|
||||||
科 名 : | バラ科 Rosaceae | |||||
属 名 : | サクラ属 Prunus | |||||
亜属名 : | サクラ亜属 Cerasus | |||||
別 名 : | イトザクラ | |||||
英語名 : | weeping cherry | |||||
原産地 : | GRINによると 日本(本州・四国・九州) | |||||
用 途 : | 庭園樹 | |||||
備 考 : | 平安時代から栽培され、全国各地に名木が多い。 |
サクラの学名は 各所、各人でまったく違い、様々な名前が付けられてきた。本ホームページでは、米国農務省のデータベース『GRIN』Germplasm
Resources Infor. Network の学名で統一する。そして2018年5月に学名が変更された。 後半の 命名経緯 を参照のこと。 |
一般に エドヒガン の枝垂れたものが「シダレザクラ」とされているが、GRIN の以前の学名は P. subhirtella 'Pendula' で、コヒガンザクラ(ヒガンザクラ) が枝垂れたもの、コヒガンザクラの栽培品種だった。 |
① : 枝振り 2011.4.5. |
標識35番 震災記念碑の先。周りにほかの樹木が迫っているわけではないのに背が高く、約 14mもあるのは、枝垂れる性質が少ないためか。もっとも エドヒガンの突然変異だけに、事典には20m以上になる、とある。 |
あまりに高いところで咲いているため、普通に歩いていると見過ごしてしまうので、上を向いて歩こう。 見上げると 天空に占める面積がとても大きい。 |
シダレザクラ ① の 位置 |
① : 樹 形 2012.4.9. |
トップの小さな写真とは反対側から撮ったもの。この写真は 少し色が白めに写っているが、ソメイヨシノより白いのは確か。 |
② : 温室前のシダレザクラ 2011.4.5. |
↓ |
二年後 2013年 2013.3.17. |
高さは 約7mであまり変わっていないが、周囲の枝が伸びて 地面に着きそうになっている。文句のない枝垂れ具合。色も ①よりも濃い。ハンカチノキを上回る、植物園の目玉商品になる事を期待している。 |
↓ |
19年後 2020年 2020.3.3.19. |
上背を増して、樹冠上部はさらに上へと伸びている。 |
新緑の様子 2011.5.15. |
③:カリン林横のシダレザクラ 2014.4.4. |
エドヒガン ↑ ↑ シダレザクラ |
中央に淡いピンクの花を咲かせているのは エドヒガン。シダレザクラは右の斜めに立っている木で、元の方は太い。昔は大きな木だったのだろうが、枝が少なくなり、花も少なかった。 |
台風被害 2018 2018.10.6. |
2018年9月30日の台風24号によって,シダレザクラとエドヒガン(奥)が共に倒れてしまった。エドヒガンの左側の幹は,隣の木により掛かる形で生き延びた。 |
③:根元付近の断面 | |
中央部が腐り、全体が弱ってきていた。しかし幹が折れたわけではなく、根も弱っていたために倒れたものと思われる。 |
シダレザクラ の 位置 |
①: | C6 d | ● | 標識35番 震災記念碑の先。 20通りと30番通りの間 本家である エドヒガンの隣に植えられている。 |
②: | C12 b | ● | ソメイヨシノ サクラ林と温室の間、ロープ内 |
③: | B4 b | ● | カリン林が始まる 標識26 右側。倒壊。 |
参 考: | 六義園のシダレザクラ |
植物園は4時半で閉園。照明設備もないので夜桜は楽しめないが、同じ文京区、都立六義園のシダレザクラは有名で、開花時には公開時間が延長される。 |
明るいうちから入園 010.3.30 |
まずは、夕日に映える様子。ひっきりなしに人が近づいて記念撮影をするのだが、一瞬だけの、誰もいないシャッター・チャンス! |
参考: | ベニシダレ | シダレザクラの栽培品種 |
園内にはないが、シダレザクラのピンクが濃いものは より尊ばれ、「ベニシダレ」と呼ばれる。 |
北の丸公園付近の ベニシダレ 2011.4.10 |
ニューヨーク ブルックリン植物園の ベニシダレ 2008.4.9 | |
シダレザクラ の 学名 |
GRIN の学名は Prunus subhirtella 'Pendula' から |
P. itosakura Siebold (1830) |
に変更された。(2018年5月) |
GRIN:米国農務省のデータベース Germplasm Resources Infor. Network |
シダレザクラほど、何度も事典の学名が変わる例は少ないのではないか? まず植物園に掲載されていた ①②の名札と、3つの事典類を較べてみるが、発行された年代によって学名が変わっていることがわかる。 そして今回、GRINの学名も再度の変更となった! |
P. は Prunus 、 C. は Cerasus の略、 |
事典類の名称 | シダレザクラ 枝垂れ桜 |
エドヒガン 江戸彼岸 |
種小名や品種名 などの意味 |
『園芸植物大事典』1988 | Prunus pendula | P. pendula f. ascendens | pendula : 下垂する spachiana:人名による ascendens:斜上する エドヒガンは、 シダレザクラの 枝垂れない品種の意 |
