ナンキンハゼ 南京櫨
Triadica sebifera Small (1933)
← Sapium sebiferum Roxb. (1814) 名札
← Croton sebifer (sebiferum) Linn. (1753)
科 名 : トウダイグサ科 Euphorbiaceae
属 名 : ナンキンハゼ属 Triadica Lour. (1790)
旧属名 :  シラキ属 Sapium Jacq. (1763)
ただし 現在のシラキ属は Neoshirakia
中国名 : 烏桕 wu jiu
英語名 : Chinese tallow tree
原産地 : 中国 中・南部
用 途 : 庭木、街路樹
中国では 種子から採れる蝋で蝋燭を作ったり、有毒だが質の良い種子油で石鹸を作ったりする。日本には江戸時代に伝わったとされ、蝋の採取用に栽培された。
漢方では根皮を乾燥したものを「烏臼」と呼び、利尿に用いる。


小石川植物園の名札は Sapium 属であるが、『植物分類表/大場秀章』、 「GRIN」ともに 新しい Triadica属に分類している。 

          ↓ ナンキンハゼ        2012.1.11
ナンキンハゼ↑ 園の奥側から入口方向を見ている。 ↑ ハゼノキ
ナンキンハゼが 約14m、ハゼノキは 約10m。

         ナンキンハゼ と ハゼノキ   2011.7.5
ハゼノキはウルシ科でナンキンハゼとは類縁は無い。

くねくねと曲がる ナンキンハゼの枝

幹の様子 若い枝の様子
右は一年目の枝で 太さ3cm。肥大したためにすでに樹皮に割れ目ができている。
葉 と 花序 の様子      2000.7.9.
葉には長い柄があり 先の尖った菱形の葉身(ようしん)が ひらひらと付く。枝の先端から出る花序は、つぼみが大きくなるにしたがって垂れ下がる。
 2000.6.25                2000.7.9
まだ開花していないように見えるが、ハチが舞っている。

             花序のアップ      2009.6.23
花序の長さは 20cm程度。先の方にたくさん付く「雄花」は まだ開いていないようだが、基部に付き 柱頭が3つに分かれた「雌花」は成熟している。

            雄花が開花       2008.7.11
基の方の雌花は枯れている。開花といっても 雄花雌花ともに花弁はない。
            雄花の詳細       2009.7.3
『園芸植物大事典』には雄しべの数が3本 とあるが、2本のようだ。

            結実した雌花       2009.7.3
雄花が咲く頃には すでに子房がふくれ始めている。どこか他の木の花粉を昆虫が運んできたのだろうか。

 2011.8.20          若い実          2011.10.21
同じ実で 左右では2ヶ月の差があるのに、大きさはそれ程変わらない。
三つに割れた果実      2012.11.5.
白いのが 蝋質に包まれた種子である。

早い紅葉        2012.8.31.
夏のうちから 古い葉が黄色や赤くなることがある。左はまだ枝に付いていた青い葉。(自宅の木より)

          美しい紅葉    2011.11.20
東京では 毎年こんなにきれいになるとは限らない。

           真っ赤は少なかった 2008年    2008.11.23

          部分的に赤くなることも    2011.11.4

2010.11.21           落ちても きれい           2011.11.4
右は 赤い葉を集めたもの。 すべてが赤くなるわけではない。


ナンキンハゼの 街路樹

寒いところでは育たない木だけに、利用されているのは南国が多いようだ。東京では千駄ヶ谷駅前 東京体育館と、目白の椿坂下で使われている。

その特徴は、
  ・ 超 強剪定でも 大きく枝を伸ばす
  ・ 虫が付かない、葉を食われない
  ・ 紅葉がきれい (な事もある)

 2010.4.8            東京体育館横の並木            1999.10.28
このように球形の樹形となるのは、剪定すると徒長枝(異常に長く伸びる枝)が出るからで、年に3~4回も成長する。もちろん 一回目の伸びが大きく 1.8 m。
次の写真は 自宅のナンキンハゼの一年分の枝を切ったものである。 剪定をしない 自然の状態ではこのような事はない。

