インド・シタン 印度紫檀
Pterocarpus indicus Willd. (1802)
科 名 : ジャケツイバラ科 Caesalpiniaceae
 (マメ科 Fabaceae)
属 名 : シタン属 Pterocarpus Linn. (1754)
別 名 : ヤエヤマシタン
英語名 : Burmese rosewood
原産地 : ミャンマー南部からタイ、ベトナム、インドネシア諸島、ニューギニア、ソロモン諸島まで。
北はフィリピン、琉球諸島まで。
用 途 : 街路樹、観賞樹として栽培される。
赤みがかった材は木材業界では「カリン」と呼ばれ、高級材のひとつで家具などが作られる。
 
撮影地 :
インドネシア
 
肝心の花と実の写真が撮れなかったが、ジャケツイバラ科としては珍しい形の果実なので取り上げたい。
ボゴール植物園では正門をはいってすぐの所、その他に何本もの大木がある。
 
インドネシアは原産地の中に含まれている。
 
 
トップの写真は、植物園の正門前をそのまま過ぎた大通りで、歩道の半分を植え込みとして、大きくなったインドシタンが葉を繁らせている。
 
こんなに高いところに葉があるのでは、木陰を作る役目はなくなっているかも知れない。
 
 
さて、植物園。
 
板根がみごと
中央の木の主幹は、高さ6mのところで切られている。
枯れたか、折れたか・・・
 
こちらは2本並んでいたもの。奥の片方も、板根の切り株となっている。
 
長径は5m以上。
板根の部分にも、ちゃんと年輪がある。
 
入口付近とは別の 大木
高さ 約25m。幹はラベルの位置で、直径2mといったところ。
 
野生では 30〜40mにまでなるそうだ。
 
葉の様子

 
裏は明るい 一枚の複葉
右の写真は、歩道に枝ごと落ちていたものを1枚だけにして撮影した。
 
 
花と実の写真は、ハワイ大学の Carr教授からお借りした。
 

 
コピー・ライト
G. D. Carr
 
果実の様子

 
円盤状の果実の周囲は薄い翼となっている。
種子は通常ひとつだけである。
 
名前の由来 インドシタン Pterocarpus indicus
 
和名 インドシタン 印度紫檀 : インド原産のシタン の意味
種小名 indicus : インドの
和名は、学名の indicus に影響されたのであろうが、原産地の西限はミャンマーで、インドにはない植物であり、間違いである。
命名時点の19世紀初めには、インドで栽培・野生化していたのであろう。
シタン属 : 紫檀属
中国名の「紫檀」を音読みしたものである。
同じく高級木材である「黒檀」や「白檀」に較べて、心材が赤紫色であることに由来している。
 
 
 とは?
 
「檀」の字は仏教徒には馴染みが深い。
「檀那 (ダンナ)」は仏にお金や物を施す信者の呼び名であり、「檀家」は檀那である家のことである。
 
「檀」一文字では、樹木の「マユミ」のことを指す。
材が強靱で、日本では弓の材に使われたところから「マユミ」の名が付いた。
中国ではおもに、荷車の車輪に使われたという。
 
「硬い材」ということで、紫檀や黒檀の名前に使われたのであろう。
 
 
植物学的には本種が「シタン 紫檀」、属名が「シタン属」で間違いない。
 
ところが、木材・建築業界では「シタン」というと、いわゆる「ローズ・ウッド」 Dalbergia属 の木材のことを指す。
そして、本種インドシタンは「カリン 花櫚」と呼んでいる。今さら直しようがないので、注意が必要である。
 
実物を並べてみよう。( 50×90mm の木片を撮影したもの)
 
左から、カリン(本種 インドシタン)、シタン、チーク、コクタン。
インドシタンがオレンジがかっているのに対して、2番目の「シタン」は、確かに紫色である。
 
Pterocarpus属 : 翼を持つ果実 の意味
ギリシア語の pteron 翼 + karpos 果実 による。
 
並木の下に落ちていた、カラカラの果実を拾ってきたが、どうやら種子はできていないか、虫に食べられてしまっているようだ。
 
丸くなっているのは、長い莢の下の部分が丸まって、くっついたため と見える。
 
ミミノキ の果実と同じではないだろうか。
 
別名 : ヤエヤマシタン 八重山紫檀
日本では、八重山諸島に自生していたところから、和名として名付けられた。
しかし高級材として乱伐され、今では石垣島に3本しかないそうだ。
『朝日百科/植物の世界』(1997年 発行時点の記述)
ジャケツイバラ科 :
ジャケツイバラについては 別項を参照のこと。
 
 トピックス 交通渋滞
 
シンガポールの樹木ガイドブック 『Trees of Our Garden City』の本種の項には、次のような記述がある。
 
「シンガポールの緑化運動の先駆けであった1960年代から70年代の初めまで、インドシタンは広範囲に植栽された。種子と挿し木ともに繁殖が容易で、成長が早く、移植後の活着率も高い。」
ということだが、
「近年、菌類による”立ち枯れ病”で、多くの大木が枯れてしまった。また、特に嵐の時に枝が折れやすくなっている。」
 
 
今回 植物園からバスで帰る時に、オーチャド通りで「枝折れ」の現場に遭遇した。
 
枝が落下した木が「インドシタン」かどうかは確認していないが、特に風は吹いていなかったにもかかわらず、突然に太い枝が道路に落ちたようだ。
 

 
ガイドブックの記述を「発見」するまでは、この渋滞の原因である「生木が横たわっている原因」がまるでわからなかった。
 
インドシタンではないにしろ、病気で弱っていた可能性はあるだろう。
 
シンガポールではこの「枝折れ事故」も保険でカバーされる、 かどうかも 確認していない・・・。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        植物の世界/朝日新聞社
        植物學名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
        Trees of Our Garden City/National Parks Board
        Wikipedia
世界の植物 −植物名の由来− 高橋俊一 >五十音順索引へ