参考ページ |
本項は 未確定事項が多く、「参考」 とする |
|
||||
科 名 : | クスノキ科 Lauraceae | |||
属 名 : | クスノキ属 Cinnamomum Schaeff. | |||
(1760) nom. cons. | ||||
正 名 : | Cinnamomum loureiroi Nees (1836) ← C. loureirii Nees (1836) |
|||
命名規約の変更によって訂正された | ||||
英 名 : | Saigon cinnamon | |||
原産地 : | 中国南部、ベトナム と考えられている | |||
用 途 : | 主に根の皮を セイロンニッケイやケイの代用として、薬用や調理用の香辛料として用いる。 |
常緑樹林内にはまとまった場所に 5本のニッケイがあり、4本には名札が付いている。 ところが 5m と離れていないのに Cinnamomum sieboldii と C. okinawense の2種類がぶら下がっている ! しかも 両方の学名とも アメリカ農務省のデータベース GRIN に無く、正名どころか異名としても出ていない。 ニッケイ類は 昔から世界的に有名な種なので、どれかがニッケイのはずだ と、英語名や中国名を頼りにして 以下のように考えた。 |
学名 | 和名 | 代表的な英語名 | 中国名 | 備 考 |
C. loureiroi Nees | ニッケイ | Saigon cinnamon Saigon-cassia |
? | |
C. aromaticum Nees | ケイ、トンキンニッケイ | cassia Chinese sinnamon |
肉桂 rou gui | 肉厚の樹皮、桂皮・ カッシアはシナモンの代用 |
C. yabunikkei H. Ohba |
ヤブニッケイ | - | 天竺桂 tian zhu gui |
|
C. verm J. Presl | セイロンニッケイ | Ceylon cinamon | 錫蘭肉桂 xi lan | 内皮をシナモンと呼ぶ |
C. burmanni Nees ex Blume |
ジャワニッケイ | Java-cassia Batavia cinnamon |
陰香 yin xiang | |
GRIN (Germplasm Resources Information Network) による | ||||
和名と中国名が食い違っていることについては、名前の由来で述べたい。 |
2013.6.4 ① : 薬草園横の ニッケイ 2014.1.28 | |
薬草園側から | 北から南を見る |
高さ 約 11 m。 事典では高さ 10~15mとあるので、立派に育っていることになる。 南側からはあまり日が当たらないために、主に東側に枝を伸ばしている。 花が咲き 実が生る。 |
② : 常緑樹林のニッケイ 2013.3.12. |
30センチほどの太い木が2本、20センチが2本、もう一本はさらに細い。 いずれも根元が傾いている。 密集地帯なので 不用意に上へと伸びた結果だろう。 ベトナム付近には 台風が無いだろうから、葉の量の割に 根の張りが少ないのか? 高いもので 13.5 m 。 |
太くなると樹皮が剥げ落ちる | 黒い色の樹皮 |
若い時は緑色 | 今年枝 2013.6.4. |
クスノキも含めて クスノキ科の新葉は、赤みがかる。 |
② 2012.5.23 新緑の様子 ① 2012.6.7 | |
葉の付き方 2013.3.12. |
すべての葉がそうではないが、一部は、軸の片側に2枚が続けて出る「コクサギ型葉序」となる。 枝の先端附近では ほぼ対生になる傾向がある。 葉は細長く、3本の葉脈が目立つ。 日本各地に自生する「ヤブニッケイ」と比較すると、二本の側脈が葉の先端近くまで伸びている。 もっとも 日本の山に ニッケイが生えていることは無いので、もし見かけたら ヤブニッケイと考えてよいだろう。 黒い果実はよく似ている。 |
ニッケイの葉脈 | ヤブニッケイの葉脈 | |
花 2013.6.4. |
花の詳細 |
クスノキ科は、モクレンなどと並んで早くに分化した植物で、「部品」は雌しべを中心に何段にも重なって配置されている。 まず花被は萼片と花弁が3枚ずつで ほぼ同じ形。 雄しべは3個ずつ4輪となっているが、咲いているのは柵の中であるため、これが限界。 |
幼 果 2013.7.17. | ||||||||