           一年で 3mも伸びた枝       2009.11.18
が 各回に伸びた長さ。 そこで枝分かれして 全体が球形の樹冠となる。                   白い線は巻き尺。


                目白駅横 椿坂の街路樹          2009.12.2


 
ナンキンハゼの 位 置
E6 a 40番通り 標識47番 橋の向こう側 高さ 約 14.2 m
 

名前の由来 ナンキンハゼ Triadica sebifera

ナンキンハゼ 南京櫨 :中国原産のハゼノキ の意味。
シナハゼ、トウハゼ などとせずに「南京」を付けたのは、中国南部が原産であることを示すためである。
しかし、ハゼノキとは植物としての類縁は無い。これは 共に種子が蝋質で覆われていて、国産のハゼノキから蝋を採っていたが、後から本種が伝わり、やはり蝋が採れるので「中国のハゼ」と名付けたものだ。

「仁」から採れる油はアルカロイドを含んでいて有毒ということだが、上質な灯火用の油として また石鹸用とするために栽培された。南国ではかなりのものが野生化しているそうだ。

カラスはその毒に耐性があるのか、さかんに種子を食べていた?
それとも何か別の用途があるのだろうか? くちばしに何個も並べて器用に咥えている。
 2006.12.3                2011.11.21

種小名 sebifera : 脂肪のある の意味
種子から油が採れることから。

『植物の種』(1753)に本種を記載したリンネは、Croton属 ・ハズ属とした。Croton は男性名詞なので、形容詞である種小名も男性変化の sebifer としなければならないところを、中性と勘違い?したのか、sebiferum としてしまった。 たまには、そういうこともあるでしょう。

原産地は中国と明記されている。これは1750年から 52年にかけて中国への探検を行った、使徒のひとり ペール・オスベック(1723-1805)がリンネの元にもたらした情報で、このほかにも 600種以上の植物が『植物の種』に載せられた。
 
エングラー や クロンキストによる 旧分類
Sapium シラキ属 : 粘る の意味から
サピウム属のある種から鳥黐(とりもち)を採ったので、「粘る」の意味のラテン語古名にちなむ といわれている。

シラキ は、園内にあるので いずれ取り上げたい。
ただし、GRINなどでは シラキは Neoshirakia属に分類されている。

Triadica ナンキンハゼ属 :
tri は3つの、adica が不明だが、三数性の構造によるものだ。
双子葉植物で 三数性は珍しい。

英語名 Chinese tallow tree : 
tallow は「獣脂」 の意味で、種子に油分が豊富なためであろう。

Wikipedia には 別名として「gray popcorn tree」があった。褐色になった果実が弾けて、中に白い種子が見える様子をポップコーンに例えたもの。
 
トウダイグサ科 灯台草科 Euphorbiaceae :
20~40cmの雑草で、本州から沖縄までどこでも見ることができる。
名前は 草の形を中世の照明器具のひとつ「灯台」に例えたものといわれている。 詳しくは 別項 トウダイグサ を参照
トウダイグサ



植物の分類 : APG II 分類による ナンキンハゼ の位置

以前、植物の外観や構造などの形態学的な解析で分類していた時には、よくわからない植物が トウダイグサ科に入れられていたという。葉緑素の核酸の塩基配列などを分析する手法の研究が進み、APG II 分類では、トウダイグサ目は キントラノオ目にまとめられた。
また トウダイグサ科の中も分けられて、新たにコミカンソウ科が作られた。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物 (シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所 トウダイグサ目  ←消滅。ツゲ科、シムモンドシア科、トウダイグサ科
トウダイグサ科  コミカンソウ属、トウダイグサ属、アブラギリ属、など
マメ 群 : ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
キントラノオ目 ヤナギ科、スミレ科、トケイソウ科、トウダイグサ科など
トウダイグサ科 トウダイグサ属、トウゴマ属、ナンキンハゼ属、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