ゴレンシ 五稜子、五斂子
Averrhoa carambola Linn. (1753)
シンガポール、日本温室
科 名 : カタバミ科 Oxalidaceae
属 名 : ゴレンシ属 Averrhoa L. (1735)
原産地 : 不明 (インド、インドネシア、マレー?)
中国名 : 陽桃
英語名 : blimbing , caramba , country gooseberry
用 途 :


世界各地に植栽され、果実は食用に、また果汁はジュース・シロップ・ゼリーなど、さまざまなものに加工される。
また 薬用にも使われている。
熱帯の植物園には、日本の温室で見かける植物が普通に生えている。
当たり前だが...。
 
その断面の形から、果物屋ではスターフルーツ と呼ばれているゴレンシの花をシンガポール植物園で見ることができた。
実が生っていなかったので、学名を見ても、初めはゴレンシということがわからなかった。
 
ゴレンシ 高さ4m

 
花と葉の様子
奇数の複葉 葉の付け根に花が付く

 
幹の様子 日本の温室のゴレンシ
樹皮がひび割れている 熱川 バナナワニ園
(フラッシュ使用)
 
事典によると「花序の先端に実が付くことが多い」とされているが、バナナ園のものは、1本の花序に2・3個の実が付いていた。
 
名前の由来 ゴレンシ Averrhoa carambola
 
ゴレンシ 五稜子、五斂子
和名は漢名の音読みである。
 
『園芸植物大事典』には上記ふたつの名前があった。「五稜子」の意味は、果実の5つの稜を見れば明らかである。ゴリョウシ が ゴレンシ に転訛するのは、不自然ではない。
 
「五斂子」の意味がはっきりしないが、収斂の「斂」には おさめる、集める、引き締める という意味があるので、5つが集まった果実 という感じであろうか。
 
スター・フルーツ
日本の温室で見る果実は小さいものばかりだが、果物屋の商品はさすがに大きく、これは長さ 12.5cmあった。
値段は 500円。( 2008年1月 )
 
以前食べたものよりは甘みがあり、みずみずしい果肉の歯触りもよかったが、決して「もっと食べたい」とは思わなかった。
 
 
日常の世界では「五」が関係する物は少なく、クリスマスツリーや国旗の「星形」、五稜郭、ペンタゴン ぐらいである。

しかし自然界では「五数性」は極めてポピュラーで、日本人が好むバラ科のウメやサクラを始めとして、花弁が5枚の植物はたくさんある。また動物でもヒトデがあるし、我々の手の指の数も5本である。
オオシマザクラ ツルニチニチソウ

 
カリン カロトロピス・プロケラ

 
パパイアにも星が! タイワンツバキの実
このように、挙げているときりがない。
しかし、数としての 五 はたくさんあるが、正五角形は珍しい。
私の大好きな花、ツルニチニチソウの花の中心部に注目してほしい。
 
種小名 carambola : 意味は不明である
牧野富太郎 他 著の『植物学名辞典』では「マラバール名」となっている。
マラバールはインド西南部の海岸地帯の名称である。その地域で呼ばれていた名前、ということであろうが、意味はわからない。
 
学名の命名者となっているリンネの『植物の種』428ページを見ると、3種のゴレンシ属が記載されており、原産地(採取地)はすべてインドとなっている。
 
 1. Averrhoa Bilimbi ナガバノゴレンシ
 2. Averrhoa Carambola ゴレンシ
 3. Averrhoa acida (acida は酸っぱい という意味)
 
種小名の Bilimbi、Carambola ともに、頭文字は大文字であった。
 
ゴレンシの項には4つの参考文献があり、そのひとつ、
ボーアン弟 著『植物の劇場総覧』(1623年) 433ページには「8角形の果実」という間違った表現も見られるが、「Mala goёnsia」という記載がある。
 
リンネよりも150年も前の時代のボーアン弟(1560-1624) は、属名と種名とを区別し、不完全ながら二名式命名法を始めた人物であるので、「Mala goёnsia」はボーアンによる学名であると考えられる。
 
「Mala」は、『植物學名辞典』のCarambola の項にあった、インド南西部のマラバル海岸地帯から取った属名であろう。
種小名の「goёnsia ゴエンシア」はあきらかに中国名のゴレンシである。
インドですでに中国名が使われていた ということは、中国南部にもゴレンシがあったか、インドや東南アジアから古くに中国に伝わり、「ゴレンシ」の名称が逆にインド南西部まで普及していた、ということになる。
 
リンネの『植物の種』は18世紀の著書であり、そこで取り上げられている参考文献の多くは17・8世紀のものであるが、ヨーロッパにゴレンシの情報が伝えられたのは、探検の時代・大航海の時代、あるいは早ければマルコ・ポーロ時代の 13世紀であったかもしれない。
 
そして、リンネがゴレンシの種小名を Carambolaとしたのは、別の参考文献、17世紀オランダ人のリード(Hendrik Adriaan von Rheede 1637-1691) の著書『マラバルの植物』 Horti Indici Malabarici の記述を参考にしたためである。
 
そこには、「Tamara Tonga s. Carambolas」という記載がある。
 
「Tamara Tonga」は、これもリードが名付けた二名法による名称ではないだろうか。s. はsive の略で「あるいは」であり、現地名の Carambolas を併記したものと思われる。
 
しかし、何を意味するかは、相変わらずわからない。

『マラバルの植物』表紙 :
Wikipedia より
中国名 陽桃 : 
これもよくわからない。
「太陽の桃」ということであろうか。桃にしては核になる種がない。
Averrhoa ゴレンシ属 :
属名の読み方は、『園芸植物大事典』では「アウェロア」となっている。
12世紀スペインのコルドバで生まれ、モロッコのマラケシュで没した博学者、 Averroes (1126-1198) を記念したものである。
 
アウェロエスのアラブ名はIbn-Rushdで、哲学のみならず、医師であり神学・天文学・地理学・数学・薬学・物理学・心理学・科学に秀でていたといわれている。
 
Index Kewensis には4種が載っているが、よく知られているのは ゴレンシ と ナガバノゴレンシ の2種である。
 
カタバミ科 Oxalidaceae
カタバミ はどこにでも生えている多年草で、この立派な樹木であるゴレンシと、雑草のようなカタバミが同じ科というのは...
 
それは、植物の分類は全体の姿形ではなく、子葉の数(双子葉・単子葉)、花弁の状態(合弁花・離弁花)、花弁や子房の室の数、花弁と子房の位置関係、その他いろいろな形態をもとに行われているためである。
 
最近の分類学ではさらに、遺伝子の塩基配列を基にした分類 APG が主流になっており、エングラーやクロンキストの分類とは、随分と違ったものとなっている。
 
しかしその変更は、進化の過程を考慮した「属」や「科」、「目」の相互の位置関係や包含関係であって、今まで同じ属に分類されていた植物がじつは違っていた、という話は少ない。
 
カタバミ
 
参考文献 : Species Plantarum 復刻版/植物文献刊行会、
        Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        文明の中の博物学/西村三郎、
        羅和辞典/研究社、
        Wikipedia
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