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科 名 : | イチョウ科 Ginkgoaceae | |||
属 名 : | イチョウ属 Ginkgo Linn. (1771) | |||
中国名 : | 銀杏 yin xing | |||
原産地 : | 中国 | |||
用 途 : | 公園樹、盆栽として 植栽。東京都の街路樹ではイチョウが最も多い。 材は黄色、天井板、将棋の駒、将棋盤、算盤の玉細工物などに使う。 種子を食用にする |
園内には多数のイチョウがある。雄株 雌株の区別は、花時以外はギンナンが大きくなるまでわからない。 「精子発見のイチョウ」が看板商品だが、秋の黄葉は 正門をはいってすぐ左の 雄株群に軍配が上がる。 |
①:もうすぐ冬 2010.12.2. |
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手前が精子発見のソテツで、二大裸子植物そろい踏み。黄葉は意外と遅い。ここでは縦に2本並んでいる雄株がひとつに見え、高さも約24m あるので大きなボリュームとなっている。 |
①:冬の姿 2011.1.25. |
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①:新緑の様子 2010.4.26. |
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イチョウはソテツなどと同じ裸子植物(種子が子房に包まれずに そのまま露出している植物)で、種子植物ができる以前から存在していた原始的な植物である。ギンナンは、見た目には果実のようだが 「種子」である。 |
種 子 | 果 実 (オウトウ) |
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さらにイチョウやソテツ類が他の植物と大きく違うのが、精子の存在。雄株から「精子」が飛んでいくわけではなく、まずは被子植物と同じように花粉が雌株に到達する。
詳しくは後半に・・・・。 (内容はソテツの項との重複あり) |
2012.9.14 ②:ボダイジュ並木のイチョウ. 2007.1.13 | |
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雌株、左手前の幹はユリノキだが、右側に本家ユリノキがある。 右の写真は 奥から南を見ている。 |
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イチョウの樹形を遠くから見ても気が付かないのだが、葉の付き方の特徴が「短枝」である。通常の新しい枝だけでなく、古い枝に無数に残る短い枝に葉をまとまって生やす。(束生) |
①:短 枝 2000.1.21. |
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短枝ができるのは、雄株・雌株に共通である。 |
短枝の詳細 2011.1.15. | |
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この短枝で 長さ3センチ。4年分だろうか。 鱗状のものは葉の落ち跡。先端が冬芽で芋虫そっくりだ。 以下すべて①の木で撮影。 |
動き出した冬芽 2013.4.5. |
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一部しか見えていなかった芽鱗の中の部分には、まだら模様がある。 |
先に雄花が見えてくる 2011.3.27. |
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中央からは 葉が 2011.4.5. |
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別の芋虫が出現 2007.4.10. |
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十分に展開すると 雄花が房状に垂れ下がる。芽鱗は意外にも長い。被子植物とはそもそも花の仕組みが違い、雄しべだけで花弁はない。 |
2011.1.14. |
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ウィンナソーセージのような形の「葯胞」は、成熟する割れて反転萎縮して、まるで落ちてしまったように見える。花粉はすでに風で運ばれてなくなっている。 |
花軸に残った花糸 2011.4.15. |
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水辺に落ちた雄花序の残骸 2001.4.22. |
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軸ごと落ちて まるで芋虫のようだ。 |
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雌 花 2012.4.18. |
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雌花の付き方も雄花と同じく短枝に付く。2012年の冬は寒く、イチョウも1週間以上遅かった。 |
ふたつの胚珠 2012.4.24. |
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種子となる部分(胚珠)は、花柄の先にふたつずつ付く。花と呼んではいるが、胚珠がむき出しの状態であり、被子植物とは違う。 |
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胚珠の頂部に粘液質の「受粉滴」を出し、飛んでいる花粉を付着させる。受粉滴は何度か出入りして、多くの花粉を取り込む。 |
種子の成長 2012.5.5. |
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受粉した胚珠だけが大きくなって、種子となる。ただし「受精」は通常 8月末か9月初めということなので、4ヶ月は無精卵の状態。 |
径 1センチ 2012.5.23. |
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2週間ちょっとで この大きさ。 |
2011.7.8. |
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2ヶ月後には ほぼ最終的な大きさまで育っている。 |
なかには落ちてしまうものも 2012.9.14. | |
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まだ 全然臭わず、むしろ青臭い。「受精」は8月下旬か9月上旬という事なので、落ちていたものを切ってみたが、すでに中種皮は硬かった。うまく受精しなかったものが落ちるのだろう。 |
