ヤマグルマ 山 車
葉の付き方 と サイズ
科 名: ヤマグルマ科 Trochodendraceae
属 名 : ヤマグルマ属 Trochodendron
別 名: トリモチノキ
英語名 : wheel tree
原産地 : 本州、四国、九州、南西諸島
朝鮮半島南部、台湾、中国南部
用 途 : 樹皮からトリモチが取れる。材は器具材として用いる。
2017.10.10 記述のマイナーな修正

ヤマグルマは なるべく葉が重ならないように、伸ばす枝の長さなどを工夫している。葉は 早落性の低出葉を除けば、茎頂附近にまとまって 偽輪生に付く。
その付き方の特徴と実際のサイズを測定した。観察は 小石川植物園と筑波植物園。サンプルは 筑波の観察会で採取したもの。

  ヤマグルマ の本文は、こちらを。
  ヤマグルマ の「枝の付き方」は、こちらを参照。

まず 冬芽から花序と3本の側枝が伸びる 典型的なパターンの模式図を示す。枝の伸び方の項と 記述が重複する。


1.水平枝 と 垂直枝
枝を構成する形態は 二つに分けられる。
① ③ はほぼ水平に伸びるので、水平枝タイプ と名付け、② はほぼ垂直に伸びるので 垂直枝タイプと呼ぶ。
             ( H : horizontal、V : vertical )
春に複数の枝が伸びる場合は 完全な同時枝である。

筑波植物園 2015.2.7

2.葉の付き方  :8分の3 葉序
付き方は輪生ではなく 互生で、隣り合う葉との角度は 135度。
  (『Tree watching 樹木賛歌⑦』ヤマグルマ / 八田洋章)
しかも 葉柄の長さを順次短くして、葉の重なりを防いでいる。

筑波植物園で撮影した写真には 19枚の葉があった。

(番号が無いのは前年の葉)この状態を 135度の角度で配列すると

①と②のなす角度(開度)が 135度で、円周の8分の3である(②の葉は①の葉よりも上部に位置しているが、上図では同一円周に表現している)。これを植物学用語では 8分の3 葉序 と呼び、最基部の葉①から枚目の葉⑨が、周して①と同じ位置にくる。
「葉序」は葉の配列様式のことで、分類群ごとに一定である。


前掲写真のナンバーは、理論的にはこうなるはずだと、写真だけを見てナンバーを振ったものだが、本当にそうなのかを 小石川植物園で確認してみた。
互生とはいえ葉が密に付いているので、確認が難しい。丁度9枚の枝があったので 葉のサイズを参考にしながら観察したところ、9枚目が ほぼ同じ位置に来ていることが確認できた。


写っている3枚の前年葉は トーンを落としてある。

① と ⑨ の葉柄を写したのが次の写真。完全に一致ではない。

① と ⑨が 20度ほどずれることもある。

3. 葉の付き方 その2  :垂れ下がる葉
ヤマグルマは、枝が垂直になっている時と 水平(横向き または 斜め)になっている時とでは、葉の付き方がかなり違う。

水平枝タイプの冬芽の位置に水平線を引いてみると、下側に葉が多いことがはっきりする。と思ったのだが、次の例では 65%と 意外に少なかった。大きい葉が下にあることと、前年の葉が残っているのでより多く見えるのだろう。

考察:
水平枝では、葉のなす面は垂直に近くなる。上側の葉は、自身の重みで葉柄が湾曲して垂れ下がる。周辺の大きな葉ほどそれが顕著に出る。
もし 葉柄を丈夫にして放射状にピンと張ったなら、枝の伸びを長くしないと、後ろにある垂直枝の葉と重なってしまう。結果的に 枝の伸びを節約していることになる。さらなる工夫は、葉が混み合って重なるのを防ぐために、下側、特に外側の葉柄を長くして調整している。

4.着葉年数  :2年 から 2年半
毎年 接近した位置に密に葉を出すヤマグルマでは、前年の葉に日が当たりにくくなる。このため、常緑樹としては比較的短い期間で落葉する。

展葉から2年後の春に一部の葉が落ち、その秋には 3年枝のほとんどの葉が紅葉して落下する。

 
5.葉のサイズ  :実物での観察
筑波植物園の2015年3月初旬の樹形観察会で、8年生の枝を切り取って観察する機会を得た。付いていた枝の総数は9本。
2年生の葉のうちで 落葉したのはたったの1枚、つまり、今年と前年に出た葉の ほぼすべてが付いている状態で、剪定時期としてはこの上ないものだった。
枝の全体の向きは南東、全長 86センチで、各年とも伸びの量は大きく、勢いがあった枝である。
A1、A2:1年生枝(2014年にB1から伸びた枝で、斜め)
     将来的にはA1は水平枝、A2が垂直枝になると思われる
B1 ~ 3 :4年生枝、6年前(1999年)に伸び出した枝 C 1 に付く
   B1(F-2タイプ):2014年に 花序と枝 A1、A2 を伸ばした
             水平枝。2013年に出した葉を付ける
   B2(NF-0 タイプ):2本目の水平枝、側枝無し
   B3(NF-0 タイプ):垂直枝(ほぼ垂直)、 側枝無し
C1 ~ 3 :6年生枝、一枚目の写真では、C1、C2は葉の陰と
      なっていて見えない
   C0(NF-0 タイプ):主軸。 上側に位置する垂直枝
         伸長した年にさらに2本の側枝 D1、D2 を出す
         C2が折れたためとも考えられる
   C1:B1、B2、B3 を付ける水平枝、葉は残っていない
   C2:分枝から 10センチの所で 折れて欠損
D1 、D2(NF-0 タイプ):6年生枝
      C0 からさらに上側に伸長して垂直枝となった
      やや斜め
NF-0 などの枝の伸び方については、こちら を参照。

