サンユウカ  漢字は?
Ervatamia coronaria Stapf (1902)

 
← Tabernaemontana coronaria Willd. (1809)
← Nerium coronarium Jacq. (1786)
 

 
科 名 : キョウチクトウ科 Apocynaceae
属 名 : エルウァタミア属 
  Ervatamia Stapf (1902)
英 名 : Adam's apple , crape gardenia , crape jasmine , flowers-of-love , pinwheel flower
原産地 : インド
用 途 : 観賞用に栽培される。
 
撮影地 : ガイアナ協同共和国
ドミニカ共和国

初めてサンユウカを見たのは南米ガイアナ協同共和国の首都、ジョージ・タウンにある木造のホテル、「カラ・ロッジ」であった。
また、市民の憩いの公園「プロムナード・ガーデン」でも見かけた。

その後名前が判明したあとで出かけた、ドミニカの首都サント・ドミンゴの街のあちこちに植えられているのを見た。
 
木造3階建ての カラ・ロッジ
ガイアナは亜熱帯で木材が豊富なため、古い建物はすべて木造である。
この建物も3階+ロフト の大きなものである。
サンユウカは門の左右の、フェンスに植えられていた。
 
カラ・ロッジの垣根 プロムナード・ガーデン 高さ 1m

 


ねじれた花の形から、キョウチクトウ科であることは想像が付いた。

つる性ではないが、「テイカカズラ」に似ているので花の匂いを嗅いでみたが、香りはしなかった。
 
葉の形 ドミニカのサンユウカ

先の尖った楕円形だが、ドミニカで見たものは葉脈の部分が凹み、あいだが膨らんでいて「リーフパイ」のようになっていた。(右の写真)
クチナシの葉に似ており、英語名のgardenia はこれをとらえたものだ。
 

 
八重咲きのサンユウカ
ネットで「サンユウカ」を検索すると、そのほとんどが園芸品種の八重咲きサンユウカである。
 
花の付き方がまったく違うのであるが、「ひとえ」のサンユウカに較べて、さらにクチナシに似たイメージとなる。

 
小石川植物園で
 
名前の由来 サンユウカ Ervatamia coronaria
 
サンユウカ
 : 散夕香
 ?
小学館の『園芸植物大事典』、朝日新聞社の『植物の世界』 ともにサンユウカの記述はあるものの、漢字の記載がない。
植物販売のホームページに「三友花」という漢字が見受けられるが由来の説明はなく、また意味不明である。
 
サンユウカを分解して「サン/ユウ/カ」とし、それぞれ漢字の候補を挙げてみる。
 サン : 三、散、讃
 ユウ : 夕、遊、友
  カ  : 花、香
 
私の結論は「散夕香」である。
 
ヒントは、サンユウカの「夜行性」にある。サンユウカの花粉はスズメガによって「夜」に媒介される。
このため、夜 少しでも見えるように花の色は白、昼間はにおわないが、夜になると芳香を放つという。
そこで 「夕べに香りをまき散らす花」 という意味で「散夕香」を採用した次第である。
 
ところで、ドミニカではホテルの近くにもサンユウカが植えられているのを見つけたため、夕食の外出時に「夜の香り」を確かめたのであるが、残念ながら全然匂いがしなかった。
「散夕香」の看板に偽りあり、である。

サンユウカの花は昼間もひらいている。
何日間か長持ちする花なのであれば、「三夕花」というのもあるかも知れな
種小名 coronaria : 副冠のような という意味
corona は植物用語で「副花冠・小冠」のことである。
 
「花冠」は一つの花の花弁全体であるが、「副花冠」は花冠の一部や葯が変形してできた付属物を指す。
 
同じキョウチクトウ科のキョウチクトウには、花弁が集まる部分に「ヒゲ」のような副冠がある。
 
サンユウカの場合は、ねじれた花弁の尖端に 明らかに小さく尖って飛び出している部分を指すようだ。

 
副冠の例 スイセン トケイソウ

 
トケイソウの場合は、放射状に並んでいる糸状の付属物が、副冠である。
 
英語名 pinwheel flower : 風車(カザグルマ)
先がねじれた花弁はサンユウカだけではなくキョウチクトウ科の特徴である。
カザグルマ
クレマチスの一種に「カザグルマ」Clematis patens という名があるが、こちらは車輪状で ねじれてはいない。
 
Ervatamia エルウァタミア属 : サンユウカ属
属名の由来ははっきりしない。

中国名は「狗牙花属」であり、子犬の牙の花という意味になる。種小名と同じく、花びらの先端に小さく飛び出ている部分を「牙」としたのであろう。
 
キョウチクトウ科 Apocynaceae :
キョウチクトウ科の基準属は アポキヌム属 Apocynum Linn. (1735) である。
牧野富太郎の『植物学名辞典』には apo(離れて) + kyon(犬) とあったが、意味はなぞである。
 
中国の属名「狗牙花」はこれに関係しているのかも知れない。
 
アポキヌム属は基準属となっているにもかかわらず、キョウチクトウ科を代表する属ではないが、日本にも「バシクルモン」という、変な名前の多年草がある。 
バシクルモン
Apocynum venetum Linn.
var. basikurmum H.Hara
北海道から新潟県にかけての日本海側に分布。
外国語のような名前は、アイヌ語の「パスクル(カラス)」と「ムム(草)」に由来する 『植物の世界』 とあるが、ピンクのかわいらしい花なので、カラスには不似合いである。
 
別名 オショロソウ。
写真は春日健二氏
(
kasuga@mue.biglobe.ne.jp
のホームページ「日本の植物たち」
の中からお借りした。

 
キョウチクトウ については、キバナキョウチクトウの中の記述を参照していただきたい。
 
 参 考
 
テイカカズラ
 定家葛 : Trachelospermum asiaticum Nakai (1922)
大好きな花なので、参考に掲げる。
キョウチクトウ科テイカカズラ属 本州、九州、四国に分布する つる植物である。
初夏に咲く花はサンユウカよりは小さいが、よく似た形である。花は数日間咲き続け、次第に黄色みを帯びる。
こちらは咲き始めからいい匂いを漂わせる。
 
和名は、藤原定家の伝説にちなむ謡曲『定家』に由来するものである。
定家が思いを寄せた 式子内親王の墓に「カズラ」がまつわりつくので、内親王が霊となって、旅の僧にその苦悩を訴える という内容。
 
テイカカズラ テイカカズラの実
キョウチクトウ科の多くは 二股に分かれた実を付ける。
 
ほっておくと、気根を出して家の壁でもへばり付く。
伸びすぎる「つる」を剪定する手間が掛かるのが難点と言える。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        春日健二氏のホームページ「日本の植物たち」
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