できたての果実。 右端のものは 丸い果実本体ができてきている。 この後 観察を怠ってしまって、大きくなった写真がないため、日本~中国南部までに分布する ヤブニッケイの実の写真を。 | ||||||||
|
ニッケイ の 位 置 |
写真① : | E 12 ab | ● | 薬草園の西側、垣根の外 |
写真② : | B 6 c | ● | 10番通りと20番通りの間、標識15番の手前。 大小5本 |
参考ページ |
ニッケイ類の和名や学名は混乱していて 確定できない事項が多く、学名に関しては「参考記述」 とする。 まず、様々な事典・図鑑類の ニッケイ類の学名を調べてみた。 最上等種のセイロンニッケイは C. verum で統一されているので割愛。 はじめは、牧野富太郎の図鑑の近年までのもの |
出版年 | 書名 ・著者 | ニッケイ・肉桂 | ヤブニッケイ | ケ イ | 備 考 |
1925 | 『日本植物図鑑』牧野富太郎 | 未調査だが、以下からすると 恐らく C. Loureirii だろう | |||
1940 | 『牧野日本植物図鑑』 牧野富太郎 |
C. Loureirii | C. japonicum | 初版 (昭和15年) 1958年の36版まで同様 |
|
1957 | 牧野富太郎 死去 | ||||
1969 | 『牧野新日本植物図鑑』 牧野富太郎 |
C. Loureirii | C. japonicum | 第19版、初刷は1961年 編集:前川文夫、原 寛、津山 尚 |
|
1982 | 『原色牧野植物大図鑑』 牧野富太郎 |
C. loureirii | C. japonicum | - | 編集:本田正次 |
2000 | 新訂『牧野新日本植物図鑑』 | C. loureirii | C. japonicum | 新訂 初版 編集 : 小野幹雄、大場、西田 |
|
解説 : | 牧野(富太郎) を冠する図鑑では、少なくとも 2000年までは 現在の GRIN と同じ学名が使われていた。 (ただし、種小名の語尾変化修正の前の名前
Loureirii ) 他の図鑑も 牧野に倣うものが多かった。 例 : 『原色樹木検索図鑑』 1964。 しかし、1980年代から、別の考え方が登場する。 |
出版年 | 書名 ・著者 | ニッケイ・肉桂 | ヤブニッケイ | ケ イ | 備 考 |
1989 | 『日本の野生植物』 木本編 I |
C. okinawence | C. japonicum | 編者 : 佐竹義輔、原 寛、 亘理俊次、冨成忠夫 |
|
1990 | 『園芸植物大事典』 /小学館 | C. sieboldii | 記載無し | C. cassia | 項目執筆者は 後藤利行 |
1997 | 『植物の世界』 / 朝日新聞社 | C. sieboldii | C. japonicum | C. cassia | 項目執筆者は 緒方 健 |
2000 | 『樹に咲く花』 石井、 他 | C. okinawense | C. japonicum | 記載無し | |
2004 | 『原色樹木大図鑑』 | C. sieboldii | C.tenuifolium | - | 監修 : 邑田 仁 |
2008 | 『新牧野日本植物図鑑』 牧野富太郎 |
C. sieboldii | C.tenuifolium | - | 編集 : 大橋広好、邑田 仁、 岩槻邦男 |
2012 | 『APG原色牧野植物大図鑑』 | C. sieboldii | C. yabunikkei | - | 編集 : 邑田 仁、米倉浩司 |
2016 | 『APG原色樹木大図鑑』 | C. sieboldii | C. yabunikkei | - | 編者 : 邑田 仁、米倉浩司 |
解説 : | 日本で誰が採用し始めたのかは判らないが、ニッケイの種小名は sieboldii が大勢を占めるようになる。 編者の考えに従って、牧野の死後50年を経て ついに 牧野図鑑(2008)のニッケイも変えられてしまう。 小石川植物園の元園長である邑田氏は、未だに
sieboldii にこだわっているようだ。(2012年発行の最新刊) sieboldii は、スイス バーゼル大学の教授だった メイスナーが 1861年または64年と、古くに記載していたもの。 『日本の野生植物』 木本編 115ページ ニッケイ の項に、以下の記述がある。 |
|
|
||
確かに、CD-Rom版 『 Index Kewensis Ver.2』 (1997年版)では、C. sieboldii をジャワニッケイ C.
