フクベノキ 瓢の木
Crescentia cujete Linn. (1753)
科 名 : ノウゼンカズラ科 Bignoniaceae
属 名 : フクベノキ属 Crescentia Linn. (1735)
原産地 : フロリダ および 熱帯アメリカ
英語名 : calabash tree
西語名 : Güira
用 途 : 果実の殻を 各種の器や調味料入れ、工芸品・装飾品として使う。
楽器のマラカスにも使われる。
撮影地 : ドミニカ共和国 、ハワイ オアフ島

幹になっている大きな丸い実。 丸い実が目立つために、遠目には柑橘類に見えた。 サント・ドミンゴの植物園にしては珍しく、陶版製の名札が付いており、痛んではいたが、科名には BIGNONIACEAE とあった。

ビクノニア ?
え~っ、 これがノウゼンカズラ科の植物ですか!
 
名札 幹の様子

すでに取り上げている「ナガミキササゲ」(仮名) や、カエンボク、ジャカランダなど、私の知っているノウゼンカズラ科の実は、すべて細長かったり平べったいもので、さらに葉がすべて「複葉」である。
 
カエンボク の花と実 キリモドキ(ジャカランダ)

調べてみると中米ではポピュラーな木で、その実が広く使われているようだ。
同じ属の Crescentia alata の果実と共に、楽器の「マラカス」に加工されるという。

植物の外観に惑わされてはいけない、という好例であろう。
 
全体の様子 と 枝振り
左の写真は後ろの木と重なってしまって、そのひどい枝振りがよくわからない。この木の高さは6mぐらいで、大きくなっても10m程度ということだ。

葉の付き方は、一カ所から何枚かが出る「束生 (ソクセイ)」で、ノウゼンカズラ科では珍しい。
 
葉の様子


撮影は3月で乾期の終わり頃である。
生育期になれば、葉の量がもう少し増えるようだ。
ドミニカでは 花は咲いていなかった。
事典によると、「幹生花」で、夜に開いて臭いを出し、コウモリが受粉を助けるそうだ。
色は 薄紫または黄色 大きさは直径5~6cm とある。

この木には2つの実が生っていて、ひとつが落ちていた。

持った感じはずしりと重く、サイズは 約15cm。 グレープフルーツ といった感じだが、ミカン類のように皮が柔らかくなく、かといって特別硬い感じもしなかった。 さらに乾燥するとカチカチになるのだろう。 なにしろ「マラカス」にするのであるから・・・。

そして事典には、直径 30~50cmになる とあった!
とてつもなく大きな「ボウル」が作れるわけだ。

まん丸の実


2013年になって、オアフ島で花を見ることができた。 ハワイ大学付属 ハロルド・ライアン樹木園である。
傾斜地に広がる植物園
左側に一部写っている木と 中央の木が フクベノキ。

幹生花                       2013.7.2
幹に直接花が付く。 訪れたのは午後2時だったが、落ちずに咲いているものがあった。 木陰の薄暗がりなので、全体に緑がかっている。

落ちていた花
前掲の写真とは違って、花の色が 白~淡い黄緑であることがわかる。
葯がコウモリに見える。

名前の由来 フクベノキ Crescentia cujete

和名 フクベノキ : うつわの木 の意味
実を 様々な用途の「器」として使うことから、同じく器として使われる ヒョウタンやユウガオの別名、「フクベ」が使われた。

近年まで、家庭の暖房器具は火鉢や炬燵であり、その燃料の炭を入れておく容器として、丸いフクベを乾燥させ、中を刳り抜いたものが使われていた。

いまや、フクベは馴染みの薄い言葉となってしまったが、海苔巻きに使う「カンピョウ 干瓢」を作るための「ユウガオの実」は、今でも「フクベ」と呼ばれているようだ。
 
ユウガオ畑 収穫されたフクベ
竹風庵慕堂 のホームページ より
HP管理者の田中さんに許可をいただいて写真をお借りした。
カンピョウ用には、丸く大きな品種が栽培される。
 

参考までに、

一般に「ユウガオ 夕顔」と呼ばれているのは、ヒルガオ科ヨルガオ属の「ヨルガオ 夜顔」が正式な和名である。

そう言う私自身、ユウガオと聞けば「ヨルガオ」の方を思い浮かべてしまう。

和名「ユウガオ 夕顔」は、ヒョウタンと同じウリ科ユウガオ属で、その実は上のような丸い物と 長いものがある。
 
ヨルガオ 細長いユウガオの実
Calonyction aculeatum Lagenaria siceraria
2枚とも Wikipedia より
 
 ← フクベ 瓠瓢 ・ 瓢
フクベに当てている漢字「瓠瓢」の字の意味はどちらも「ヒサゴ」であり、その二つの字を並べたフクベの第一義は、

  「ヒョウタンなどの果実で作った

であり、第二義が「ヒョウタン」あるいは「ヒョウタン類の総称」のことである。

フクベの由来を、わからないながらも考えてみた。

  ・フクレミ : 膨れ実 あるいは フクラミ : 膨ら実
  ・フクレヘイ : 脹れ瓶 丸く脹れた「かめ 瓶」の意味
  ・フクレヒョウ : 脹れ瓢 脹れたヒサゴ
 
などが フクベ に転訛したのではないだろうか。
 

容器として使うという意味では「ヒョウタンノキ」でも間違いではないが、「ヒョウタン」の一般的な形が胴の中央がくびれた形であり、本種の丸い実とはイメージが異なる。

じつは「瓢箪型」でない、丸いヒョウタンもある・・・。
 
ヒョウタン ウリ科ユウガオ属 Lagenaria siceraria var. gourda
左の写真にも、一番左側に丸いヒョウタンが写っている。
 

参考までに、「ヒョウタン 瓢箪」の語源は、

「瓢 と 箪」 すなわち 「瓢:フクベあるいはヒサゴ」 と 「箪:竹で編んだ丸い飯櫃(メシビツ)」 であり、酒や飲み物を入れる器と 飯を盛る器との「セット」であった。
漢和辞典には、貧しい生活に安んじる意味の「箪食瓢飲」という熟語がある。

