パラゴムノキ
Hevea brasiliensis Müll. Arg.(1865)
← Siphonia brasiliensis H. B. K. (1825)
科 名 : トウダイグサ科 Euphorbiaceae
属 名 : パラゴムノキ属  Hevea Aubl. (1775)
原産地 : アマゾン川 流域
用 途 : 採取した樹液から 天然ゴムを作る
ゴムの採取が終わった木の材は、チップボード・合板や家具材として使われる 
撮影地 : 中国 、シンガポール
マレーシア、日本(温室)

中国南部、雲南省の西双版納 (シーサーバンナ)タイ族自治州に出かけ、最南部の勐腊(モンラー)県で目にした栽培状況である。

勐腊(モンラー)県の位置
左上は中国全図。その中の雲南省の位置を示している。

中央は雲南省。黄色の部分が西双版納タイ族自治州である。

右下、ピンク色が勐腊県。
勐腊県の東側と南側のほとんどはラオス、西側一部がミャンマーと接している。
地図はWikipediaのものを加工

パラゴムノキの植林の様子
最南部のこのあたりは山が多い。
左側の稜線は30度まではいかないが、正面の斜面はもっときつい。
 
斜度にもよるが、幅60cm程度の水平歩道を作り、4m以下のピッチで木を植えていく。 ここでは 上下方向(傾斜方向)には空間があるので、木が大きくなってもこれでよいのかもしれない。


谷あいの平らな部分は「コメ」、平地部分は「バナナ畑」、その他の 人が歩ける山という山は、パラゴムの木が植えられている。
昔の日本のスギ植林のような、一種の自然破壊である。
 
水田 一部にトウモロコシ畑


バナナ畑


 
大きくなったパラゴムノキ
植える間隔が狭いだけに、ひょろ長い形となる。

原産地では 高さ30m、幹の太さ50cmを超えるという。

採取状況
国道脇の比較的緩い斜面なので、古くに植栽されたものだろう。 ここでも植栽間隔は小さい。 とにかく本数を植えて、採取の箇所を増やす方針だ。 この木の太さは 20cmぐらい。

螺旋状の黒いプラスチックのシートは、「雨よけ」と思われる。

マレーシアのゴム畑          2014.7.5
ここの間隔(縦方向)は 前掲写真(横方向)の倍ぐらいある。

樹液の採取状況

タッピングのガイドとして、幹に縦の筋が入れられている。
それ程太い木ではないので、このケースでは樹皮を剥ぐのは幹の1周分。
始まり部分は上部はほぼ水平に、最後は45度ぐらいの角度を付ける。

木が生長するための「形成層」は傷つけないように、表面の1センチ弱を掻き取る。


以下の写真は、国内の温室で撮影したものである。

葉の様子
細い葉柄の先に、尖った楕円形の葉が3枚ずつ付く複葉で、出始めはツヤのある焦げ茶色である。

新葉の色の変化
フラッシュ 使用



名前の由来 パラゴムノキ Hevea brasiliensis

和名 パラゴムノキ
 : 積み出し港の名前から
Para は原産地アマゾン川流域の野生のゴムノキから取れたゴムが、パラ州の州都パラ(現在のベレン)から世界に積み出されたために、名付けられた。

アマゾン川河口ではなく、すぐ南のトカンティンス川に面した港町である。
ブラジル パラ州 ベレン市の位置

種小名 brasiliensis : ブラジルの
原産地を示している。

Hevea ヘウェア属 :
ブラジルでのパラゴムノキの俗称、heve に由来する。
その意味は 不明。

南アメリカ熱帯に、8~9~十数種が分布する。

Euphorbiaceae トウダイグサ科 :
植物分類学が進んできた現在、どこにも分類できないものが残っているのがトウダイグサ科である、という表現は正確でないとしても、一年草から多年草、低木・高木、多肉植物まで、実に多様な植物が含まれている。

全世界に分布していて、約300~330属 約7~8,000種があるという。

トウダイグサについては、別項を参照。

 
  トピックス 1

主力は合成ゴムに代わられたとはいえ、パラゴムノキは今でも重要な栽培植物の一つで、東南アジアを中心にプランテーションが多い。

『朝日百科/植物の世界』では、3ページを割いて「ゴム物語」を載せている。
その一部を紹介したい。


 イギリスの極秘計画

ブラジルからの持ち出しが禁止されていたパラゴムノキの種子。
19世紀後半に、イギリスはこれを持ち出して ついには東南アジアでの栽培につなげた。

アマゾンのゴムは先史時代からインディオが使っていた
18世紀にヨーロッパに輸出されるようになったが、利用方法がよくわからなかった
1770年に、このゴムが「消しゴム」として使えることが発見され、「こする物 rubber」という名前が付いた
1823年、ゴムが揮発油に溶けることが公表され、新鮮な乳液がなくても繊維の防水ができるようになった
1839年に、米国のグッドイヤーが硫黄を加えるゴムの加工法を発明し、耐性のあるゴムが作られるようになった
ゴムの栽培を独占するために、ブラジル政府は種子の輸出を禁止した
1873年、イギリスのファリスがパラゴムノキの種子の持ち出しに成功
キュー植物園で苗を作り、インドのカルカッタに送ったがうまく育たなかった
1875年にイギリス政府の命を受けたウィッカムが、アマゾンに乗り込む。 約7万粒の種子を採取
1876年、種子がロンドンに着いたのを受け、王立植物園であるキュー植物園は温室内に植えられていた植物を全て撤去
この種子を撒いて約3000粒が発芽。数ヶ月後に 約1900本の苗となる
1877年、初めての苗木は小型温室を備えた船で シンガポール植物園に 22本が運ばれ、その後セイロン島に 約1700本が植えられた
その苗木をもとに、マレー半島やインドネシアへと広められた

シンガポール植物園の パラゴムノキ
冊内の木が 21世紀を記念して、ロンドン市からシンガポール市民に送られたパラゴムノキで、立て札に簡単な説明が書かれている。 
植栽は 2001年10月。

  トピックス 2

 ある ハニ族農民の ゴム採取

西双版納タイ族自治州の勐腊(モンラー)県で、パラゴムノキの栽培とゴム採取をしている、ハニ族の男性 白 文勇さん(36歳)に話を聞く機会があった。


白さんは、「釣り堀」もやっている。

手前2軒の草葺きの小屋は休憩所。
 
その間に茶色い池が見える

 
以前は雲南省の中でもっと北の地域に住んでいた
ザボン・リュウガン・ライチなどの果物を作っていたが、金にならないのでゴム栽培に変えた
3月から10月の期間は、コメも作っている
  パラゴムノキの所有本数、2,000
  栽培面積 約 4.5ヘクタール(67 ムー)
所有なのか賃貸なのかは聞き漏らした
  (中国の広さの単位は「ムー」約26m角)
  1ムーに 30本植える (1本当たり約22 ㎡ )
  苗木を植えてから8~10年で、ゴムの採取が可能になる
  その後最長 40年間、採取できる
夜中の 2時に起きて、タッピングをおこなう
一日の作業は ひとり 300本
乳液が出るのは午前中なので、午後に回収
 毎日同じ木から採取するわけではない
 
資金に余裕ができたら、さらに人の山を借りて、パラゴムノキを栽培する予定
 
なお、トウモロコシは主に酒を造るために栽培しているようだ。
自家栽培だけで足りない場合は購入し、120キロのトウモロコシから、60キロの酒を造るそうだ。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press
        園芸植物大事典/小学館
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
       
世界の植物 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