burmanni としている。 『日本の野生植物』のこの記述は、同書がニッケイの学名を C. okinawence とする根拠のひとつとなっている。 okinawence は、鹿児島大学の初島住彦(1906-2008) が 沖縄本島北部や久米島・徳之島に自生するものが、内地栽培のものと同じものである事をつきとめ、また C. sieboldii はニッケイとは別種との見解から、C. okinawence を新種として記載したもの。 しかしこれは、「内地栽培のもの」に C.loureirii という名があることを無視した命名だと思われる。 |
出版年 | 書名 ・著者 | ニッケイ・肉桂 | ヤブニッケイ | ケ イ | 備 考 |
2009 | 『芳香植物』 朱 亮鋒 | - | C. japonicum | C. aromaticum | aromaticum を肉桂としている |
2009 | GRIN USDA | C. aromaticum | 中国名 肉桂(上に同じ) | ||
2007 | GRIN USDA | C. yabunikkei | 2006年に大場が新規記載 | ||
2013 | GRIN USDA | C. loureiroi | 2013年 原著作 loureirii を変更 | ||
解説 : | GRINによると、最近まで使われていた、ニッケイ C. sieboldii、ヤブニッケイ C. japonicum、ケイ C. cassia はいずれも「異名」である。 |
ニッケイ Cinnamomum loureiroi | |
和名 ニッケイ 肉桂 |
|
|
日本名を「肉桂」としているが、元来この語はこの種の名ではなくて、この類の根に近い樹皮の最も厚い部分の名であるので、本種をニッケイと呼ぶのは誤りであるが、古くから用いなれた名であるので、それに従った。 漢名の「桂」は慣用名。桂は本来本種の名ではなく、その主品はトンキンニッケイ、すなわち 桂、一名 牡桂 C. cassia J. Presl = C. aromaticum Nees. である。 |
|
シナモンスティック | ||
|
||
地方名 ケイシン : 桂心 ? | |
|
けいしん団子(けせん団子) | |
種小名 loureiroi : 人名による | |||||||
|
命名年 | 学 名 | 和 名 | 命名者 | 備 考 | |
Cinnamomum | ヘルマン、ブルーメ | 『植物の種』以前から使われていた | |||
1753 | 学名の出発点 『植物の種』 | Cinnamomum は Laurus にまとめられて 無し | |||
① | 1753 | Laurus cinnamomum | セイロンニッケイ | リンネ | 正規の記載だが、後に Cinnamomum 属に変更され た時点で属名と種小名が同じ「反復名 tautonym」 となり、認められなくなった |
ⓐ | 1759 | Camphora | クスノキ属 | ファブリキウス | 1753年以降でクスノキ属に付けられた最初の属名 |
ⓑ | 1760 | Cinnamomum | クスノキ属 | シャエファー | 正式には Camphora よりも後の命名だが、以前から 使われていたので、これが一般に通用した このため 保留名となっている |
② | 1790 | Laurus cinnamomum | ニッケイ | ロウレイロ | ①と同じ名を付けてしまったため無効 |
1825 | Cinnamomum verum | セイロンニッケイ | J. パースル | ①が無効になった時点で 繰り上げて正名となった | |
③ | 1836 | Cinnamomum loureirii | ニッケイ | ニース | 正名(種小名は loureiroi に訂正) |
ロウレイロが ニッケイに、すでにリンネが記載していた名前を重複して付けた原因として、ふたつの可能性が考えられる。 | |
・ セイロンニッケイ だと考えた ・ 別種と認識していたが、あえて あるいは 失念して同じ名前を付けた |
|
別種ならば新しい名前を付けるのが植物学者である。 恐らく、リンネが記載したものと同種と考えたのだろう。 『植物の種』は数行の文字による記述で、標本が無かった可能性もある。 後年 ニースが② が別種であることをつきとめて、ロウレイロを顕彰して種小名としたと考える。 Index Kewensis の「ノート」にも = Cinnamomum loureirii と書かれているが、これも近年になってからの記載だろう。 |
|
|
|
植物命名規約では最近になって、種小名の語尾変化が正しくない場合、たとえば属名の「性」と違う語尾変化で名付けてしまったものや、人名を所有格にする時に、決められた形となっていない場合など、訂正してもよいことになった。 これに従って、 原著では loureirii だったものが loureiroi に変更された。 |
以下はクスノキの項と 記述が重複する。 |
|||||
Cinnamomum クスノキ属 : 巻物状の香料 の意味 | |||||
|
|||||
|
|||||
クスノキ科 Lauraceae : | |||||
|
|||||
ゲッケイジュ | 葉 と つぼみ | ||||
小石川植物園 高さ 約7m |
|||||
|
植物の分類 : | APG II 分類による ニッケイ の位置 |
原始的な植物 |
↑ | 緑藻 : | アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など | |||||
シダ植物 : | 維管束があり 胞子で増える植物 | ||||||
小葉植物 : | ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など | ||||||
大葉植物(シダ類) : | マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど | ||||||
種子植物 : | 維管束があり 種子で増える植物 | ||||||
裸子植物 : | 種子が露出している | ||||||
ソテツ 類 : | ソテツ、ザミア、など | ||||||
イチョウ類 : | イチョウ | ||||||
マツ 類 : | マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など | ||||||
被子植物 : | 種子が真皮に蔽われている | ||||||
被子植物基底群 : | アンボレラ、スイレン、など | ||||||
モクレン亜綱 : | コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など | ||||||
クスノキ目 | ロウバイ科、モミニア科、クスノキ科、ハスノハギリ科 など | ||||||
クスノキ科 | ニッケイ属、ゲッケイジュ属、ハマビワ属、タブノキ属 など | ||||||
単子葉 類 : | ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など | ||||||
真生双子葉類 : | キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など | ||||||
中核真生双子葉類: | ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など | ||||||
バラ目 群 : | |||||||
バラ亜綱 : | ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など | ||||||
マメ 群 : | ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など | ||||||
アオイ群 : | アブラナ、アオイ、ムクロジ、など | ||||||
キク目 群 : | |||||||
キク亜綱 : | ミズキ、ツツジ、など | ||||||
シソ 群 : | ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など | ||||||
↓ | キキョウ群 : | モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など | |||||
後から分化した植物 (進化した植物 ) | ||
|
小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ |