クスノキ 楠・樟・楠の木
Cinnamomum camphora J.Presl (1825)
← Laurus camphora Linn. (1753)
科 名: クスノキ科 Lauraceae
属 名: クスノキ属 Cinnamomum
Schaeff. (1760) nom. cons.
原産地: 日本の暖地(関東以西)。
台湾、中国南部、インドシナ半島
用 途: 公害に強く各地で街路樹として使われる。古くから神社・寺・庭園に植えられ、天然記念物に指定される大木が多い。材は床柱、家具、工芸品に使われる。かつては樟脳を採るために栽培された。

クスノキは寿命が長くて大木になるため 日本では人気が高く、兵庫・佐賀・熊本各県の県木であり、佐賀県では県の花ともなっている。
植物園でもツバキ園のクスノキは園内随一の大木であり、ほかにも大きな木が数本ある。

@: 樹 形        2010.10.11.
ツバキ園の大楠。 高さ 約 20.8 m。 枝張り ? m。

冬の様子       2009.2.21.
葉が赤みががる。
違う角度から見た根元      2011.1.29.
根元の寸法は、2 m×1.8 m。 
地上部から出た根が 太くなっていく様子がよくわかる。

枝振り     2011.1.29.
下から見上げると 視界は枝葉で埋まってしまう。


A:冬の三本楠        2011.1.29.
サクラ園の背景となる3本。これも太く、手前のもので目通り 1.2 mはある。手前(井戸側)が一番高く、約 24.8 m。

広がる根元
張り出して太くなった根は、@番の木よりも バランス良く 長く出ている。

B : 常緑樹林の中
20番通りの標識24番を過ぎて 右側、セイヨウバクチノキの裏にあたる。背が高い割には目立たない。


葉の様子       2011.1.29.
艶やかな葉。 揉むと匂いがする。新しい枝が赤くなっている。

若い枝は真っ青 葉の裏は白い
左は ボダイジュ並木に生えて4年経ったものだが、不要ということで切られてしまった若木である。写真の部分は2年目か? 太さが 25mmもあるのに青々としている。
樹冠の周囲に多くの葉を付けるタイプ木では、若い枝の葉腋から、たくさんの細い枝(側枝)を出して葉を茂らせる。 内部に葉を茂らせても光合成ができず、葉を育てる(展開する)エネルギーが無駄となるため、数年後には細かな枝は不要になる。引退を宣言された枝は枯れていくのだが、クスノキの場合は、大きな穴を開けた状態で枝を落とす。 

落枝の跡
この落ち跡はかなり古い。垂れ下がった枝なので、上方向が主幹。穴の直径は、へこんでいる所で、約1センチ。さらに枝が太くなると、組織が覆い被さってきて、やがて塞がれる。

花の様子       2009.5.10.
小さな花がたくさん咲く。 直径 6mmほど。

落ちた枝          2013.9.21.
秋には、大木の下に 無数の小枝が落ちている。細い枝で 太さ 7〜8ミリ。

緑の実は熟すと黒紫色となる   1999.11.22.
実の直径は 8〜9 mm。

2002.4.3             紅葉して落ちる葉          2010.11.11
左の写真は街路樹のもの。少なくとも年に2回は落葉するが、一部の葉は真っ赤になって美しい。

冬 芽        2013.1.9.
金色の産毛が付いている。

 
クスノキ の 位 置
写真@: B10 a 10番通り 右側 ツバキ園内、高さ 約 20.8 m
写真A: D9 ab ●●● 旧養生所の井戸の奥 3本、 高さ 約 24.8 m
写真B: B6 bd 標識24 と 標識15 の中間あたり
D6 a 標識35番から斜めに下ったところ 右側
D5 a 標識36番から下ったところ、トウカエデの向かい
D4 a 標識37番から下ったところ、クロマツの奥
D3 b 奥の東屋から下ったところ。 いずれも傾斜地
 
名前の由来 クスノキ Cinnamomum camphora

 和名 クスノキ:
クスの由来はたくさんあるが、香りに関係するものに真実味がある。
  ・「薫木」、クンノキ → クスノキ
  ・「香す」ことから、カス → クス
  ・「臭木」、クサノキ → クスノキ
などである。 大木になって、時には異様な樹形になるため、
  ・「奇木」、クスシキキ → クスノキ
という説が載っているが、論外だろう。 
 別名 ナンジャモンジャ:
クスノキに限った名前ではなく、その地方には見られない珍しい種類の大木に対して付けられる。
かつては 明治神宮の「ヒトツバタゴ」もそう呼ばれていたが枯れ死した。 
 種小名 camphora: 樟脳臭のある という意味
アラビア語ということである。 
 Cinnamomum クスノキ属:巻物状の香料 の意味
Cinnamomum の属名は一説に、ギリシア語の「kino 巻く」および 「amomos 香料」に由来するという。『園芸植物大事典』樹皮 正確には「内皮」から採れるスパイス、シナモンである。シナモンは すでに紀元前2世紀には中国からエジプトに輸出されて、王様たちが使う、極めて貴重な品だったといわれている。
インドを目指す航路を開拓するための大きな動機も、ニッケイ・コショウ・クローブなどの香辛料や、没薬を直接買い付けたり、植民地にして栽培することだった。

日本では「クスノキ」が代表であるために、通常の事典ではクスノキ属 を和名としているが、Wikipedia 日本語では 本属を「クスノキ属」ではなく、「ニッケイ属」としている。 
この方が正確かも知れない・・・・。約 50種がある。 
シナモンスティック
香料としてのシナモンは セイロンニッケイが最上級とされるものの、ほかの種にも香りの良いものがいくつかあり、ひとくくりに「シナモン」と呼ばれているようだ。
しかし、Wikipedia の「セイロンニッケイは もろく、柔らかい」という記述が正確だとすると、このスティックは「セイロンニッケイ」ではなく、カッシアと呼ばれる C. aromaticum など、別の種のものと思われる。購入したものは 非常に硬くて割りにくいので・・・。
Cinnamomum属 については、学名の出発点である 1753年5月以前に、パウル・ヘルマン(164?-1695) や、トゥルヌフォール(1656-1708) が定義していた。
ところが リンネはこの属を 「ゲッケイジュ属 Laurus 」 として ひと纏めにしてしまったために、『植物の種』には Cinnamomum属 がない。 
 クスノキ科 Lauraceae :
クスノキ科の基準になる属は「ゲッケイジュ属 Laurus」である。科名もまたラテン語と和名が一致していない。
クスノキ属の 50種に対して、ゲッケイジュ属は世界に2種しかないが、地中海に自生する ゲッケイジュ Laurus nobilis は、ギリシア・ローマの時代から「勝利・栄誉」の印であったのだから、西洋では代表となるのも当然である。
その名の由来は、ケルト語の「blaur あるいは laur 緑」 ということで、ごくありふれた「常緑」ということが根拠だが、ゲッケイジュの冠を優れた詩人に送って不朽の名声をたたえる、という風習への思い入れがあったようである。
ゲッケイジュ については 別項を参照。



植物の分類 : APG II 分類による クスノキ の位置
原始的な植物
 緑藻: アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物:  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物: ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物:  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物:  種子が露出している
ソテツ 類: ソテツ、ザミア、など
イチョウ類: イチョウ
マツ 類: マツ、ナンヨウスギ、マキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物:  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群: アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱: コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
クスノキ目 ロウバイ科、モミニア科、クスノキ科、ハスノハギリ科 など
クスノキ科 クスノキ属、ゲッケイジュ属、ハマビワ属、タブノキ属 など
 単子葉 類: ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類: キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群:
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群:
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群: ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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