熱帯の植物園には、日本の温室で見かける植物が普通に生えている。
当たり前だが...。
その断面の形から、果物屋ではスターフルーツ と呼ばれているゴレンシの花をシンガポール植物園で見ることができた。
実が生っていなかったので、学名を見ても、初めはゴレンシということがわからなかった。
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ゴレンシ 高さ4m |

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花と葉の様子 |
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奇数の複葉 |
葉の付け根に花が付く |
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幹の様子 |
日本の温室のゴレンシ |
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樹皮がひび割れている |
熱川 バナナワニ園
(フラッシュ使用)
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事典によると「花序の先端に実が付くことが多い」とされているが、バナナ園のものは、1本の花序に2・3個の実が付いていた。
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名前の由来 ゴレンシ Averrhoa carambola |
ゴレンシ 五稜子、五斂子 |
和名は漢名の音読みである。
『園芸植物大事典』には上記ふたつの名前があった。「五稜子」の意味は、果実の5つの稜を見れば明らかである。ゴリョウシ が ゴレンシ に転訛するのは、不自然ではない。
「五斂子」の意味がはっきりしないが、収斂の「斂」には おさめる、集める、引き締める という意味があるので、5つが集まった果実 という感じであろうか。
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スター・フルーツ |
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日本の温室で見る果実は小さいものばかりだが、果物屋の商品はさすがに大きく、これは長さ 12.5cmあった。 値段は 500円。( 2008年1月 )
以前食べたものよりは甘みがあり、みずみずしい果肉の歯触りもよかったが、決して「もっと食べたい」とは思わなかった。
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日常の世界では「五」が関係する物は少なく、クリスマスツリーや国旗の「星形」、五稜郭、ペンタゴン ぐらいである。 しかし自然界では「五数性」は極めてポピュラーで、日本人が好むバラ科のウメやサクラを始めとして、花弁が5枚の植物はたくさんある。また動物でもヒトデがあるし、我々の手の指の数も5本である。 |
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オオシマザクラ |
ツルニチニチソウ |
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カリン |
カロトロピス・プロケラ |
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パパイアにも星が! |
タイワンツバキの実 |
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このように、挙げているときりがない。
しかし、数としての 五 はたくさんあるが、正五角形は珍しい。
私の大好きな花、ツルニチニチソウの花の中心部に注目してほしい。
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種小名 carambola : 意味は不明である |
牧野富太郎 他 著の『植物学名辞典』では「マラバール名」となっている。
マラバールはインド西南部の海岸地帯の名称である。その地域で呼ばれていた名前、ということであろうが、意味はわからない。
学名の命名者となっているリンネの『植物の種』428ページを見ると、3種のゴレンシ属が記載されており、原産地(採取地)はすべてインドとなっている。 |
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1. Averrhoa Bilimbi ナガバノゴレンシ
2. Averrhoa Carambola ゴレンシ
3. Averrhoa acida (acida は酸っぱい という意味)
種小名の Bilimbi、Carambola ともに、頭文字は大文字であった。
ゴレンシの項には4つの参考文献があり、そのひとつ、
ボーアン弟 著『植物の劇場総覧』(1623年) 433ページには「8角形の果実」という間違った表現も見られるが、「Mala goёnsia」という記載がある。
リンネよりも150年も前の時代のボーアン弟(1560-1624) は、属名と種名とを区別し、不完全ながら二名式命名法を始めた人物であるので、「Mala
goёnsia」はボーアンによる学名であると考えられる。
「Mala」は、『植物學名辞典』のCarambola の項にあった、インド南西部のマラバル海岸地帯から取った属名であろう。
種小名の「goёnsia ゴエンシア」はあきらかに中国名のゴレンシである。
インドですでに中国名が使われていた ということは、中国南部にもゴレンシがあったか、インドや東南アジアから古くに中国に伝わり、「ゴレンシ」の名称が逆にインド南西部まで普及していた、ということになる。
リンネの『植物の種』は18世紀の著書であり、そこで取り上げられている参考文献の多くは17・8世紀のものであるが、ヨーロッパにゴレンシの情報が伝えられたのは、探検の時代・大航海の時代、あるいは早ければマルコ・ポーロ時代の
13世紀であったかもしれない。
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そして、リンネがゴレンシの種小名を Carambolaとしたのは、別の参考文献、17世紀オランダ人のリード(Hendrik Adriaan von Rheede 1637-1691) の著書『マラバルの植物』
Horti Indici Malabarici の記述を参考にしたためである。
そこには、「Tamara Tonga s. Carambolas」という記載がある。
「Tamara Tonga」は、これもリードが名付けた二名法による名称ではないだろうか。s. はsive の略で「あるいは」であり、現地名の
Carambolas を併記したものと思われる。
しかし、何を意味するかは、相変わらずわからない。 |

『マラバルの植物』表紙 :
Wikipedia より |
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中国名 陽桃 : |
これもよくわからない。
「太陽の桃」ということであろうか。桃にしては核になる種がない。 |
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Averrhoa ゴレンシ属 : |
属名の読み方は、『園芸植物大事典』では「アウェロア」となっている。
12世紀スペインのコルドバで生まれ、モロッコのマラケシュで没した博学者、 Averroes (1126-1198) を記念したものである。
アウェロエスのアラブ名はIbn-Rushdで、哲学のみならず、医師であり神学・天文学・地理学・数学・薬学・物理学・心理学・科学に秀でていたといわれている。
Index Kewensis には4種が載っているが、よく知られているのは ゴレンシ と ナガバノゴレンシ の2種である。
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カタバミ科 Oxalidaceae |
カタバミ はどこにでも生えている多年草で、この立派な樹木であるゴレンシと、雑草のようなカタバミが同じ科というのは...
それは、植物の分類は全体の姿形ではなく、子葉の数(双子葉・単子葉)、花弁の状態(合弁花・離弁花)、花弁や子房の室の数、花弁と子房の位置関係、その他いろいろな形態をもとに行われているためである。
最近の分類学ではさらに、遺伝子の塩基配列を基にした分類 APG が主流になっており、エングラーやクロンキストの分類とは、随分と違ったものとなっている。
しかしその変更は、進化の過程を考慮した「属」や「科」、「目」の相互の位置関係や包含関係であって、今まで同じ属に分類されていた植物がじつは違っていた、という話は少ない。
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カタバミ |
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参考文献 : Species Plantarum 復刻版/植物文献刊行会、
Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
園芸植物大事典/小学館、
週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
文明の中の博物学/西村三郎、
羅和辞典/研究社、
Wikipedia |
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