次第に色付く 2006.9.24. |
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③:収 穫 2010.11.11. |
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カリン林手前の木。ここ数年は 職員がていねいに拾い集めている。「特製のど飴」の原料にしたり、銀杏を配ったりしてくれる。 |
無料配布のギンナン 2011.11.20. |
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硬い殻は 中種皮、茶色い薄皮が 内種皮。食べるところは 内乳。 |
発芽を待つ 2007.12.23. |
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画面からも臭いが漂うでしょう。イチョウは発芽力が強いので、林内の柔らかい地面では無数の実生苗が生えている。しかし、踏みつけられた固い地面では難しい。 |
④:実生苗 2012.6.7. |
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標識43番近くの大木のもの。若葉(および若木)の葉は すべてふたつに割れている。 リンネが biloba と名付けたのは、ケンペルの絵が「二裂」だったからだけではなく、ヨーロッパ(やリンネ)の元に持ち込まれた種子から育った若木の葉が、ことごとく (99%以上) 二つに裂けている状態を観察したためではないだろうか。 |
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ふたつ以上に裂けているものもあるが、中央だけは 驚くほど深く切れ込んでいる。少なくとも園内のどの木の実生も、同じである。園内のイチョウの親木がひとつ
の可能性はあるが、事典にも幼い葉には深い切れ込みがあるという記述があった。 ただし biloba の意味が単に「二裂」ではなくて、「浅く二裂する」のが真意であるなら、この葉の状態とはちょっと違う。 |
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⑤:精子発見のイチョウの根元 2012.9.14. |
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目通り145センチ(長径)、高さ 約24m。太くなると縦のスジは不明瞭になる。 |
2012.2.21 幹の様子 2012.9.14 | |
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割れ目が深いということは、樹皮が剥がれにくい ということ。 右は2年目の幹で、径 約4センチ。急激に幹が太ったために、1年目の樹皮が編み目のようになっている。それでも剥がれることなくへばり付いている。割れる場所・本数は増えていくが、一定程度太くなると同じ場所が割れるようになり、左の模様となる。 |
写真左の樹皮の詳細 2012.2.21. | |
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形成層では内側に木部、外側にコルク層を形成する。外側に重なる層のひとつひとつが、毎年できたコルク層だと思われる。白い所は、割れ目が広がって新たにコルク層が見えた部分。内部の樹皮の厚みは、切ってみないとわからない。 |
③:気 根 |
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大木になると、枝の下などから「乳」と形容される 太い気根が出る。成長は遅く、まれに気根部から枝が出ることもあり、なんのために この気根を出すのか、よくわかっていないそうだ。 |
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垂れてきた枝 2012.9.17. |
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日比谷公園の雌株。先端で普通に伸びる一年目の枝(長枝)の成長は 約60センチ。葉は互生で二裂している。 |
株の元から出たひこばえの枝 2012.9.14. |
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小石川植物園。同じく、すべての葉が はっきりと二裂している。 |
一年目の枝 |
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枝はなめらかで葉腋に芽ができている。これが短枝の元。 |
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左と下:一年目、右:二年目 の枝 2012.9.14. |
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そのまま ただ一本に伸びることも多いが、ここでは枝分かれしている。二年目の枝には細かいひび割れができて、白っぽくなっている。 |
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二年目の枝に生えた葉。一箇所から束生している。これが 短枝の一年目の状態である。 |
葉裏は少しだけ白い |
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分岐する平行脈 |
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葉柄では2本だった葉脈(維管束 いかんそく▲)は、二股分岐を繰り返して広がり、網目状にはならない。 |
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余談だが、東京大学のマークは昔からイチョウの葉をデザインしたものだ。新しいマークでは 葉の切れ目が単純化された。 |
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青い葉は「二裂」していて、これは恐らく「若い葉」を表しているのだろう。一方 黄葉して散っていく葉、つまり卒業する葉は四裂しているので、このデザイナーはイチョウの実態を理解して図案化したようだ。「生きた化石」と表現されるイチョウをシンボルマークとしているのはまずいのでは、と冗談半分に話す人もいるが・・・・。 大阪大学・東京都など、 ほかにもイチョウをシンボルマークにする学校・団体は多い。 |
東京都 シンボルマーク (都章ではない) |
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⑥:黄葉+夕日 2000.12.9. |
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奥の東屋付近にも大木があり、落葉時には黄色の絨毯となる。 |