植物園の名札 ② | P. pendula f. pendula | P. pendula f. ascendens | |
『朝日百科/植物の世界』1997 植物園の名札 ① |
Cerasus spachiana | C. spachiana f. ascendens | |
大場秀章ら 2007 | C. spachiana ' Itosakura ' | C. spachiana | |
『APG原色樹木大図鑑』2016 | C. spachiana | C. spachiana f. ascendens |
この時期までは、シダレザクラはエドヒガンが枝垂れたもの という考えが定説だった。 |
ところが GRIN の近年の考えは上記の定説ではなく、「コヒガンザクラが枝垂れたもの」だった。 |
シダレザクラの遺伝子に マメザクラの要素が見うけられる、ということだろうか? この説についての詳しい理由は不明。 |
事典類の名称 | シダレザクラ | エドヒガン | 種小名の意味 |
GRINの学名 2011 | P. subhirtella 'Pendula' コヒガンが枝垂れたもの | subhirtella:やや毛のある | |
GRINの学名 2018 | P. itosakura | P. itosakura | itosakura:糸桜 |
↑ 今回の変更 |
さらに 2018年の変更では、これまでシダレザクラの変種や品種扱いだった エドヒガン や ジュウガツザクラが、遺伝子の差異が少ないためか「同一種 P. itosakura」ということになった。 |
はたして、1830年 シーボルト命名の P. itosakura に、遺伝子鑑定が可能な標本があるのだろうか。それとも別の標本、あるいは新規に現在のもので鑑定したのだろうか? 詳細は不明。 |
姿 形は違えど 学名は同じ。なんとも味気ないことに・・・。 |
シダレザクラ の命名物語 |
は正名、 | は異名、 | ||
内は 推定事項 | |||
肖像写真は Wikipediaより 図版は主に、Biodiversity Heritage Library より |
| ||||||
年 | 名 称 | 命名者 | 備 考 | |||
❶ | 1694 | Prunus | トゥルヌフォール | |||
| ||||||
| ||||||
1712 | 櫻、O、Sakira | ケンペル | 多名法で Cerasus~ | |||
| ||||||
| ||||||
| ||||||
年 | 学 名 | 命名者 | 備 考 | |||||||||
① | 1753 | Prunus | リンネ | サクラ属 | ||||||||
| ||||||||||||
この間に ツュンベリーが来日し、ケンペルの『異邦の魅力』を参考にしながら数種のサクラ属を命名したが、シダレザクラは目にはいらなかったようだ。 | ||||||||||||
② | 1830 | Prunus itosakura | シーボルト | GRINによる 正名 | ||||||||
| ||||||||||||
| ||||||||||||
| ||||||||||||
年 | 学 名 | 命名者 | 備 考 | |||||||||
③ | 1827 | Cerasus pendula | リーゲル | イトザクラの異名 | ||||||||
| ||||||||||||
④ | 1865 | Prunus subhirtella → P. x subhirtella | ミクエル | コヒガンザクラ (ヒガンザクラ) | ||||||||
参考 | ||||||||||||
| ||||||||||||
年 | 学 名 | 命名者 | 備 考 | |||||||||
⑤ | 1876 | Prunus pendula | コッホ | イトザクラの異名 | ||||||||
| ||||||||||||
⑥ | 1883 | Prunus pendula | シーボルト ex マキシモヴィッチ | 無効名 イトザクラの異名 | ||||||||
| ||||||||||||
|
||||||||||||
年 | 学 名 | 命名者 | 備 考 | |||||||||
⑦ | 1891 | Prunus subhirtella var. pendula 田中芳男 | イトザクラの異名 | |||||||||
コヒガンザクラが枝垂れた「変種」として命名。 GRINでは以前、栽培品種 P. subhirtella 'Pendula' としていたが、 現在は Prunus x subhirtella var. pendula。 | ||||||||||||
| ||||||||||||
⑧ | 1971 | Prunus spachiana | 北村四郎 | イトザクラの異名 | ||||||||
| ||||||||||||
参考:シダレザクラ P. itosakura (1830) の異名 |
シダレザクラ、エドヒガン、ジュウガツザクラが同一種となったため、GRINのシダレザクラのページには、Heterotypic Synonym (正名の種とは異なる標本 あるいは異なる記載に基づいた異名)として、15の異名が載っている (命名者は省略)。 |
