学者であるから 学名の命名規約の事は理解していたと思われるので、通常考えられる経緯としては、
  ・ある個体を ココノエギリでも キリでもはない新種として記載
   した。
  ・結果的にはココノエギリであった。

となるが、時代背景から 「あえて」発表したという事も考えられる。

この学名を記載した 『Icones Plantarum Japonicarum』(日本植物図譜)第一巻 第四号が出版されたのは、1912年(大正元年)9月3日である。
その1ヶ月ほど前、同年(明治45年)7月30日に明治天皇が崩御しているので、Paulownia mikado は明治天皇を追悼して献上したものに違いない。
まるで、シーボルトが Paulownia imperialis をアンナ・パヴロナ大公女に捧げた時のように・・・。
 
別名 シナギリ 支那桐 :
別種 Paulownia fargesii Franch. が本来の和名「シナギリ」であるが、本種も中国原産ということがよく知られていたために、シナギリと呼ばれる。
 
種小名 fortunei : 
19世紀 イギリスの植物学者 ロバート・フォーチュン (1812-1880) を顕彰したものである。 フォーチュンは中国から多くの新種をヨーロッパに伝えると共に、「ウォードの箱」を使うなどして、2万本もの茶の木を英領インドに密輸出し、アッサムなどの茶プランテーションを始める役割を果たした。
 
写真は Wikipedia より ウォードが考案した小型温室

Paulownia 
キリ属 : 人名に由来する
キリ属の学名は シーボルト と ツッカリーニ によって1835年刊行の『日本植物誌』に新しく発表された。
当時のオランダのアンナ・パヴロナ大公女 ( ? -1865) に捧げられたものである。

シーボルトがキリを新しい属として定義したのは間違っていなかったが、ツュンベリーの『日本植物誌』にあった Bignonia tomentosa に対して、シーボルトは種小名まで新しく付け直してしまった。
このためシーボルトが命名したキリの学名 Paulownia imperialis は、後になって決められた学名の命名規約に合致せず、「異名」となってしまった。  
詳細についてはキリの項 後半の「シーボルトの来日」を参照のこと。

東南アジアに数種が分布する。
APG分類では 「キリ科」 に位置付けられた。
 
ゴマノハグサ科 胡麻の葉草科 Scrophulariaceae :
ゴマノハグサ科については、キリの項のゴマノハグサ科を参照のこと。
 


植物の分類 APG II 分類による ココノエギリ の位置

APG分類では キリ科が新設された。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
以前の分類場所 ゴマノハグサ目  モクセイ科、ゴマノハグサ科、ゴマ科、キツネノマゴ科等
 シソ目  モクセイ科、イワタバコ科、ゴマノハグサ科、キツネノマゴ科、
 ゴマ科、クマツヅラ科、ノウゼンカズラ科、シソ科、キリ科、など
キリ科  キリ属
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