クリトリア フェアチャイルディアナ
Clitoria fairchildiana Howard (1967)
← Clitoria racemosa Benth. (1837)
科 名 : マメ科 Fabaceae
属 名 : クリトリア属 Clitoria Linn. (1735)
英語名 : butterfly-pea(属名)
原産地 : ブラジル
用 途 : 鑑賞樹、陰影樹
撮影地 : シンガポール

シンガポール植物園の最北部に地下鉄駅が新設され、新しい門も設けられた。以前に訪れた時はその一帯が工事中だったが、この木は以前からあったのか、それとも新しく植えられたものなのか。いずれにせよ 生まれて初めて見たクリトリア。

ボタニカルガーデン駅を出ると すぐに入口
切符売り場はありません。入場無料。 次の写真は園の内側から。

塀沿いの何本かの木      2014.7.4.
入口をはいると園路は右に曲がるが、そこに沿ったすぐ右手。赤い服の人たちは雑草を刈る作業中。


奥の背の高い二本の木
5mぐらいの高さで、下枝が枝垂れてきている。

終わり近い花
長い花序は枝先から垂れ下がり、元の方から咲いていく。

葉は3出複葉
3枚しかない代わりに小葉は大きく、長さ10〜15センチ。
右後ろに入口が写っている。

花の様子
線状の斑紋が入った赤紫の花。
マメ科の植物では旗弁は軸側にあるのが基本なので、花序が下向きになる本種では、花柄はねじれていないはずだ。もし 花序が上向きになった場合は、180度捻ってこの写真と同じように咲くのだろう。
各つぼみは 大きな苞に包まれている。

花序が下向きになるのが当然のフジの花。これまで不思議には思わなかったが、すべての花が花柄をひねっていることになる。
小石川植物園のノダフジ       2008.4.27.

若い実         2014.7.4.
下の方にはなかったが、高い所に黄緑色の莢がいくつも生っていた。しかし、それぞれの花序にひとつだけが多い。


名前の由来 クリトリア Clitoria fairchildiana

和名 仮称 コダチチョウマメ : 木立蝶豆
クリトリア属はツル性や灌木の種が多いなかで、本種は大きな木となるため。チョウマメ 蝶豆は花の形をチョウに喩えたもので、Clitoria ternatea の和名となっている。また 中国でも クリトリア属を蝶豆属と呼んでいる。

種小名 fairchildiana
フェアチャイルドといえば人名。
未確認だが、現代の植物学者で収集家の David Fairchild (1869-1954) ではないだろうか。

命名はごく最近の 1967年で、命名者の R. A. Howard (1917-2003) はマイアミ大学を卒業した後に専門家として職を得たハーバード大学で、1939年に奨学金を得て1942年に博士号を取得した。その後 ボストン アーノルド樹木園の園長を長く務めた。フェアチャイルドと時代もラップする。
フェアチャイルドは アメリカ農務省に、海外の種子や植物を移入する部署を設け、全世界の有用植物をアメリカにもたらした。

1938年にフロリダに開設された 熱帯植物園は、彼の名を冠して Fairchild Tropical Botanic Garden とされた。フェアチャイルドは 植物園のために多くの熱帯植物の収集を行った。
D. Fairchild

Clitoria クリトリア属 :
花の形が 女性の体の一部に似ていることから名付けられた。

クリトリア属 命名経緯 の考察
Wikipediaによると、初めにこの属の種に名前を付けたのは ドイツ人の植物学者 ケオルク・ルンフィウス (1627頃- 1702)で、「Flos clitoridis ternatensibus」と呼んだという(現在の二名法ではなく、名詞と形容詞を連ねた表現)。
文献名や刊行年はわからない。
ルンフィウスは東インド会社に雇われて、オランダ領のアンボン島に派遣された。クリトリア属の種子を初めてヨーロッパに送ったのは、モルッカ諸島の「テルナテ島」からだった とされている。(ウィリアム・カーチス/ボタニカルマガジン 37巻)
Clitoria ternatea チョウマメ 蝶豆

