タブノキ 椨の木
Machilus thunbergii Sieb.& Zucc.(1846)
科 名 : クスノキ科 Lauraceae
属 名 : タブノキ属 Machilus Nees (1831)
別 名 : タブ、イヌグス、アオグス、アオタブ など
生活と結びついていたので地方名が非常に多い
中国名 : 紅楠 hong nan
原産地 : 本州 秋田以南から 沖縄
朝鮮半島南部、台湾、中国
用 途 : 照葉樹林の代表種で、緑化樹として植栽される。材は硬く、かつては建築の土台・鉄道の枕木に使われた。現在でも 家具・美術品の彫刻・楽器などに使われる。
樹皮はタンニンを含むため、黄八丈の染料として、また以前は漁網の染色に使われた。

現在は植木屋の供給ラインに乗っていないためか、庭園樹・公園樹としては クスノキに負けて、使われることは少ない。大木になると樹皮が無骨になるためだろう。タブノキは自然の中が似合っている。

植物園にも何本かの大木があるが、本来は横に広がる樹形でそれほど高くはならない。事典でも 10〜15m、時に20m となっている。
中でも ハンカチノキの奥にある小山 (園内の最高地点)には太い木がある。園外で撮影した写真も交えて、変わった枝の出し方をする様子を紹介したい。

@: 樹 形       2012.11.21.
中央奥の横に張った緑の葉。高さ おおよそ 17m。
@:斜めに生えている
幹の様子
山の麓から。

A: 株立ちのタブノキ
@よりもハンカチノキの近くにあるもの。大木が根元から折れた後に、脇から出たひこばえが育った形だ。もしかしたら、元の木は江戸時代のものかも?

B:常緑樹林のタブ  2012.2.23.
圧倒的な枝張りで、空が見えない。
10番通りをどこまでも進んだ奥、標識16番の手前右側。


C:下の段のタブ  2012.11.21.
70番通りの左側、園の下の道沿いに2本あるうちの一本。高さ 約14m。

D:トイレ付近のタブノキ    2011.5.18.
      ↑タブノキ 高さ 約13m      トイレ↑
この後、道路拡張工事の準備でせっかくの下枝などが切られてしまった。    (次の写真の 2012.11.21)

若い木の幹 大木の幹:D
若い木の方は 高崎市染料植物園で。ぽつぽつとした皮目がある。
太くなってくると比較的なめらかになるが、さらに太くなると荒れてくる。

枝と葉の成長
冬芽の様子        2012.1.7.
芽は 大量の鱗片で守られている。これは大きく丸いので 花芽かも知れない。芽の長さ 約2センチ。

ほころびた葉芽         2011.6.4.
筑波植物園なので 東京よりも一ヶ月弱 遅い。黄色いのが「芽鱗」、赤みがかったものは 「前出葉・低出葉」で、正規の葉とはならずに落下する。葉の縁(ふち)には長い産毛が生えているが、これも じきに落下する。

展開しだした葉芽         2011.6.4.
項目が白抜きのものは、筑波植物園 撮影
新葉は少し赤みがかっている。もっと赤くなるものもある。

同時枝        2012.6.2.
タブノキの特異な成長方法。普通の樹木は まず主となる枝を伸ばし、遅れて側枝(そくし、いわゆる枝) を出す。ところがタブノキは、冬芽の中に何本もの側枝まで用意しておき、一度に成長する。

同時枝は、タブノキのほかに クロモジ・カナクギノキ・ビワなどに見られる。また、根元から生えるひこばえは同時性をもつことが多いそうだ。

赤い前出葉が美しい      2012.5.8.

秋の葉の様子      2011.10.25.
中央には 小さな冬芽ができている。

芽鱗の痕跡    2012.1.7.
芽鱗の枚数が多いため、落ち跡もはっきりしている。これが幾つあるかを確認すれば、何年経った枝かが すぐにわかる。

花 と 実
残念ながら枝で咲いている画像がない。Wikipediaに花芽が出だした写真が掲載されていた。
花 芽     撮影時期、場所は不明.

つぼみ         2012.5.5.
2日前の風雨で落ちた花序。開花し始めていた。
さらにアップすると、
萼とも花弁ともつかない、つまり 萼と花弁に分化していない 「花被片」が6枚(3×2)。1本の雌しべを中心に 雄しべは3本ずつが三重になって、計9本。3数性である。
雄しべや雌しべの数はモクレンよりはずっと少ないが、軸の周りに部材が何重にも並ぶ構成は、原始的な植物に見られる特徴だ。

無数の実         2012.6.2.
花序は枝先には無いので、先端からは新緑が伸びる。筑波植物園。
花被片6枚が残ったまま、緑の果実が大きくなっていく。

大きくなった実        2012.7.7.
一ヶ月でかなり大きくなり、花被片が隠れて目立たなくなっている。この後 熟して青黒くなる。

木によって あるいは部位によって、上向きに付く実と 垂れ下がる場合がある。左:根津神社、右:浜松町付近。果柄を赤くすることで、鳥に実の存在を知らせているのだろう。

落ちた実を乗せて       2012.7.4.