当初の「瓢」は、お椀型であったような気がするが、のちに、「ヒサゴ」や「ヒサゲ 提」が主に酒を注ぐ容器を指すものになったこともあって、もっぱら酒を入れてぶら下げる「瓢箪」を意味するようになったものと思われる。
 

ついでに、「ヒサゴ 瓠・瓢」の語源は、

もとは濁らない発音で 「ヒサコ 提子」であり、手に提げて持つ、引き下ぐ、提げる から来ている。
注ぎ口と弦(つる)付きの鍋形の器、「ヒサゲ」と同じ語源である。
 
英語名 calabash tree :
Merriam-Webster によると、英語の「calabash」は
  1.Crescentia cujete あるいは その丸い実 (本種のこと)
  2.ウリ類、特にその実が器として使われる種類
  3.上記ふたつの植物から作られた 器
となっている。

日本語の「ヒョウタン」という特定の種ではなく、本種やウリ類全般を示す言葉であるが、器として使うという意味が込められている。

そして calabash treeは、単にウリ類の形の実が生る木 というよりも、器として使う実が生る木 という意味が強い。
 
種小名 cujete : 不明
『植物学名辞典/牧野 他』には記載がない。

本種が記載されている『植物の種』(1753) 626ページを見ると、左側に通常小文字で記載される種小名の先頭が、大文字で Cujete と書かれている。
このことから、cujete は形容詞ではなく、名詞だと予想できる。

クレスセンティア属には一種しか挙げられていないが、続けて3種の「変種」が記載されている。
 
赤線は筆者が加筆
本種に関する参考文献は3件である。
Crescentia 両側とも漸尖の披針形の葉。
『クリフォード氏植物園誌』 (1737 リンネ自身の著作) 327ページ
Cujete 狭い長楕円形の葉。卵円形の大きな一果が生る
Charles Plumier 著 『Nova Plantarum Americanarum Genera』 (1703-04) 23ページ
カボチャのような実が生るアメリカの高木、長くて微凸頭がある葉、果実は長楕円形。
Jan Commelin 著 『アムステルダム植物園誌 1巻』 137ページ
変種も含めて Cujete の名を挙げているのは、プルメリア属に名を残す、フランスの修道士で植物学者のプルミエ(1646-1704)である。
リンネ(1707-1778)とは入れ替わりの世代で、カリブ海地域を探検して多くの属を定義し、図版がはいった著作を残している。

『植物の種』には原産地の一つとして バージニアが挙げられているが、アメリカ原住民の呼び名 というよりは、西インド地域での呼び名ではないだろうか・・・
 
Crescentia  : 人名より。 詳細は不明
『植物学名辞典』には、イタリア人の Crescenzi氏 と出ているが、調べが付かなかった。
 
ノウゼンカズラ科 Bignoniaceae :
主として熱帯、亜熱帯に約120属800種がある。

ほとんどが直立高木、低木あるいはつる性の樹木である。
左右対称の鐘状・筒状・漏斗状の花が特徴である。

Bignonia の名は、フランス ルイ14世の司書 ビニョン A. J. P. Bignon (1662-1743) にちなんで名付けられた。

詳しくは、キバナノウゼンカズラ の項を参照していただきたい。
 

マラカス maraca の複数形
『植物の世界・朝日新聞社』によると、マラカスを作るのは主に 同属の Crescentia alata ということであるが、『キューバの樹木』には、本種も使われる とあった。

小さめの果実、イメージ的には、直径10cm程度のものを使うのであろう。 二カ所に穴を開けて、握り棒を貫通させて「Φ」の形に作ったようだ。

古くから、木製のスマートなものがデザインされており、今ではプラスチック製も多い。
Merriam-Webster によると、英語の maraca の語源は、ブラジル先住民 Tupi の言葉 「maraká」 に由来するポルトガル語 「maracá」ということだが、意味については書かれていない。
 
maracá が 「Crescentia alata マラカスの木(仮名)」あるいは 本種 Crescentia cujete のことならば、ピッタリなのだが・・・・。
 
Crescentia alata マラカスの木 (仮名)
熱川バナナワニ園の温室内で、高さ 2mぐらいに切り詰められている。 葉の形が「十字架」の形をしているのが珍しいために、栽培されている。

以前から見ていたのだが、ここでは花や実は見かけなかったので、まさかこの木の実が「マラカス」に使われるとは、思わなかった。

種小名 alata は、三出複葉の葉柄に「翼がある」という意味である。
 

余計なことだが、「フリー百科事典 ウィキペディア 日本語版」のマラカスの項に、「元来は、ヤシ科の マラカ の実を乾燥させて作る」という見解が載っている。 
まあ それも使われていたのかも知れないが、インターネットの情報には 気をつけなければならない・・・・
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        TREES of CUBA/Angela Leiva、
        Wikipedia、
        Merriam-Webster、
        竹風庵慕堂 のホームページ
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