リンボク 橉木
Prunus spinulosa Sieb.et Zucc. (1845)
科 名 : バラ科 Rosaceae
属 名 : サクラ属 Prunus
別 名 : ヒイラギカシ (柊樫)
異 名 : Laurocerasus spinulosa
     C.K.Schneid. (1906)
中国名 : 刺葉桂桜 ci ye gui ying
原産地 : 関東地方以西から沖縄の山地 常緑林内
中国各地
用 途 : 材は堅く、器具・細工物などに使われる。樹皮は染料、根と葉は薬用に使われた。

サクラの学名は 各所、各人でまったく違う。 サクラ属に関しては、米国農務省のデータベース『GRIN : Germplasm Resources Infor. Network』の学名で統一する。


園には3本のリンボクがあるが、いずれもほとんど人が歩かない 山道の50番通りにあるうえに、下部には枝がないために、全く目立たない。
その上 常緑林内にあるために全体像も撮影できず、落下物 (花と紅葉した葉) を使ったトップの写真となった。

①:50番通りを行く
下の段の標識62から始まる 50番通り。現在は、折れた枝が落下する可能性があって、標識51番で通行止めとなっている。
写真は園の奥を見ている。左が崖、右は立ち入り禁止区域で、中央の黒い幹が リンボクで 目通りの直径 約20センチ。

更に進むと ②の木が見えてくる。

②:標識52番近くのリンボク
もう一本の大木が この右斜面の上に立っている。↗

②:標識52番近くから見返す
今来た道 50番通りを振り返って見ている。

 2012.4.18  ②:全体像 ②:幹の様子  2012.10.8.
木が密集しているので 本来の樹形ではないだろう。幹はザラザラの膚。

②:枝の様子  2013.1.18.

春に紅葉して落葉            2012.4.22.
特に赤い葉を選んで
葉に鋸歯は無い。ほかの季節(特に秋)にも落葉するようだ。

2013.1.8              葉の様子              2012.9.4

低い位置には通常の葉が無い。1月で実が生っている。

ひこばえなどには鋸歯のある葉が付く。
弱い鋸歯が残る葉

新葉の展開は 秋  2012.10.8.

花の様子          2012.10.20.
新しい枝の葉腋から多数の花序が出る。日が当たる高い所にしか付かない。
強風で落ちたつぼみ 2012.10.3 咲き終わって落ちた花 2012.10.20
落ちたつぼみは まだ成長していない状態で、長いもので3センチ。
雄しべの長い花の花弁・萼は それぞれ5つ。事典を見ると セイヨウバクチノキの花にそっくりなので、参考に掲げておく。

セイヨウバクチノキ      2011.4.15.
同じバクチノキ亜属で、日本にはバクチノキが自生する。
バクチノキは、樹皮が剥がれる・花期が春・葉が大きく厚い・鋸歯が出ない などの違いがあるが、セイヨウバクチノキの樹皮は剥がれず リンボクとそっくり。ただし、その他の点は違っている。

梢に生る実        2013.1.8.
まだ青いようだ。事典によると 5~6月に黒く熟す。


 
リンボク の 位置
写真①: F 9 c 50番通り左側
写真②: E9 bd 50番通り 標識52近く 右側
E9 cd 50番通り右手 柵内

名前の由来 リンボク Prunus spinulosa

リンボク : 誤用
「橉木 lin mu」は イヌザクラの中国名。花が似ているためか、間違えて本種に「リンボク 橉木」の字を当ててしまったものである。
国内に広く自生する樹木に、中国名を間違えて付けるのはおかしな事で、原因は、その昔に渡来した中国人がイヌザクラと間違えて、「リンボク」と呼んだためだろう。
イヌザクラの花
では なぜ「橉木」が イヌザクラなのか?
「粦」の字は、もとは の部分が で ”鬼火” を意味し、燐と同義である。「橉」の字は ”おにびの木” であるから、雄しべの長い花を炎に見立てたものだろう。

種小名 spinulosa : 小さな刺の多い
若い木や ひこばえ(萌芽枝)に付く葉に、刺付きの鋸歯があるため。葉は薄くて柔らかいので、突き刺さるようなことは無い。
リンボクの葉

別名 ヒイラギガシ 柊樫 :
ヒイラギのような と言いたい気持ちはわかるが、較べてしまうと 全然違う。リンボクは細かな波で、針も弱々しい。
「樫」は 堅い材としての喩え。
ヒイラギの葉

中国名 : 刺葉桂桜 ci ye gui ying
桂桜 gui ying が「バクチノキ亜属」の呼称で、これに様々な形容詞を付け加えて種を表している。バクチノキ類は艶のある常緑の葉を持つため、「桂:モクセイ」のような葉の 桜属 としたもの。 
刺葉 ci ye は種小名と同じで、葉に刺があるため。

Prunus サクラ属 : スモモ から
ラテン語のスモモ prunum (『植物学名辞典/牧野』によると proumne)に由来する。 リンネ以前に、トゥルヌフォール(1656-1708)が命名していた。

「サクラ」の由来と分類の位置付けは、別項 サクラ・コレクション を参照の事。

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