ハンカチーフノキ
Maniltoa grandiflora Scheff. (1876)
← Cynometra grandiflora A. Gray (1854)
科 名 : ジャケツイバラ科 Caesalpiniaceae
 (マメ科 Fabaceae)
属 名 : マニルトア属 Maniltoa Scheff. (1876)
英語名 : Dove tree, Ghost tree,
Handkerchief tree
原産地 : インドネシア、パプアニューギニア、
北米・フロリダ、カリフォルニア、アリゾナ
用 途 : 観賞樹として栽培される。
木材として利用される。
 
撮影地 :
インドネシア
ボゴール植物園の並木のひとつ。
 
園内には、カナリウムの並木通りが2本、アガチスの並木、そしてこのハンカチーフ ・ツリーの並木がある。
 
ハンカチーフの木の並木

 
カナリウム通り アガチス並木
 
 
ハンカチノキ は 別種
日本では「ハンカチノキ」が有名になり、どこの植物園も競って植えている状況だが、それは別種 Dvidia involucrata のことである。
 
ハンカチノキ
ハンカチノキでは、ボール状の花を包む真っ白な二枚の「総苞」が風に揺れる。 右の写真はまだ苞が開きたてで、黄緑色をしているが、この後 白くなる。
 
 
幹の様子 若葉
ハンカチーフの木の場合は、一度にまとめて萌芽する葉の色が、薄赤茶色から白、そして緑へと変化する。
 
出たての枝は柔らかくて、完全に垂れ下がった状態となる。 熱帯の樹木ではよくある生態で、上右の写真では、上部中央に白いかたまりが見える。

葉の色が濃くなり、ピンとした枝になるまでには時間が掛かるようだが、年に何回も伸びるようだ。
 
サーモンピンク 黄色味が かかる

 
この中に複葉の数は8枚。 ひとつの複葉に、小葉の数は通常3対 または2対なので、小葉の数は合計 約40枚となる。
 
 
葉が一枚ずつ大きくなっていく 通常の伸び方と比較して、どんなメリットがあるのだろうか?
メリットの一つは「枝折れ対策」である。
新しい枝が何枚かの葉を伴って大きくなる途中で、枝がまだ柔らかいのに葉が強風を受けて、基からポロリと折れてしまうことがある。 
これは防げるであろう。
日本で見る樹木でも、新葉が垂れ下がった状態で萌芽してくるのはよく見かける。
 
シロダモ
 
 
小葉の詳細 実の様子


ずんぐりした形で、短い毛が生えている。
小葉は、葉の中心がひどく偏っている。
小葉のサイズは 長さ約8cm と大きい。
 
花は咲いた後の時期で、まだ若い実が 生っていた。 (1月中旬)
 
名前の由来 ハンカチーフノキ Maniltoa grandiflora
 
和名 ハンカチーフの木 : 
意味としては「ハンカチノキ」と同じだが、ハンカチ全体の大きさ・長さは10倍以上である。 こんなに大きいと 「スカーフの木」と呼びたくなるが、ハンカチにしたのは、やはり白のイメージを重視したためでだろう。
 
 
種小名 grandiflora : 大きな花 の意味
意味は単純だが、問題は 何と較べて「大きい」のか、である。
それを探るためには、最初の命名 Cynometra grandiflora (1854) にあたる必要がある。
命名者 アサ・グレイ Asa Grayは、19世紀 アメリカの植物学者 (1810-1888) である。
 
『United States Exploring Expedition アメリカ合衆国の探検調査』 第1巻に記載した。自分で発見・採取したものだろう。
Wikipedia より
すでにキノメトラ属のほかの種が記載されていて、ハンカチーフの木の花が、それらの花よりも大きかったために grandiflora と名付けた、 と考えるのが自然である。
 
それではキノメトラ属の花は?
幸いに シンガポール植物園で、リンネの『植物の種』 (1753) に記載されている、Cynometra cauliflora を見たことがあり、一例として取り上げる。
ジャケツイバラ科 Cynometra cauliflora (1753)
ジャケツイバラ亜科の花は一般的に枝に付くが、幹生花があるとはこの木を見るまで知らなかった。
 
葉は二枚のみの小葉からなる複葉で、小葉の形が非対称なところは本種と同じ(写真 上左)。 皺だらけの黄緑色の果実ができている(同 右)。
花は極めて小さく、径1cm程度。 雄しべの長さの方が長い。
 
グレイは ハンカチーフの木をキノメトラ属と判断し、花が cauliflora などに較べてずっと?大きかったために、grandiflora としたのだろう。
 
Maniltoa 属 : 詳細は不明
現在の学名 マニルトア属 について色々と調べてみたが、由来はわからなかった。

変更したのは、25歳でボゴール植物園の三代目の園長(在職 1869 - 1880)であった、シェファー (1844-1880) である。 彼を顕彰する意味で、ハンカチーフの木の並木が作られているのだった。 シェファーの生い立ちなどはわからないが、農業の発展と科学的な研究に努めたそうだ。残念ながら 36歳で亡くなっている。

ボゴール植物園年報
帰国後に調べた結果、命名者ゆかりのボゴール植物園で、初めてハンカチーフの木を見たことが判明し、改めて感激した次第。

しかも、本種を記載した書物 『Annales du Jardin Botanique de Buitenzorg』 は、『ボゴール植物園 年報』 のことだった!

ボゴール植物園の創設は 1817年。 その年報を始めたのが シェファーであり、本種を記載した1876年が年報の「第1号」である。 シェファーは Maniltoa属を定義するとともに、本種を分類し直した。

なお、「Buitenzorg」 は18世紀中頃からのオランダ統治時代の呼び名で、その直接の意味は「憂いの外(そと)」。 これは「夏の間の快適な居住地(宮殿)」だったことによる。
 
 
大きな花
それでは本種の花はどんなものなのか?
 
参考になると思われるのは、同じ Maniltoa属の lenticellata の花である。
 
写真はオーストラリア「ジェームズ・クック大学」のデーベースにあったもので、商業利用でなければ使ってもよいことになっているため、お借りした。
 
Maniltoa lenticellata
スケールがないので正確な大きさはわからないが、一つの花のサイズは、小葉の幅程度 と考えてよい。
 
lenticellata は 「気孔のある・皮目のある」という意味であり、花とは関係がなさそうだ。
 
英語名 :
Dove tree : 鳩の木。説明不要ですが、縦長のハトは不自然。
 
Ghost tree : 幽霊の木。赤ちゃん幽霊がいっぱい!
 
和名は英語名の Handkerchief tree を参考にして付けられたのかも知れない。
ジャケツイバラ科 :
ジャケツイバラについては 別項を参照のこと。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        シンガポール植物園植物ガイド/
         シンガポール日本人会自然友の会、ボタニックラバーズ
        Wikipedia、
        Four Guided Walks/Bogor Botanic Garden
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