イチョウ の 位 置 |
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写真① : | F14 c | ● | 正門をはいって すぐ左手、2本 |
F14cd | ● | トイレの前の2本のうち、太い方は雌株 | |
写真② : | C7 a | ● | ボダイジュ並木奥の左側 |
写真③ : | B4 d | ● | シマサルスベリ並木 |
写真④ : | E9 a | ● | 標識43番近くの崖地 |
写真⑤ : | C9 c | ★ | 精子発見のイチョウ イロハカエデ並木の突き当たり |
写真⑥ : | D2 c | ● | 奥の東屋手前、その他近くに4本 |
⑦ : | F5 a | ● | 梅林のはずれ(トップの写真) |
名前の由来 イチョウ Ginkgo biloba | ||
イチョウ 銀杏 : |
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種小名 biloba: 浅く二裂した という意味 | |
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実際の葉は 木によって、また ひとつの木の中でも様々で、少し探せば、0 から 4裂 ぐらいまではすぐに見つかる、こともある。 |
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シーボルトの『日本植物誌』にもイチョウは描かれている。 着色部分は雌株短枝に 雌花が咲いている様子が正確に描かれているが、すべての葉に 切れ込みがない。バックには線画で長枝部分が描かれているが、すべての葉に2つ以上の切れ込みがある。 |
京都大学理学部所蔵の『日本植物誌』イチョウ図へのリンク |
Ginkgo イチョウ属 : | |
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トピックス : 精子発見のイチョウ: 写真No.⑤ |
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精子はどこに? | |||||||
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被子植物 | イチョウ | |
雄の生殖器官: | 雄しべ 葯の中に花粉がはいっている |
雄株の小胞子葉(小胞子囊穂とも)の裏に無数の花粉囊があり その中に花粉がある |
雌の生殖器官: | 雌しべ(通常は柱頭・花柱・子房からなる)。 子房の中に「胚珠」がある |
雌株の先端に大胞子葉が付き、その柄の部分に種子の元である「胚珠」が剥き出しとなっている |
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花粉の付き方: | 雌しべの先端である柱頭に着く | 胚珠の中に直接はいる 栄養をもらって数ヶ月間生き続ける |
花粉管の延び: | 柱頭から花柱の中を 胚珠まで伸びる | 卵細胞に向けて少し伸びるが 到達はしない |
受精のしかた: | 伸びた花粉管が卵細胞に到達し、「精細胞2個」を 直接卵細胞に送り込む 受精までの時間は 通常 数時間 |
伸びた花粉管から、繊毛が生えた「精子」が出てきて 泳いで卵細胞に到達する |
雄花の花粉を観察しても 精子はまだできていない。 受粉したギンナンの中を、8月下旬から9月下旬にかけて観る必要があるが、木によって精子を放出する日が違うそうだ。 イチョウの精子は 約 0.1mm と小さいために、少なくともルーペが必要だ。ソテツの精子はずっと大きく、約 0.2~0.4 mmあって 肉眼で見えるらしい。 |
本項が長くなったので、イチョウの変種や品種については、別項で取り上げる。 |
植物の分類 : | APG II 分類による イチョウ の位置 |
原始的な植物 |
↑ | 緑藻 : | アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など | |||||
シダ植物 : | 維管束があり 胞子で増える植物 | ||||||
小葉植物 : | ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など | ||||||
大葉植物(シダ類): | マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど | ||||||
種子植物 : | 維管束があり 種子で増える植物 | ||||||
裸子植物 : | 種子が露出している | ||||||
ソテツ 類 : | ソテツ、ザミア、など | ||||||
イチョウ類 : | イチョウ | ||||||
イチョウ目 | イチョウ科 のみ | ||||||
イチョウ科 | イチョウ属 イチョウ のみ | ||||||
マツ 類 : | マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など | ||||||
被子植物 : | 種子が真皮に蔽われている | ||||||
被子植物基底群 : | アンボレラ、スイレン、など | ||||||
モクレン亜綱 : | コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など | ||||||
単子葉 類 : | ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など | ||||||
真生双子葉類 : | キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など | ||||||
中核真生双子葉類: | ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など | ||||||
バラ目 群 : | |||||||
バラ亜綱: | ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など | ||||||
マメ 群: | ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など | ||||||
アオイ群: | アブラナ、アオイ、ムクロジ、など | ||||||
キク目 群 : | |||||||
キク亜綱: | ミズキ、ツツジ、など | ||||||
シソ 群 : | ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など | ||||||
↓ | キキョウ群: | モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など | |||||
後から分化した植物 (進化した植物 ) |
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