             Wikipedia より

多年生のつる植物、花はひとつずつ
つるが上向きでも、花柄が捩れて花は下向き
ボタニカルマガジン 37巻 より

当時すでに「種」をグループ分けして「属」とする考え方が普及しており、リンネ (1707-1778)の二世代前である トゥルヌフォール (1656-1708)はこれをうけて、本属をTernatea属 とした。

一方、リンネの一世代前のディレニウス (1687-1747)は Ternatea属 と Clitorius属の両方を用いていたが、リンネは『植物の属』(1735)で Clitoria属とした。

そして『植物の種』(1753) に4種を記載した。
  1.C. Ternatus の参考文献のひとつに、
     Flos clitoridis ternatensium. Breyn. cent.
と書かれていたために、以前は .ルンフィウスではなく、このドイツの植物学者 J. P. Breyne (1680-1764)が、最初に記述したものとの誤認があった。その4種の中ではもう一種、
  4. C. mariana が正名として生きている。
Clitoria mariana
C. mariana はアメリカ合衆国に広く自生する、45〜60センチの高さ多年生植物。花の色は本種に似ているが、葉腋に単性する。
Clitorius属についてはその名前に対して異論が巻き起こり、様々な「優雅な」属名が提起されたが、植物規約によってクリトリア属が正名となっている。

Clitoria racemosa の命名経緯
racemosa 総状花の という意味である本種の以前の学名 Clitoria racemosa は 1837年の命名である。普通ならば 先に命名された学名が有効となるはずなのに、なぜ racemosa は無効なのか? 命名の経緯を調べてみると、さらにその前に同じ名前があった。 C. は Clitoria の略。

命名年 学 名 和 名 命名者 備 考
1735  Clitoria  クリトリア属  リンネ  
@ 1832  C. racemosa  → Vigna rasemosa  G. ドン  本種とは別の種
   解説:命名時点では 正名だったが、Vigna属に訂正されたのは 1929年。
    90年以上もの間 @とA ふたつの C. racemosa が存在していたことになる。
A 1837  C. racemosa   本 種  ベンサム
   解説:すでに使われている種小名と同じ名を付けてしまった。
      現代と違って出版情報がすぐに伝わらなかった可能性もある。
      同属だった別植物に同名を付けてしまった時点で、Aは無効。
      たとえ@が別属に訂正されても、racemosa の種小名は、
      Clitoria属では使えない。  植物命名規約(メルボルン)第53条
1967  C. fairchildiana   本 種  ハワード  Aを訂正
   解説:100年以上にわたって Aが使われていたが、この間違いに気づいた
      ハワードが訂正。命名規約の改定が関係しているのかもしれない。

マメ科 :
「マメ」という名の植物はないため、マメの由来については植物事典に載っていない。

「丸い実 マルミ」が マメに転訛した、という説が有力。

マメ科の植物の特徴は、「蝶型の花」、「サヤ状の実」、通常「10本の雄しべ」である。
以前は「ネムノキ科」と「ジャケツイバラ科」に分けられていたが、APGの分類では、すべてマメ科に統合された。豆果ができることが共通点となっている。


「豆」の字を漢和辞典で調べてみたら、元の意味はマメではなく、「肉を盛る食器の形」で「高坏 タカツキ」を表した象形文字であった。
トウの音も、もともとは「高い脚」で立っていることから、「リュウ、チュウ」だったのが、「トウ」に変化したもの。

そして、「マメ」の意味で使うようになったのは、「アズキ」を意味する「荅 トウ」と 発音が同じであったために借用した、(誤用?)ということである。
『漢和中辞典/角川書店』
本来とはまるで違う意味の字を「マメ」として使っているわけで、豆の字の 四角い部分は「実」を表したものではなく、「器の形」だったわけである。

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