 
観察のまとめ
たった8本の枝の観察だが、「仮説」も含めて以下にまとめる。

i.垂直枝の生成



新たな垂直枝は 水平枝から生じる。
水平枝から出る枝は、初めは多かれ少なかれ傾いている。
たまたま上側に位置した枝(主軸のこともある)が、次年度以降、 短枝的に伸びて、カーブを画きながら立ち上がっていく。


枝D2 参照
垂直枝の葉は、原則的に 着生順に小さくなる。
ii.水平枝の工夫



上側の葉は重力で葉が垂れるので、重なりを防ぐためにサイズを小さくして、好位置に留める。
相対的に下側の葉のサイズが大きくなる。
また、日射量の多い 南側の葉が大きくなる傾向がある。


枝B2参照
iii.今年枝は前年枝よりも 大きな葉を付ける




二年目になると前々年の葉はすべて落ちてしまうが、前年の葉は残っているため、新しい葉と重なることは避けられない。
頂芽がそのまま伸びる NF-0 のケースでは、一年生の葉 (2014 年に伸長)の大きさが目立つ。
葉の数も、一年生の方が多かった(ひとつだけ同数あり)。
共通事象
仮説 iv.分枝した年は 上側(主幹に近い位置)の出葉を抑える



分枝後の一年生枝に付く葉は下側の3枚が大きく、長さの平均値では 他の葉の2倍以上ある(A1、A2 の測定値)。
上側(主幹に近い側)のの葉は小さく、葉が欠損することもある。
これは枝の伸びが少ない場合に、前年枝の葉との重なりを避けるためだと思われる
枝 A 参照
すべての葉の長さを計測したが、主なものを例示する。 


 
垂直枝 D2
付いている葉は、2014年・2013年春に展葉した2年分。
中心に近い葉ほどサイズが小さいことは、分解前でも一目瞭然だが、そこに規則性があるのかまでは 判然としない。
それぞれの葉柄と葉身の長さを測定しながら、順に並べてみると見事な結果となった。
は直前の葉よりもサイズが大きいもの)

葉は着生順に小さくなっていく
着生状態でははっきりしなかったが、並べてみると 特に「二年生の葉」では、ほぼ 順次サイズが小さくなっていることがはっきりした。垂直枝の理想形?だろう。
ただし、一年生枝では予定外に③⑤⑧の葉が前の葉よりも長くなっている。
なお、一年生、 二年生の葉ともに14枚だったが、葉序の状態から、一年生では⑫番が欠損していると判断した。

葉を分解する前に、2014年と13年の上下を切断した。その写真に 、番号と長短の結果を反映すると、

葉の付き方は、A、Bの枝とは違って時計回りだった。また 第一葉①がスタートする方向は、1年と2年では異なっていた。

最大の葉と 前の葉よりも大きな葉の偏りは、両者とも西側に位置していることがわかったが、その原因は未解明。

枝 D と C の関係について:
写真では葉の陰に隠れて見えないが、「Cの枝」3本は 6年前に側枝2本を出す「NF-2」タイプで分枝したと思われる。
その根拠は 中央の C0 の基部に低出葉の落ち跡がないこと。つまり C0 は頂芽が伸びたものと考えた。側枝ならば C1、C2 のように基部に落ち跡が残る。

次に D1、D2 だが、C との間に短い間隔があるイレギュラーな付き方をしている。D にも低出葉の落ち跡があることから、C と同年枝の側枝と判断したが、番号はD1、D2とした。
原因は C2 が折れたことに関係すると推定する。
すなわち、一度 C0 ~ C2の 3本が伸びた後に早い時期にC2が折れ、葉の量を補うために直上の低出葉の腋から追加で D1,D2 を出したものと考えられる。

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水平枝 B2
付いている葉は、2014年・2013年春に展葉した2年分。
水平枝も、全体としては次第に小さくなることは変わらないが、垂直枝と違って葉の大小が激しい。印が直前の葉よりも大きいもの。

これは、上側に位置する葉 ②④⑦⑩ などの成長を抑えたために生じている。葉のサイズも、垂直枝と較べて平均値が少しだけ大きい。

1年生の ③番の葉が今回の観察で最大の葉、約 20センチ。
2年生の ③番が、2番目に大きく、約 19センチだった。

長短の結果を着生枝に反映すると、

左 一年生の葉 B2-1 は18枚、右 二年生 B2-2 は14枚だった。葉の付き方は、Cの枝とは違って反時計回りだった。また 第一葉が出る方向がほぼ同じだったために、葉の長短のリズムも同じになった。

最大の葉と 前の葉よりも大きな葉の偏りは、両者とも 下側 および 南側に位置している。
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水平枝 A 1・A 2、B1
「枝C1」に付く3本は、4年前に花序 と 側枝3本を出す「F-3」タイプで分枝した。B1は 位置関係からすると3本目の枝で、2014年に花序と2本の側枝 A1・A2 を付けた。


葉の数は、A 1 は10枚 A 2 が8枚で、ともに ①②④の葉が大きい。真上の位置で③の枝が省略されたと考えないと、開度のつじつまが合わなかった。
枝A1 の上側
③の位置が 大きく空いている。痕跡すら無い。


③を欠番と判断したため 番号はひとつずつ増えている。
2年生の B 1 は16枚だった。B1 については、8分の3葉序を念頭に置けば 比較的容易に葉の順序を決めることができた。
葉序はB2 と同じく 反時計回りだった。

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