シンガポール植物園の正門、タングリン・ゲイト近くのボタニー・センターへ向かう道のあずまやに、旺盛に繁っている橙色の花。
豆果が生っているため、ジャケツイバラ科だということはすぐに想像できる。
しかし、これも「ハカマカズラ属(バウヒニア属)」となると、では この属の共通点は? と聞きたくなる。
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樹形 |

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なぜなら、葉は二つに割れていなくてシンプル、ツル性で巻きひげまである。
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葉の様子 |
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アカバナソシンカ |
アカバナソシンカなどの、一般的なバウヒニア属とは 葉のイメージがまったく 違う。
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枝の様子 |
つぼみ |
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花 |
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丸い形の総状花となる花の 一つの大きさは約4cmである。
咲いている時は黄色みが強いが、受粉して雄しべが落ちてしまうと朱色になる。 それぞれの花弁のサイズに大きな違いはないが、「旗弁」(中央上部)の幅が
気持ち小さい。
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花の詳細 |
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よく見ると、有効な雄しべは3本で、成熟した状態は「カマキリの顔」のようだ!
丸いのは「蜜」かもしれない。 |
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果実の様子 |

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実はまだ成熟していないが、撮影時点でのサイズは約 20cm。
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名前の由来 イロモドリノキ Bauhinia kockiana |
和名 イロモドリノキ : 花の色が元に戻る という意味 |
植物好きの方たちの労作 『シンガポール植物園植物ガイド』によると、「果実ができる頃、残った花弁の色が ふたたび色あせた黄色に戻る」ことから、この和名が付けられている。
上の写真をよくみると、ボケてはいるが、右下の果実と同じ花序に残っている花が、確かに黄色くなっている。
そもそも、昆虫を誘う役目を終えた花弁が、その後も長く残ることが珍しい。
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理屈はわかるが少々発音しにくいことと、ツル性で「木」というイメージではないので、単純に「シュイロソシンカ」 あるいは 「オレンジバウヒニア」
を提案したい。
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マレー半島の原産だけに、シンガポール植物園でも重要な一種らしく、正門であるタングリング・ゲイトの「門扉」が、本種をデザインしたものとなっている。 |
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種小名 kockiana : 人名による |
17-18世紀、ドイツのエルランゲン大学で薬学と植物学の教授を務めた、Wilhelm Daniel J. Koch (1771-1849)を顕彰して名付けられたものである。
エルランゲンは、旧東ドイツ ニュルンベルクの少し北にある。 |
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名前をドイツ語読みすると、「コッハ」となるのだろうか?
本来、人名からすると 「kochiana」とすべきであるが、命名時に h と k を間違えて、「kockiana」としてしまったものと思われる。 |
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肖像画は Wikipedia より
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命名者は36歳年下で 同じドイツの植物学者、P. W. Korthals (1807-1892) である。
(ちなみに、Index Kew によると、kochianaという種小名の植物が18種 あった。)
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種小名だけでなく、Koch氏は属名にも名付けられている。
Kochia 属 Roth (1801)
和名は「ホウキギ属」であるが、事典に詳しい説明は載っていない。 |
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Bauhinia ハカマカズラ属 : |
これまで、バウヒニア属の葉は二つに割れているものと勝手に思いこんでいたが、普通の葉の形もある、ということで 改めて事典の「属」の説明を読んでみた。
熱帯アメリカ、アフリカ、東南アジアに 約150種
常緑の 高木か低木 または つる植物
枝に巻きひげのあるものと 無いものがある
■ 葉は革質、全縁 または 2裂
花は短い総状花、小花柄は短い
花弁は5枚
上方中央の1枚(旗弁)だけが他と違う色や模様となる
萼は仏炎苞状になるものと ならないものがある
雄しべは原則として10本だが、退化するものあり
豆果は裂開する |
『園芸植物大事典』より |
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ハカマカズラ属のもう少し詳しい内容については、「アカバナソシンカ」の項の記述を見ていただきたい。
なお、ハカマカズラ属の中国名は「羊踵甲属」で、「ハカマ」と同じく、2つに割れているのが前提である。 |
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ハカマカズラ |
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ジャケツイバラ科 : |
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参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
シンガポール植物園植物ガイド/
シンガポール日本人会 自然友の会 ボタニック・ラバーズ、
Wikipedia |
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