ユサン 油杉 (テッケンユサン)
Keteleeria davidiana Beissn. (1891)
科 名 : マツ科 Pinaceae
属 名 : ユサン属 Keteleeria 
       Carrière (1866)
中国名: 鉄堅杉 tie jian shan
原産地 : 中国 中部・南部、台湾
用 途 : 建築材


名札は「ユサン」だが、もし和名が正しいとすれば、学名は「K. fortunei」であり、学名が正しいとすると 和名は「テッケンユサン」、中国名は「鉄堅杉」である。
本項では学名を尊重して、テッケンユサン として記述する。

樹 形 ①     2014.2.6.
   
正門からは一番遠い所、20番通りの終わり近くの針葉樹林内に二本が植えられている。① はカヤの雄株(左奥の木)に近い方で、南方向を見ている。樹木が混んでいて計測できないので高さは不明。枝は水平に出ている。

樹 形 ②   2014.12.21.
20番通りの脇。低い位置で 二股に分かれている。

幹の様子   2014.2.6.
モミやトウヒのような樹皮。

樹皮の詳細
よく見ると マツのようだ。割れたコルク質の層は角がとれていて、触っても痛くない。写真の両側部分は前日の雨に濡れて色が濃くなっている。

葉の様子   2014.12.21.
一部の葉は黄緑色で、伸びて間もないことが判る。

葉の様子       2014.12.21.
葉の形はイチイ科のカヤに似ているが、カヤがほぼ十字対生なのに対して、ユサンはまばらで螺旋状に付く。また葉裏には白い気孔帯が無い。(カヤの参考写真を参照)
葉の裏側

参考:カヤの葉 カヤの葉裏

ユサン属の枝は長枝だけで、マツやカラマツ あるいはイチョウのような短枝はない。マツ科 各属の、長枝短枝の有無をまとめてみた。
属名 学名 長枝 短枝
マツ亜科  マツ属  Pinus
モミ亜科  イヌカラマツ属  Pseudolalix
 カラマツ属  Larix
 カタヤ属  Cathaya
 ツガ属  Tsuga
 トガサワラ属  Pseudotsuga
 トウヒ属  Picea
 ヒマラヤスギ属  Cedrus 参考写真
 モミ属  Abis
 ユサン属  Keteleeria 本 種
参考:ヒマラヤスギの長枝と短枝


園内のテッケンユサンには わずかに下枝があるが、そこには花はないので観察ができないため、参考に Wikipedia から、別種 Keteleeriaevelyniana の雄花の写真を。

Keteleeria evelyniana
Wikipedia より

落ちていた球果        2014.12.21.
サイズは様々で、長いものは20センチ、短いものは4センチ。
中央のはまだうすく緑が残っていて、今年のものに間違いない。右の枝に複数が付いているのは、恐らく昨年のだろう。すべて湿った状態である。

翼がのぞく 種子
各種鱗の内側に 2個ずつの種子が付く。

種子が落ちる      2014.12.24.
緑色だった方を三日も乾燥させると、種子鱗片が開いて、見えていなかったたくさんの種子が落ち、全体に色あせてしまった。

種 子

古い球果             2011.4.26.
春の状況。この球果を拾う人は少ないためか たくさん残っているが、種子鱗片は反り返っていて 内部にはほとんど種子が残っていない。

実生苗        2014.12.21.
発芽しやすいのか、幹の足元には何本もの苗が育っていた。


 
テッケンユサン の 位 置
C3 b
20番通りの奥の方、針葉樹林内に2本


名前の由来 テッケンユサン Keteleeria davidiana

和名 テッケンユサン :
中国名 鉄堅杉の音読み、ただし 杉 の部分は 油杉 とした。
ユサンの一種で非常に堅いため。

「ユサン 油杉 you shan」の由来は、油分が多くて耐水性があり、しかも堅いために、造船材や家具材に利用されたためだが、本種はスギの類ではない。
和名でも、中国名「雪松」をヒマラヤスギと呼ぶ例があるが、中国でも、マツ属なのに「杉」と名付ける例があることがわかった。

種小名 davidiana : 人名による
中国に派遣されたフランスの伝道師 アルマン・ダヴィド (1826-1900) を顕彰したもの。
宣教活動をしながら中国各地を巡り、膨大な動物 (哺乳類、爬虫類、両生類、魚類、鳥類、昆虫 など) と植物の標本を、本国に送り続けた。

最も有名な発見は ジャイアント・パンダである。また ハンカチノキ属として Davidia が名付けられている。
David
Keteleeria 属 : 人名による
ベルギー生まれのフランス人園芸家 J. B. Keteleer (1813-1903) を顕彰したもの。命名者は同時代のフランスの植物学者 Elie Abel Carrière (1818-1896) で、園芸家でもあった。 属名の和名は ユサン属。

マツ科 :
 ① マツが長寿・常緑・切っても葉が長持ちする所から
  「タモツ」の略転。
 ② 同上、「モツ」の意味
 ③ 行く末を「待つ」の意味
 ④ 神を「待つ」の意味
など、いくつもの説がある。


植物の分類 : APG II 分類による テッケンユサン の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 マツ目  マツ科、ナンヨウスギ科、マキ科、イチイ科、ヒノキ科、など
 マツ科  モミ属、ヒマラヤスギ属、トウヒ属、マツ属、ツガ属 など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