https://npgsweb.ars-grin.gov/gringlobal/taxon/taxonomydetail?id=480607 |
❶ ❶v ➋ ➋f ❸v1 ❸v2 ❸v3 |
Cerasus spachiana Prunus microlepis ・Prunus microlepis var. microlepis Prunus microlepis var. smithii Prunus pendula ⑥ Prunus pendula var. ascendens ・Prunus pendula var. pendula Prunus spachiana ⑧ ・Prunus spachiana f. spachiana ・Prunus spachiana var. spachiana Prunus spachiana f. ascendens Prunus taiwaniana Hayata Prunus ×subhirtella var. ascendens ⑦ Prunus ×subhirtella var. autumnalis Prunus ×subhirtella var. pendula |
・印をつけた 基準変種・基準品種 を除くと11種となる。その中の 種小名が pendula❶、spachiana➋、subhirtella❸ の7例について書き出してみた。 シダレザクラについては 命名物語と重複する。 |
|
|
異 名 | 命名年 | 和 名 | 備 考 | |
❶ | Prunus pendula Siebold ex Maxim. | 1883 | シダレザクラ | 「命名物語」では ⑥ |
同じ名を後から付けた無効な命名 | ||||
❶v | Prunus pendula var. ascendens Makino | 1893 | エドヒガン | ❶の変種として記載 |
❶が無効であるため、これも無効 | ||||
➋ | Prunus spachiana Kitam. | 1971 | シダレザクラ | 「命名物語」⑧、 異名 |
➋ f | Prunus spachiana Carrière f. ascendens (Makino) Kitam. |
1971 | エドヒガン | 学名的には、エドヒガンはシダレザクラの 枝垂れていない「品種」としたもの |
❸v1 | Prunus ×subhirtella Miq. var. pendula Y. Tanaka |
1891 | シダレザクラ | シダレザクラは、コヒガンザクラが 枝垂れた「変種」としたもの |
「命名物語」⑦ | ||||
以前のGRINでは P.subhirtella 'Pendula' とされていた | ||||
❸v2 | Prunus ×subhirtella var. autumnalis Makino |
1908 | ジュウガツザクラ | ジュウガツザクラは、コヒガンザクラが 八重咲き、四季咲き性となったもの |
同じく、P. subhirtella 'Autumnalis' とされていた | ||||
❸v3 | Prunus ×subhirtella var. ascendens (Makino) E. Wilson |
1916 | エドヒガン? | この学名をそのまま解釈すると「コヒガン ザクラの枝垂れていないもの」となって意味 不明となるが、下記のような命名の経緯が あったために生じた学名である。 |
|
|
|||
❸ | 参考:Prunus ×subhirtella Miq. | 1865 | コヒガンザクラ | 以前は P. subhirtella |
= Prunus incisa マメザクラ × P. itosakura (エドヒガン) | ||||
参考:P. subhirtella var. ascendens の命名経緯 |
年 | 名 称 | 命名者 | 備 考 | ||||
❶ | 1883 | P. pendula | シーボルト ex マキシモウィッチ |
シダレザクラ 無効名 |
|||
|
|||||||
❶v | 1893 | P. pendula var. ascendens | 牧野 | タチザクラ | |||
|
|||||||
|
|||||||
|
|||||||
|
|||||||
1908 | エドヒガン と命名 | 牧野 | |||||
年 | 名 称 | 命名者 | 備 考 | ||||
❸v3 | 1919 | P. subhirtella var. ascendens | ウィルソン | エドヒガン と いうことになる |
|||
|
|||||||
なお、現在の GRIN の表記は、Prunus ×subhirtella var. ascendens = P. itosakura の異名 |
|||||||
シダレザクラは エドヒガン が枝垂れたものとされていたため、植物園では両者が隣同士に植えられてている。 |
↑① のシダレザクラ と エドヒガン↑ |
小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ |