サクラ属 の分類 |
小石川植物園には、いわゆるサクラ類とウメの園芸品種のコレクションも充実している。 このホームページでは、アメリカ農務省の GRIN を学名の基準として参考にしているが、そのサクラ属の分類が変わったので、改めて分類一覧を作成する。 |
GRIN:アメリカ農務省のデータベース、、、、 (Germplasm Resource Information Network) |
Prunus サクラ属 |
GRINでは サクラ類、ウメ・スモモ類、モモ類などを、すべて「サクラ属 Prunus 」としている。花序の構成や果実の形状などには違いがあっても、遺伝子的にはさほど違いが無いというのが、その根拠だと思われる。 下位分類として、サクラ属は次の4つの亜属に分けられる。 |
掲載は 学名のアルファベット順 |
モモ亜属 Amygdalus | サクラ亜属 Cerasus | Emplectocladus 亜属 | スモモ亜属 Prunus | |||
・果実に縦のへこみがある ・側芽は3個 ・頂芽がある ・毛がある |
・果実に縦の凹みが無い ・頂芽がある(通常 葉芽) |
新しく設けられた亜属 写真は P. fasciculata Wikipedia より |
・果実に縦のへこみがある ・側芽は1個 ・頂芽は発達しない |
4亜属のうち、ふたつは下位の「節」に細分される | |
◆ Amygdalus モモ亜属 | |
◆ Cerasus サクラ亜属:2節 | |
1)Cerasus サクラ節 | |
2)Laurocerasus バクチノキ節 | |
◆ Emplectocladus 亜属 | |
◆ Prunus スモモ亜属:5節 | |
1)Armeniaca アンズ節 | |
2)Microcerasus 節 | |
3)Penarmeniaca 節 | |
4)Prunocerasus 節 | |
5)Prunus スモモ節 |
以下、青字の種 および 白地タイトルの写真は、小石川植物園の植栽種 |
◆Amygdalus モモ亜属 | ||
モモ Prunus persica、アーモンド P. dulcis、ほか | ||
2010年には園内のどこかで モモを見たことがあったのだが、現在は無いようだ。また、'残雪枝垂れ' という園芸品種があったが、2013年には枯れてしまった。 | ||
①:モモ '残雪枝垂れ' P. persica 'Pendula' | ||
素晴らしい樹形だった。八重だが花弁数はそれほど多くなく、20枚弱。萼片は二重となって 10個。平開する咲き方もよかった。 撮影は 2000年および2011年 |
◆ Cerasus サクラ亜属:2節に分けられる | ||
1) Cerasus サクラ節: | ||
いわゆる「サクラ」類で 代表はソメイヨシノ。図中の●のほか、園内いたるところで見られる。園芸品種やサトザクラは、おもにサクラ園に。 もう一種 オオシマザクラ を挙げておくが、サクラ節の種類と位置は「サクラ・コレクション」を参照のこと。 |
●ソメイヨシノ | ②オオシマザクラ p. speciosa |
ソメイヨシノ:Prunus. x yedoensis = P. itosakura × P. speciosa |
植栽位置 (①は 枯死) |
2) Laurocerasus バクチノキ節 | ||
穂状花序をもつグループ。 | ||
イヌザクラ P. buergeriana、ウワミズザクラ P. grayana、 セイヨウバクチノキ P. officinaris、リンボク P. spinulosa、 バクチノキ P. zippeliana、ほか |
③ イヌザクラ P. buergeriana | |
純正花芽 |
④ ウワミズザクラ P. grayana | |
混合花芽 |
⑤ セイヨウバクチノキ P. officinaris | |
実▼は 滅多に生らない |
⑥ リンボク P. spinulosa | ||
3本とも高木であり、さらに 現在は立ち入り禁止となっている区域に生えているため、詳細な写真は撮れない。 |
⑦ バクチノキ P. zippeliana | |
◆Emplectocladus 亜属 | ||
Prunus fasciculata | ||
これまで スモモ亜属の中の Emplectocladus節だったものが、亜属に格上げされたもの。 | ||
Prunus fasciculata について |