種 子
果肉を取り去った状態が 白い球状のもので、『樹の咲く花』によると これが種子。乾燥すると内部の種子が外れて、カラカラ音がする。茶と黒のふたつがそれで、周囲に一筋の線がある。

外側が核(内果皮)で 内部が種子、の方が形態的に納得できるが・・・。

 
タブノキ の 位 置
写真@: D7 a 30番通り 標識34をまっすぐに進んだ小山の上
写真A: D8 a 30番通り 標識34の少し先
写真B: B5 c 10番通り 標識16の手前 右側
写真C: F6 c 70番通り 島池付近の左手、塀の近く
写真D: F6 a 70番通り 奥のトイレの手前左手、塀の近く
F12 a  名札なし タブノキかどうか未確認
 
名前の由来 タブノキ Machilus thunbergii

和名 タブノキ :
不詳だが、朝鮮語由来の説がある。
丸木船を朝鮮語で ton-bai, tong-bai と言い、これが日本に伝わって トンバイ → タブ となり、タブを作る木の意味で タブノキ となった。

『語源辞典/植物編』の吉田氏はこれに加えて、江戸時代の岩崎灌園が『本草図譜』で、「材は舟を造るを堪と云ふ」と 漢字を「堪」としているのは、重圧にたえしのぶ固い材質故に舟材としたことから「たえる」木であり、その終止形「たふ」に木をつけて「タフノキ」とした、 としている。
 
椨の木
椨の字は日本で作られた「国字」で、「府の木」という会意になる。『角川漢和辞典』には載っていない。

「府」とは 倉・役所・都だが、集まるの意味があるので、「人が集まる木」ということだろうか。
 
別名 イヌグス : クスノキの仲間だが クスよりも劣っている
材は緻密で適度な堅さがあって工作しやすく 有用だが、クスノキ科特有の芳香がほとんど無いために、クスよりも劣るという意味で イヌの名が付けられた。
 
種小名 thunbergii : 人名による
チュンベリー(1743-1828)はスウェーデン出身の植物学者で、1775年(安永4年)にオランダ商館の医師として渡来、帰国後に『日本植物誌』を刊行した。多くの植物に命名者としても名が残っている。
チュンベリーと『日本植物誌』
Wikipedia より
タブノキには シーボルトが チュンベリーを顕彰して名付けたわけだが、チュンベリーがタブノキの発見に関係していたのかどうかは 分からない。
 
Machilus タブノキ属 :
タブノキ属のある種の、インド名に由来するといわれているが、確かではないそうだ。

以前には、タブノキなどを クスノキ科の Persea属・アボカド属 とする見解があった。サイズはまるで違うが、丸く緑の実には共通するものが無くはない。
タブノキの実 アボカド

クスノキ科 Lauraceae
クスノキ科の基準になる属は「ゲッケイジュ属 Laurus」である。ラテン語と和名が一致していない。

クスノキ属の 50種に対して、ゲッケイジュ属は世界に2種しかないが、地中海に自生するゲッケイジュ Laurus nobilis は、ギリシア・ローマの時代から「勝利・栄誉」の印であったのだから、西洋では代表となるのも当然である。

その名の由来は、ケルト語の「blaur あるいは laur 緑」 ということで、ごくありふれた「常緑」ということが根拠だが、ゲッケイジュの冠を優れた詩人に送って不朽の名声をたたえる、という風習への思い入れがあったようである。

ゲッケイジュクスノキ については 別項を参照。

中国名 紅楠 :
タブノキ属の中国名は「潤楠属」で、ほとんどの種が「○△潤楠」という名になっている中で、タブノキは「紅楠」である。
やはり、果実の柄(果柄)が真っ赤なところを捉えているのだろう。
タブノキの赤い果柄 クスノキの実


筑波実験植物園での観察会     2011.6.4.
地面すれすれまで枝がある 若いタブノキ。たくさん写真を撮った。



植物の分類 : APG II 分類による タブノキ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
  クスノキ目  ロウバイ科、モミニア科、クスノキ科、ハスノハギリ科 など
クスノキ科  ニッケイ属、ゲッケイジュ属、ハマビワ属、タブノキ属 など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