カシューナットノキ
Anacardium occidentale Linn. (1753)
科 名 : ウルシ科 Anacardiaceae
属 名 : アナカルディウム属 
Anacardium Linn. (1735)
英 名 : cashew , cashew nut
原産地 : 熱帯アメリカ(ブラジル南東部)
用 途 : 種子を炒ったものがカシューナッツ。
肥大する花柄を生や焼いて食べたり、ジャムにする。
撮影地 : ドミニカ共和国

1976年に開設されたドミニカ共和国の国立植物園には、2カ所にカシューナットノキがあった。

あいにく名札はなく、初めにトップの写真の花を見た時には、なんだかわからなかった。
後日別の場所で、実ができかかっているのを見て、「この木が カシューナッツだ!」と感激した次第。
 
幼木 高さ 3m

幹の基部から枝分かれするのが特徴だが、事典には10~15mになる、とある。
この程度の高さなら、収穫もしやすいだろう。
 
葉の様子 花の付き方


花は、新しく出た枝の先端に生じる。
(頂生)

ウルシ科の花は、このように枝分かれしてたくさんの花が付く。
(この形の場合は総状花序)
 

もう一つの木は高さ4mで、下枝は「剪定」されていた。
 
別の樹形 幹の様子
この木に、出来たての実が生っていた。
 
   
花 と 果実
これから肥大する花柄部分より、種子の方が大きい。
 
部分図 成熟した果実
右の写真の出典は、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学、Land & Food System学部の『Botany Photo of the Day』である。
             (商業使用でなければ、利用可能の写真集。)

はじめは「空豆」のようだった種子も、しっかりと大きくなっている。

淡ねずみ色の種皮を取り去ってから炒ったものが、「カシューナッツ」である。
 
カシューナッツ

 
名前の由来 カシューナットノキ Anacardium occidentale

和名 カシューナットノキ
和名は英語名をカタカナ表記したものに「木」を付けたもの。
たくさんの実が生るのだから、複数形にして「カシューナッツの木」でもよさそうだ。 『園芸植物大事典』には和名がなかった。

私が名前を付けるとしたら 「マガタマノキ 勾玉の木」である。
 
種小名 occidentale : 「西方の」という意味。
ラテン語では occido が「沈む・落ちる」。 occidens が「太陽の没する地域、西、西方、転じて欧州」の意味で、occidentale はその形容詞形のひとつである。

命名者のリンネ、およびそれ以前の人々が住んでいたのは欧州。
その「西方」にあたるブラジルや南アメリカが原産地 ということで、確かに間違ってはいないが、あまりにも大ざっぱな名前である。
 
Anacardium アナカルディウム属 : 心臓の形に似た の意味
ギリシア語で ana は「似る」、kardia は「心臓」である。
小学館の『園芸植物大事典』
心臓よりは「腎臓」に似ている。
 
英語名 cashew : 意味は不明
カシューの名前の由来は、これも『園芸植物大事典』によると、

 ・ブラジルのインディオ・トゥピ族の呼び名は「acaju
    ↓
 ・ポルトガル語で「caju」となる
    ↓
 ・英語で「cashew」と転訛した

という説明がある。
はじめの2つの発音が書いてないので何とも言えない。
意味は不明・・・・。
 
ウルシ科 Anacardiaceae
基準属は 本属 アナカルディウム属である。

ウルシ科の有用植物としては本種のほかに、アフガニスタンが有名なピスタチオ、果物としてマンゴー、樹脂を利用するものとして ウルシがあるが、かぶれやすい人は、マンゴーでも発疹が出るそうだ。

 
 リンネ『 植物の種 』の記述

本種の学名の命名者 リンネが本種を記載した 『植物の種』の 383ページを見ると、1753年の刊行時以前に、すでに上記の呼び名が記載されていたことがわかる。
(赤線は筆者)
Anacardium属として記載されているのは、「カシューナットの木」 一種だけである。
この項は全般に、植物の特徴についての記載は少ない。

ANACARDIUMの項 一行目・二行目には、リンネ自身の5冊の著作名称と、記載ページのみを挙げている。

続く 5行が、リンネ以外の著者による参考文献リストである。
各行の内容の検討を試みた。 ( )内は、筆者の追記。
 

Anacardii alia species. Bauh. pin. 512

 アナカルディー 他の方法で 種。 (後半の意味は不明)
 Gaspard Bauhin (ガスパー・ボーアン 1560-1624)。
 pin.は『植物の劇場総覧』の略。(1623年刊行) 512ページ

リンネの『植物の種』の刊行は1753年であるから、その1世紀以上前のボーアンの本に「アナカルディー、心臓に似た」という記載があったわけである。
 

Pomifera s. potius Prunitera indica , nuce reniformi.
Catesb. car. 3. p. 9. t 9.


 ポミフェラ 否むしろ プルニフェラ、インディカ。胚珠は腎臓形。
 Mark Catesby (マーク・ケイツビー 1680-1749)。
 car. は『カロライナ、フロリダ、およびバハマ諸島の博物誌』、
   (1731-43に刊行)、3ページ、図 3、最後の t は不明)

こちらは『植物の種』の10年前の出版。 やはり、腎臓ですよね!
だから属名は Anareniformii あるいは Anareniformium の方が良かったのでは?

indica は、インド原産 の意味か?
 

Acajou. Pis bras. 58. mant. 193.

 Acajou
 Villiams Piso (ウィリアム・ピソ Willem Piso 1611-1678?, 88?)。
 bras. は『Histoire Naturelle du Brésil 』、(1648年刊行) 58ページ

『園芸植物大事典』にある解説の、ブラジル・インディオの呼び名がちゃんと記載されている。 ピソは17世紀のオランダ人で、ブラジルの探検をしたようだ。

参考文献 mant. の方は不明。
 

Caschou. Mer. surin. 16. t. 16

残念ながら Mer.氏については、調べが付かなかった。
カシォウ、カシュー の言葉も、1753年以前にあった ということである。

surin. はスリナム植物誌 であろう。
 

Kapa-mava. Rheed. mal. 3. p. 65. t. 54.

カパ・マバ。
Hendrik Adriaan von Rheed (リード 1637-1691)
mal. は『Hortus Malabar』。(インド南西部マラバル地方の植物、1678年刊行)。

最後の行は、
インドシナ産、木本。
カシューナッツは食料として利用しやすい種であるから、当然、原産地の人々は食べていただろう。

500年前に南米が発見されて、ほぼ同じ時期に発見されたインド航路によって、カシューナッツはインドのマラバール地方に伝えられたという。

そして、カシューナッツの輸出量は長い間 インドが第一位であったが、Wikipedia によると、近年の生産量はベトナムが飛び抜けており、これにインド、ブラジルが続いている。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        朝日百科/植物の世界/朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        植物の種/原著リンネ 1753/植物文献刊行會、
        Dictionnaire des Jardiniers/フィリップ・ミラー 1785、
        Wikipedia 日本
世界の植物 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