キリモドキ 桐擬き
Jacaranda mimosifolia D.Don. (1823?)
科 名 : ノウゼンカズラ科 Bignoniaceae
属 名 : キリモドキ属 Jacaranda Juss. (1789)
英 名 : Jacaranda
原産地 : アルゼンチン
用 途 : 街路樹。庭園樹。観葉植物。
街路樹としては、熱帯・亜熱帯地方で最も広く用いられている種であるという。

撮影地:
日本 、ガイアナ協同共和国
パキスタン 、モザンビーク
 
初めて「キリモドキ」を目にしたのは、1999年の秋。
大分市の佐野公園で「ジャカランダ」の名札を目撃し、わけが分からず写真を撮っておいた。
その時はまだ知識も未熟でキリモドキの名も知らず、南洋スギの一種かと思っていた。
 
1996年3月植樹 高さ 約3m 撮影は1999年


3年半で、恐らく2m程度しか成長していない。

事典によると、高さは15mにもなるとあるが、それは亜熱帯での話。しかし今では植栽後13年。どんな大きさに成長したことか...。
 

 

熱海 のジャカランダ
翌年には、街の花屋でも観葉植物として鉢植えされたジャカランダを見掛けるようになり、調べてみると和名は「キリモドキ」であり、樹冠一面に青紫の花を付けることがわかった。

以来、海外で満開のジャカランダを見ることが夢のひとつとなった。

というのはジャカランダが 熱帯 ・亜熱帯の樹木ということで、沖縄あたりでないと花は咲かないものと思いこんでいた事にもよる。
ところが! 毎年出かける熱海でジャカランダを見かけた。
それまでに何年かかけて整備されていた熱海マリーナの海岸道路に、街路樹としてジャカランダが植えられ、2004年の夏には なんと花まで咲いていた!

熱海市では、ポルトガルのカスカイス市との国際姉妹都市提携記念として、1990年(平成2年)にお宮の松近くに植えたらしいが、全く知らなかった。
この街路樹は、2000年(平成2年)に 高さ 約 90cm の幼木が植えられたということで、私は2003年に少し大きくなった時に気が付いた。
まさかこんなに早く咲くとは思ってもみなかった。毎年すごい勢いで伸びているようだ。
 
2004年8月 撮影 高さ4m ひょろ長くて頼りない


熱帯では乾期に葉が落ち、雨期の始まりに一斉に花が咲くらしいが、熱海では葉が出た後の先端部に花序が付き、花を咲かせていた。

気候の違いによるのであろう。

初めて見るジャカランダの花、しかも 熱海!
小型ではあるが、確かにキリの花に似ている。まあ、分類上は近い科であることだし...
色もキリに似ているが、花弁が薄く透き通って清楚なイメージである。
 

ガイアナ のジャカランダ
そして南米ガイアナ協同共和国に出かけることになり、キリモドキへの期待は高まった。

しかし、首都ジョージタウンの植物園や街中でもキリモドキを見つけたものの、花の量がきわめて貧弱であった。
 
ガイアナのジャカランダ 花は まばら...


根元の太さは 約20cm。樹高は6〜7mあるが、期待はずれ。

撮影は2004年10月末。
ガイアナは北半球であるものの、赤道近くで、このころが雨期の始まりと聞いたので、「狂い咲き」ではないと思う。
 

 
地面に落ちた花を集める

 
梢でパラパラと咲いているものを見上げてもよく見えず、落ちている小さな花を集めてなんとか花の写真とした。

後述するパキスタンのキリモドキとは幹の様子が違うので、これはベネズエラやガイアナ原産の Jacaranda obtusifolia かも知れない。

背が高くて、葉もよく観察できなかったが、obtusifolia とは「鈍形葉の、先の尖っていない」という意味である。
 

パキスタン のジャカランダ
パキスタンの首都イスラマバードは北緯 約34度。日本では福岡市とほぼ同じであり、しかも標高約500mということから、もっと寒いところかと思っていたが「亜熱帯植物」のジャカランダが、街路樹としてたくさん植えられていた。

