カゴノキ 鹿子の木
Litsea coreana H. Lév. (1912)
科 名 : クスノキ科 Lauraceae
属 名 : ハマビワ属 Litsea Lam. (1789)
異 名 : Actinodaphne lancifolia Meisn.(1864)
  ← Iozoste lancifolia Blume (1850)
原産地 : 本州の関東地方以西、四国、九州、南西諸島。  朝鮮半島南部
用 途 : 特になし
雌雄異株の常緑樹。
参考: Actinodaphne属 Nees. (1831)

ユリノキからシマサルスベリ並木まで、20番通りと10番通りの間は常緑樹ばかりで、いつも薄暗い。 カゴノキは、水飲みがある標識25番の少し先 右手に2本ある。 赤い実が生る事から、雌雄の株が1本ずつだと思われる。

               樹 形        1999.9.19
木の全体は見えないが、とにかく そのまだら模様が美しい。               2011.8.30
樹皮の剥げ方が細かいために、この模様となる。 剥がれ落ちるのは夏で、落ちたばかりの所が白い。 この天然ジグソーパズルは完成不可能。

下枝が少ないために 幹ばかりに目が行くが、細長い葉もきれいである。

                     葉 と 花              1999.9.19
花は高い所にしか咲いていない。 この写真は、職員が開花状況を掲載するために 高枝ばさみで枝を切り落として撮影していたところに居合わせ、後で枝をもらったものである。 撮影から12年、ようやく日の目を見た。 葉の裏は白い。

                      雄 花               1999.9.19
ハマビワの花に似ている。 カメラは昔使っていた ニコン E950 で発色が悪い。 たまたま撮影できたものなので、再度 というわけにはいかない。


                   実 と 落ち葉             2011.7.17
実が熟す時期がわかっていなかった事と、見やすい所には無かったために、地面に落ちているものを見て初めて気が付いた。 ハマビワと同じように 10ヶ月の長い時間をかけて熟した実である。 実の直径は 約8mm。

異名の種小名 lancifolia は、この葉の形「披針形の葉の」という意味である。

 
カゴノキの 位 置
B5 d 20番通り、標識25番の先 右手 2本

名前の由来  カゴノキ Litsea coreana

カゴノキ 鹿子の木 : 「鹿の子模様」の意味。
樹皮がはげ落ちた幹のまだら模様を、子鹿の斑点になぞらえたもの。
種小名 coreana : 「韓国の」という意味。
原産地の一つを示している。 主な自生地は日本だが、命名者が韓国で採取した標本に命名したのかと考えたが・・・。
命名者 A. H. Léveillé (1839-1911) についての詳細は不明。
                           → カゴノキの異名 参照
Litsea ハマビワ属 :
Litseaは漢名に由来しているというが、その漢名や意味は不明である。
                              『園芸植物大事典』
アジアの熱帯・亜熱帯を中心に400種ある。
ハマビワ」については 別項を参照のこと。
 
クスノキ科 :
クスノキ」についても、別項を参照のこと。



 カゴノキ の異名 Actinodaphne lancifolia について
クロンキストの分類に拠っている『朝日百科/植物の世界』(1997年発行)では、カゴノキの学名を Actinodaphne lancifolia として カゴノキ属に分類している。

『園芸植物大事典』(1988~1990年発行)には カゴノキの解説はないものの、Actinodaphne属 カゴノキ属 がある。

ところが、APG分類の教科書『MABBERLEY'S PLANT-BOOK III ed.』 (2008年発行) には Actinodaphne属 はない。 花序に付く「総苞」の形態が異なる事から別属とされた「カゴノキ属」であったが、遺伝子的には違いが無いためか、ハマビワ属にまとめられた という事だろう。
 

不思議なのは、現在の正名 Litsea coreana が命名されたのが 20世紀になってからで、異名よりもずっと新しいにもかかわらず、種小名 lancifolia が受け継がれていない事である。

普通ならば、別属に分類し直す時には種小名を引き継いで、 Litsea lancifolia となるはずだが、それが使えない理由があったはずだと考えて調べてみた。

命名年 学 名 命名者 備 考
1789   Litsea  Lam.  ハマビワ属
1831   Iozoste属  Nees  = Actinodaphne属
1831   Actinodaphne属  Nees  カゴノキ属、APGでは不使用
1851  Iozoste lancifolia  Blume  最初の命名、現在はカゴノキの異名
1864  Actinodaphne lancifolia  Meisn.  ①の属を訂正、最近までは採用されていた
   現在はカゴノキの異名
1880  Litsea lancifolia  Villar  カゴノキとは別の植物に対する命名
③' 1886  Litsea lancifolia  Hook. f.  カゴノキとは 別の植物に対する命名
1886  Litsea blumii  Hook. f.  ブルーメが付けていた植物に
  対する異名
1912  Litsea coreana  H. Lév.  現在の カゴノキの正名

解説:
長らく ② が採用されていたが、APG分類 際して Litsea 属とするべき、となった。 ところが、Litsea lancifolia はすでに ③ ③' で記載されていた。

たとえ正規の名称となっていなくても、以前に同じ名前 があると それは使えない という命名規約があるために、カゴノキを Litsea 属と表明する時にそのまま lancifolia とすることができず、現在の名称 は改めて別の種小名 coreana を付けて訂正したものであった。

新たに発見した植物に命名したわけではないので、元となる標本(タイプ標本)は変わっていない。 その標本が韓国で採取されたものなので、coreana (韓国の、韓国産の)と命名された可能性が高い。

①を最初に命名した ブルーメ (1789–1862) はドイツ出身で、オランダ東インド会社に勤め、インドネシア ボコール植物園の園長を務めた植物学者である。
C. L. von ブルーメ
Wikipedia より
 
ちなみに、ブルーメを顕彰して種小名にその名を付け Litsea blumii とする事も考えられるが、これも ④で 過去に使われてしまっていた。                        『Index kew』のDBによる。



植物の分類 APG II 分類による カゴノキ の位置

ハマビワ属は 単子葉植物以前、早くに分化した植物のひとつである。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 クスノキ目   ロウバイ科、モミニア科、クスノキ科、ハスノハギリ科、など
クスノキ科   ニッケイ属、ゲッケイジュ属、ハマビワ属、タブノキ属、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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