カカオノキ  カカオの木
Theobroma cacao Linn. (1753)
科 名 : アオギリ科 Sterculiaceae
属 名 : カカオノキ属 Theobroma Linn. (1737)
英 名 : cacao
中国名: 可可 ke ke
原産地 : 熱帯アメリカ
用 途 : 種子を粉末にしたものが古くから飲料として利用されてきた。
また、それを加工したチョコレート、飲料 (ココア) にし、種子から取れる油脂はマーガリン・ポマード、座薬の基材などに使われている。
 
撮影地:
シンガポール、日本 温室

毎年2月になると、日本中に「バレンタイン」の文字が氾濫する。
 

しかし、たとえ幾つになっても「本命チョコレートを貰える」 ということは嬉しいことである。

古代から、アステカ族やマヤ族の飲料として利用されたカカオ豆は、時には貨幣として使われたというくらい、貴重なものであった。
なにしろ、属名 Theobroma は「神の食べ物」という意味である!

日本の大きな植物園では、その多くが温室でカカオノキを育てている。

この木の生育条件は難しらしく、熱帯地方(緯度が南北20度以内)で高温ならどこでもよい というわけにはいかず、条件としては上記のほかに、
    ・標高が 300〜600m
    ・年間雨量が豊富で 2,000mm以上
    ・有機質に富む土壌
    ・風が弱い
    ・やや陰地
が良く、「肥えた傾斜地が最高」 ということだ。 『園芸植物大事典』

以下、国内とシンガポール植物園の写真をミックスして構成した。
 
全体像
シンガポール植物園では、中央のビジター・センターから北側に位置する、「フルーツエリア」に10本ばかりが植えられている。

カカオは大きくなっても8m ぐらいにしかならず、この木は約6m。
 
葉の様子 長さ 30cm 幹の様子 太さ 20cm 強
花 京都植物園
特定の「科」に限ったことではないのだが、熱帯の木に多い「幹生花」。
上 右の写真は、シンガポールで8月始めに撮影。

右の花の写真は、同じ8月の下旬であるが、京都の温室内で撮った写真である。

実の様子


黄色く色付く前の実を、鳥か リスなどの動物が食べてしまっていた。
栽培農家ではどのような対策で食害を防いでいるのだろうか?

さらに熟すと、トップの写真のように黄色や赤みがかった色となる。

果実の内部は、京都植物園の模型の展示でご紹介。
アクリル板に温室の屋根の光が写り込んでしまって、見にくい。
 
実の様子

説明板の内容
種子を発酵させ(白い)果肉を取り去ったものをカカオ豆と呼ぶ。これを炒ってすりつぶし、砂糖や香料を混ぜて練り固めてチョコレートを、しぼって脂肪を取り除きココアを作る。
熱帯アメリカ原産で、古代メキシコでは苦い飲み物にして飲んでいた。

わかりにくいが、右端にカカオ豆の模型が並んでいる。

中央アメリカで突然変異で生じたと考えられている「クリオロ型」と呼ばれる種類は、発酵させる必要がないそうだ。 『園芸植物大事典』

国連の食糧農業機関の統計(2005年)によると、カカオ豆の生産量は圧倒的にコートジボワールが多く、2位のガーナの2倍近い。
地域的にはアフリカと南米が多く、インドネシアが3位にはいっているものの、東南アジアは盛んではないようだ。
名前の由来 カカオノキ Theobroma cacao

カカオ : 英語名・スペイン語名の読み
 
種小名 cacao :  
アステカ族やマヤ族が ka-ka-atl あるいは cacau と呼んでいたのものが起源のスペイン名 ということであるが、その意味までは記載されていない。
 『園芸植物大事典』
 
メリリアム・ウェブスターや Wikipedia では、アステカ族・ナワトル語の cacahuatl が語源 となっている。

atl は「水・液体」の意味で、カカオの粉を水で溶いて飲むことによる。
その飲料の名前がナワトル語で chocolatl であり、チョコレートの語源となっている。
Theobroma カカオノキ属 : 神の食物 の意味
ギリシア語の「theos 神」および「broma 食べ物」に由来する。

『植物の属』第五版(1754)を見ると、Theobroma の項の参考図書の中にはその名前がない。
トゥルヌフォールはすでに Cacao という属名をたてていたが、リンネはTheobromaという別の属名を定め、種小名にcacao を採用したようだ。

カカオの栽培や利用の歴史については『園芸植物大事典』に詳しく記載されている。

カカオの飲用方法がヨーロッパに最初に伝えられたのは 1520年 スペインであるが、その利用方法は秘密にされ、初めて「公開」されたのは 1606年ということである。
イギリスでは 1657年にココアを飲ませる「喫茶店」ができている。
リンネの時代はその100年後であるが、ココアの飲用がようやく普及する時代だったようだ。

アステカ文明時代の、極めて貴重だったカカオに関する「いわれ」も調べられていたのであろう。
原産地での呼び名ではない、「神の食べ物」という象徴的な属名を命名したわけである。
 
アオギリ科 Sterculiaceae
アオギリ および Sterculia の名前については、アオギリ の項を参照して下さい。
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        Wikipedia、
        Merriam-Webster OnLine
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