バルサ
Ochroma lagopus Sw. (1788)
科 名 : パンヤ科 Bombacaceae
属 名 : バルサ属 Ochroma Sw. (1788)
英 名 : balsa
原産地 : 熱帯アメリカ
用 途 : 世界で一番軽い材(比重 0.12〜0.2)の割に強度があり、浮きや救命具、運搬保護材、絶縁材、模型材料などに使われる。
               『植物の世界』より
撮影地: ドミニカ共和国

ドミニカの首都サント・ドミンゴの植物園にあったもの。

この植物園には名札がほとんど無く、現地では何の木だかわからなかった。「バルサ」はむかし学生時代に、建築設計の模型材料として使っただけに、バルサの木とわかっていれば感慨もひとしおであったろう。

もっとも、たとえ名札があっても、学名からはバルサの木ということはわからない。
 
樹 形
材が軽い木は生長が早いことが多く、バルサも数年で樹高15m 直径50cmにもなるそうだ。
この木はそれ程大きくはなく、高さも6m弱。
 
葉のようす つぼみ

 
葉には長い柄があり、パンヤ科の葉よりもアオギリ科の葉に似ている。
葉の大きさは 25cm。
右の写真では枝が枝垂れているため、下が枝先で、赤い新芽が見える。後ろの方には若い果実がある。
つぼみや新芽は、ビロードのような細かい毛で覆われている。
 
花 (右は花びらの一部を取り除いたもの)
花の大きさは元から先までで 25cmぐらい。筒状になった「萼」が大きい。写真を撮ったのは午前中で、まだ咲き始めの状態である。

花粉はコウモリが媒介するということなので、夜になるともっと開くのであろうか。
 
枝振り

 


幹の直径は 25cm程であった。
名前の由来 バルサ Ochroma lagopus

バルサ
和名はなく、昔から「バルサ」で通っている。
バルサの由来は、原産地中南米のスペイン語「筏 (イカダ)」から、となっている。

しかし、密度の小さいバルサ材は水には弱いはずであるから、このイカダは何年も使える耐久資材というわけにはいかないであろう。
使えなくなったらまた新しい木を切る。成長の早さがカバーしていたに違いない。
 
種小名 lagopus : 兎の足の如き という意味
滑らかな毛が密生したつぼみを ウサギの足に見立てたものであろうか?
果実は30cmぐらいになるとのことであるが、形状や状態がわからないため、とりあえずつぼみということにしておこう。
つぼみ ピーター・ラビット
Ochroma バルサ属 : 淡色という意味
この属の花の色が、淡色あるいは淡黄色であることに由来する。
 
パンヤ科 Bombacaceae : bombycinus (絹の糸の意) から?
『園芸植物大事典』の Bombax の由来は、「ギリシア名 bombax に由来し、種子に生える綿毛にちなむといわれる」と書かれている。

ラテン語辞典を引くと、
    bombacium : 綿、木綿
    bombycinus : 蚕・カイコの
    bombyx : カイコ
と、確かに絹に関係する言葉もある。

ワタの起源地のひとつインドでは紀元前からあったが、いつごろラテン語圏に伝わったのか。

そして、「ワタ、綿布」のラテン語は gossipium 、ワタの木は gossympinus または gossypion と、別の語源である。

bombax を名付けた人は、その繊維を 「綿毛」と見たのか、「絹糸」としたか?
糸に作られた絹は「キラキラと長い糸」のイメージなので、果実の中から現れるパンヤの綿毛は、「ワタ」の方が近い。
 

ワタのなる木ということから、キワタ科とも呼ばれる。分類学上も「ワタ」の属する「アオイ科」に近い。

熱帯に分布し、果実や種子を食用にしたり、果実の毛を綿のように利用したりと、有用種が多い。
28属200種ほどの小さなグループで、バオバブノキ属、キワタノキ属、トックリキワタ属、パンヤノキ属、ドリアン属、バルサ属、パキラ属などがある。
 
パンヤノキ 参照
 
なおバルサが属する科については、『園芸植物大事典』と『植物の世界』ともにパンヤ科で問題なさそうであるが、『日本大百科全書』ではアオギリ科、『Index Kewensis』ではアオイ科 という見解の相違があった。
 
 ドミニカのバルサ 後日談

上記の写真を撮ったのは 2006年1月の事であった。

2年後の 2008年3月に、実が生っていることを期待して再訪したのだが、残念なことに この木は枯れていた。
枯れたバルサ
熱帯の植物園でも、こんなことがあるのか.. と枯れた幹を撫でてきた。

もちろん サント・ドミンゴには設計事務所もあるが、模型作りにバルサ材が使われているかどうかは聞き漏らした。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        日本大百科全書/小学館、
        羅和辞典/研究社
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