ソメイヨシノ系 の 品種
Prunus yedoensis Matsumura (1901)
科 名 : バラ科 Rosaceae
属 名 : サクラ属 Prunus

近年になって、ソメイヨシノの起源が研究され、オオシマザクラとエドヒガンの交配を初めとして、ソメイヨシノと他の種との実生からの選抜を含めて、ソメイヨシノとは微妙に違う「園芸品種」が たくさん作られた。

その多くは 国立遺伝学研究所の 故 竹中 要 博士が交配実験したもののようで、ソメイヨシノに近い「イズヨシノ」などができた。 三島市の研究所には、博士が作り出したものや集めたサクラが 260種もあるそうだ。

名札は Prunus x yedoensis cv. Izuyoshino などと標記され、ソメイヨシノ (P. x yedoensis )と同じ両親から生まれた 園芸品種(略記号 cv. ) であることを示している。 厳密には 「ソメイヨシノ園芸品種」ではなく、「ソメイヨシノと同じ、ソメイヨシノ系の 園芸品種」と呼ぶべきだろう。 

ソメイヨシノの完全な再現は、できていないようだ。


小石川植物園に植えられているのは、次の 9種。
@  アマギヨシノ 天城吉野
A  イズヨシノ 伊豆吉野
B  ショウワザクラ 昭和桜
C  ソトオリヒメ 衣通姫
D  ソメイニオイ 染井匂
E  ミカドヨシノ 帝吉野
F  ミシマザクラ 三島桜
G  ミズタマザクラ 水玉桜
H  ヤマコシ 山越


 

@ アマギヨシノ 天城吉野  A B C 地区 それぞれ1本ずつ

@ アマギヨシノ の位置

A地区の アマギヨシノ          2012.4.5
北方向を見ている。 周りのソメイヨシノ(淡いピンク色)に比べて、特に咲き始めが 明らかに白い。 また、花と同時に黄緑色の葉が。 
2012年のソメイヨシノは この日 まだ満開ではなかった。 
C地区の アマギヨシノ          2011.4.12
横に広がった樹形。 超満開で 少しピンクがかっている。 近づくと はっきりとピンクがわかる。 B地区のものは枝が張っておらず 勢いが無い。

アマギヨシノの 咲き始め         2011.4.7
つぼみのピンクは濃いめだが、咲くと白い。

咲き終わりは 中心部が濃いピンクに             2012.4.13

アマギヨシノはよく結実する        2011.5.3
自家受粉ではなく、ほかの種の花粉で果実ができるようだ。 ただし、この写真で種子ができているのは 黄緑のふたつだけ。

熟すと黒くなる     2012.5.31


 

A イズヨシノ 伊豆吉野  売店の先 標識32の左側と、B地区に一本ずつ

A イズヨシノ の位置

売店の先のイズヨシノ    2012.4.5
分類表本園からサクラ林方向を見ている。 アマギヨシノに似て、咲き始めは白い印象。 葉も出ている。

5日経って さらに葉が展開        2012.4.10

イズヨシノ              2011.4.14
咲き進むと 花弁が色付く。 低い枝が無く、良い写真が撮れない。

イズヨシノ 果実の様子          2007.5.27.
花と違って 熟れ方に時間差があるので 美しい。

 

B ショウワザクラ 昭和桜  C地区に 3本

品種の命名にあたって どんな名前にするか、色々と考えたことだろう。
同じ両親から生まれて 違いは微妙な各品種であるから、勢い 名前で勝負、となる。 江戸時代に作られた「yedoensis」に対して、昭和に作られたのが「昭和桜」である。

B ショウワザクラ の位置

中央サークルに近い ショウワザクラ     2011.4.14
北から南東方向を見ている。 奥のソメイヨシノと較べると、ショウワザクラは全体に白い印象。 葉が少ないところは ソメイヨシノにそっくり。

ショウワザクラ つぼみ と 咲き始め      2012.4.9
つぼみの状態でも白いので、ソメイヨシノとは異なる。
ショウワザクラ             2012.4.9


4種の 萼の比較

ソメイヨシノの萼 昭和桜の萼
色白と 萼が長いところは、オオシマザクラの性質がより強く表れている。

母:エドヒガンの萼 父:オオシマザクラの萼


ショウワザクラ 咲き終わり         2012.4.13
濃いピンクが 網の目状に入ることもある。


 

C ソトオリヒメ 衣通姫  B地区、本体は枯れ死

C ソトオリヒメ の位置

衣通姫は 8世紀の書物である『古事記』や『日本書紀』に登場する美しい女性。 しかし、花とは関係がないようだ。

植物園のソトオリヒメは 虫にやられたのか、本体は枯れてしまった。 根元からひこばえが出ており、数年すれば花が付くだろう。

再現が望まれる ソトオリヒメ               2011.4.26
是非また咲いてほしいと願うのは、咲き始めのピンク色が 非常に美しいからだ。 昔に撮った写真で 姫を偲びたい。
昔咲いていたソトオリヒメ   2007.3.31
ソトオリヒメ              2000.4.1


 