残念ながら訪問したのは10月で、花の季節ではなかったが、独特の形をした実が生っていた。
 
イスラマバードのジャカランダ並木

 
鈴なりの若い実 地面に置いて

 
複葉の詳細 街路樹の幹

 

クスノキに似た 細かな裂け目の肌となっている。

モザンビーク のジャカランダ
2007年にモザンビークに出かけ、首都マプトのモザンビーク大学付属植物園を訪れた。
面積や種類は限られたが、これまでわからなかった植物の名前が判明したりして、収穫があった。

季節は秋から冬に向かう時期であり、ジャカランダは完全に実が熟して、割れた果実がたくさん落ちていた。
 
モザンビーク大学構内のジャカランダ

 
落ちた実 タネには薄い膜(翼)がついている
実は裂けて口を開けているものの、写真のような割れた状態にするには、ちからを入れて手で割る必要があるが、中にはきれいなハート型の模様がある。
磨いてニスを塗ったりして、イヤリングにするそうだ。
実の径は 6cm強。
 
名前の由来 キリモドキ Jacaranda mimosifolia
 
キリモドキ 
桐擬き : 桐に似ている の意味
花の色と形 に注目して、近縁のゴマノハグサ科の「キリ」に似ているところから名付けられた。
キリをノウゼンカズラ科に分類する説もある。

キリモドキの名は、南米に移住した日本人が名付けたということである。

今は属名の「ジャカランダ」で通っている。
キリモドキ キリ

 

キリの花と葉
青い花だけが一面に咲くキリモドキとは違って、キリは「大きな葉」が出た後に咲く。


 
東松山 森林公園

種小名 mimosifolia : mimosa属(オジギソウ属)に似た葉の意味
キリモドキの学名を付けたのは ロンドン・キングス・カレッジの教授であった19世紀イギリスの植物学者 David Don (1799-1841) である。
オジギソウ属は250種もあるということで、キリモドキのような2回羽状複葉を持つ オジギソウ属の種もあるのかも知れないが、代表選手「オジギソウ」は下の写真のように、2対の複葉しかない。
10〜20対もあるキリモドキの葉とは、形・大きさともに大違いである。
キリモドキの複葉 オジギソウの複葉
ドンがキリモドキの名を学術誌に記載したのは1823年と思われる。

ブラジル原産のオジギソウは、恐らくその100年以上前から知られていて、リンネの『植物の種』(1753年)にも記載されている。
ドンは「ロンドン リンネ協会」のライブラリアンをやっていたくらいであるから、当然 オジギソウは知っていたであろう。

しかし、この両者の葉が似ている などとは誰も言うまい。
むしろ、アカシア属の葉に似ている。

ドンはどんな「ミモサ属」とキリモドキを較べたのであろうか...
フサアカシアの葉
東京都夢の島公園

リンネが『植物の種』で「ミモサ属」として記載した 39種には、現在のアカシア属、ネムノキ属、ミモサ属(クロンキストの分類による ネムノキ科)が含まれている。

リンネの死後 半世紀を過ぎたドンの時代にも、この分類の影響があったのなら、納得のいくところである。
すなわち、ドンの言う「mimosa」にはミモサ属だけでなく、アカシア属も含まれていた可能性がある。

なにしろ、現在でもアカシア類のことを「ミモサ」と呼んでいるくらいであるから。
 
Jacaranda キリモドキ属 : 
『園芸植物大事典』によると、ジャカランダ属の植物に対するブラジルでの呼び名から派生した、ポルトガル名にちなむ ということである。
意味は「堅い心材」ということである。(福岡植物園の名札による)

約 50種がある。
 
ノウゼンカズラ科 Bignoniaceae :
約120属 約800種があるという ノウゼンカズラ科。おもに熱帯・亜熱帯に分布している。

詳しくは「キバナノウゼンカズラ」の項に書いた ノウゼンカズラ科の記述を参照していただきたい。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        Wikipedia
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