GRINの Emplectocladus亜属に登録されている種は P. fasciculataとその1変種のみで、アメリカ西南部およびメキシコ原産。 乾燥に適応した形状に変化したもので、「wild almond, desert almond, desert peach」 などと呼ばれている。 |
最初の命名時の学名が Emplectocladus fasciculatus (1851) で、その属名が旧節名 および 今回の亜属名に使われている。 |
属名は 先が刺状になる細く短い枝、あるいは葉を束生する短枝を表し、種小名は束生する葉に由来しているようだ。 |
Prunus fasciculata 写真はすべて Wikipedia より. | ||
葉だけでなく、花弁も小さくなっている。 |
◆ Prunus スモモ亜属:5節に分けられる | ||
1) Armeniaca アンズ節: | ||
アンズ Prunus armeniaca var. ansu、ウメ P. mume |
⑧ アンズ | |
正門横の自転車置き場。本来5弁の花弁が八重なので、純粋のアンズではなさそうだ。 基準変種 Prunus armeniaca var. armeniaca はカザフスタン・中国原産で『原色樹木大図鑑』によると「日本の気候風土に合わず 栽培されていない」そうだ。 |
ウメ '白加賀' ( 梅園内 ) | |
本園の 豊富な園芸品種コレクションは こちら を。 |
植栽 位置 (★は区域を示す) |
2)Microcerasus 節:低木のサクラ の意味 | |
ニワザクラ P. glandulosa、ニワウメ P. japonica、 ユスラウメ P. tomentosa、ほか |
ニワザクラ | ニワウメ | |||
2011.4.15 | 2001.4.7 |
カンザクラの近く(⑩)に植えられているが、ともに勢いがない。両種とも原種ではなく、八重咲きの園芸品種。 |
⑪ ユスラウメ P. tomentosa | |
分類標本園。 原産地はモンゴル、中国、韓国。開花とほぼ同時に出葉。 |
3)Penarmeniaca 節: | ||
節名は penna 羽状の + armeniaca アンズ だが、何を表しているのかはっきりしない。 | ||
GRINのデータには 3種+3変種が掲載されているが、筆者にとっては未知のものばかりだったので、Wikipedia の写真を利用して以下に掲載する。 そのうちの2種は、Emplectocladus亜属の P. fasciculataと同様に、刺化した短い枝、矮小化して束生する葉など、乾燥地に適応した形態を備えている。 |
Prunus. andersonii (1868) | |
原産地は 米国カリフォルニア州・ネバダ州。 | |
P. fremontii (1880) | |
原産地は 米国カリフォルニア州・メキシコ北部。一般名は desert apricot 砂漠アンズ。 | |
P. pumila Linn. (1767) | |
基準変種 (var. pumila) の原産地は カナダ東部と米国北部。一般名は Great Lakes sand cherry。 |
4)Prunocerasus 節:いうなれば サクラスモモ | ||
GRIN内には12種、1雑種があるが、すべてアメリカ合衆国を中心とした北米原産である。 画像は flickr より。 |
Prunus americana Marshall (1785) | |
flickr creative commons by Eli Sagor |
flickr creative commons by Brett Whaley |
『原色樹木大図鑑/2016』によると「米国で育成された優良品種が日本に逆輸入され、スモモ栽培の主要品種となっている」とのことである。 |
5)Prunus スモモ節: | ||
GRIN内には12種と多くの変種、いくつかの雑種がある。 原産地は 東アジア・東南アジア・西アジアが多い。 | ||
セイヨウスモモ Prunus domestica、スモモ P. salicina 他 |
⑫ スモモ P. salicina の園芸品種 'メスリー' |
下の段の奥のトイレの先。西側の塀に近く、70番通りからは見えない位置にある。開花と芽吹きはほぼ同じ。 2022年秋現在、幹がかなり痛んで弱ってきている。 |
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