D ソメイニオイ 染井匂 C地区、精子発見のイチョウの近く

ソメイヨシノの香りはわずかだが、ソメイニオイは良い匂いがする。 やはり色は白いのだが、咲き始めの様子は ソメイヨシノによく似ている。

Dソメイニオイ の位置

満開の ソメイニオイ          2011.4.12
広々とした いい場所に植えられている。 南方向を見ている。

ソメイニオイ つぼみと咲き始め        2012.4.9

ソメイヨシノ             2009.3.24
似ている と書いたが、並べてみると 咲いた後の色がまるで違う。 ソメイニオイは 花柄や萼筒も緑が強い。

ソメイニオイ             2011.4.9
やはり オオシマザクラに近かった。 
葉の鋸歯が細かく深い様子も ソックリだった。(次の写真)
ソメイニオイの 葉 と 果実        2011.5.15


 

E ミカドヨシノ 帝吉野  A 2本、B 1本、C 1本

E ミカドヨシノ の位置

C地区の ミカドヨシノ          2011.4.12
20番通りから ツバキ園方向を見ている。 より白い桜だが、たしか 良い匂いがする。 花柄、萼筒、萼の色に赤味は少なく、オオシマザクラよりも青いくらい。 萼筒の形や毛が少ないことも オオシマザクラ譲りだ。

白い花 ミカドヨシノ           2012.4.5


 

F ミシマザクラ 三島桜  C地区、勢いが無くなってきた

故 竹中 要博士が所属していた国立遺伝学研究所が、三島市にあるために付けられたものだろう。 しかし、年々枝が枯れて 減っていく。

F ミシマザクラ の位置

ミシマザクラ 2011           2011.4.14
ミシマザクラ 2012           2012.4.5
まだほとんど咲いていないので、よけいに ・・・・。

ミシマザクラ つぼみと咲き始め       2012.4.5


 

G ミズタマザクラ 水玉桜  C地区に 1本、枯れかけている

G ミズタマザクラ の位置
ミズタマザクラの命名の由来は不明。

ミズタマザクラ            2011.4.14
2011年は なんとか咲いている状態だった。
ミズタマザクラ            2011.4.14.
枯れてしまったか ?                  2013.3.17.
残っていた枝の芽が 枯れてしまっている。 
根際から 2mぐらいのひこばえが生えているが、園芸品種は接ぎ木されているはずなので、ミズタマザクラの復活かどうかはわからない。

ミズタマザクラの萼          2012.4.18 ソメイヨシノ
花柄、萼筒、萼 は ソメイヨシノによく似ている。
ひこばえの枝に花が咲いた時には、この写真が同定の役に立つだろう。

枯れて切られた ミズマタザクラ      2013.4.13


 

H ヤマコシ 山越  B地区に 2本

H ヤマコシ の位置

2本のヤマコシ                      2011.4.14
最後の品種 ヤマコシもまた、オオシマザクラの特徴が強い。

白い ヤマコシ            2011.4.12
葉が早く出る、花柄が枝分かれする点も オオシマザクラ譲り。



こうとてみると、ほとんどの品種が 少なくとも咲き始めは「白い」。 ソメイヨシノの淡いあわいピンク色が なかなか再現できていない事がわかった。

名前の由来 ソメイヨシノ Prunus yedoensis

ソメイヨシノ
 : 
染井村の植木屋は、初め 吉野山の桜にあやかって「ヨシノザクラ」と名付けて売り出した。 単に「ヨシノ」とも 呼ばれていたようだ。

ソメイヨシノと名付けたのは 藤野寄命(ふじの よりなが 1848-1926)である。 東京帝室博物館の職員だった藤野が 上野公園の桜を調査した時に、ヤマザクラとは違う本種を見て、ヨシノザクラでは「吉野の桜・ヤマザクラ」と混同するするからと、別の名前を付けたものだ。 

発表は 1900年(明治33年)、『日本園藝會雑誌』第92号。 本来 奈良の吉野とはまったく関係がないので「ソメイザクラ」が良いのだろうが、旧名の「吉野」も残して ソメイヨシノ とした。
 
種小名 yedoensis : 江戸の 
学名の命名者は、小石川植物園の初代園長 松村任三(まつむら じんぞう 1856-1928)である。 ソメイヨシノと命名された翌年の 1901年(明治34年)に『植物學雑誌』 第15巻 100ページに発表した。
somei では世界に通用しないと考えたのかも知れないが、江戸や明治以降の東京で もて囃されたサクラにふさわしい。
松村任三
園長在任(1897-1922)
本館内の肖像画より
学名 Prumus yedoensis について
通常 交雑種(雑種)の学名は、自然交雑も 人工交雑も 種小名の前に「 x 」を付ける。 ソメイヨシノも 「Prumus x yedoensis Matsum. 」と書くのが一般的だ。 ところが、米国農務省のデータベース『GRIN』では、「X」の無い 「Prumus yedoensis 」となっている。

はっきりした理由はわからないが、考えられるのは 松村の記載に X が無かった事。 日本植物学会で公開されている 『植物學雑誌』のバックナンバーを見て確認した。
Vol.15 No.

ソメイヨシノが人工交配種であることを表すために 「 X 」 を付けない、という説もある。 ただし、自然か人工かの決着は付いていないはずだ。

Prunus サクラ属 : スモモ から
ラテン語のスモモ prunum (『植物学名辞典/牧野』によると proumne)に由来する。
リンネ以前に、トゥルヌフォール(1656-1708)が命名していた。

「サクラ」の由来は、別項 サクラ・コレクション を参照の事。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