オビレハリクジャクヤシ
尾鰭針孔雀椰子
Aiphanes caryotifolia H. Wendel. ( 1881 )
← Martinezia caryotifolia H.B.& K. ( ? 1824
)
科 名 : ヤシ科 Arecaceae または Palmae
属 名 : ハリクジャクヤシ属 
Aiphanes Willd. ( 1804 )
原産地 : コロンビア、エクアドル、ベネズエラ
用 途 :
 
なし
 
撮影地 : ドミニカ共和国 、日本 温室
 
 
南米北部 ガイアナ協同共和国 第二の町ニュー・アムステルダムの工事現場に常駐監理している人から、こんな木を見たことがあるか? と写真を見せられたのはもう6年前である。
町から離れたところに生えていたという。
 
その時は「ヒェ〜!なにこれ!」と驚くのみ..。 その後 京都植物園の温室で名前が判明した。
 
その後 2008年に、サント・ドミンゴの国立植物園で、椰子コレクションとして最近植えられたと思われる「林」を目撃した。
 
7・8本植えられたコレクション
高いものでも 3m程度しかなく、長い葉が地面についている。
成長すると、7.5〜10mになるという。
 
とにかく その針の多さばかりが目立つ。
幹や葉柄ばかりか、小葉の脈にも何本かのトゲがある。


赤いのは熟した実。

さすがに 木の根元の方(木が小さい時の)針の長さは短い。
 
  
葉の形 葉の表側

 
葉の裏側
トゲというより「針」の長さは、長いものでは6cmぐらい
 
若い実 半分以上熟した実
実の直径は2cm
実にはトゲはない
2008年3月
鳥か何かに食べられている
 
この属の花は雌雄別々だが、ひとつの木に両方が咲く、雌雄同株である。
 
 
トゲだらけの植物で、我々にもっとも身近な物は「バラ」であろう。
また
日本には「タラノキ」があり、「ハリギリ」もある。

砂漠の「サボテン」は木の形をしていないものが多いが、普段 刺を持つ植物を見慣れていないわけではない。
タラノキ タラノキの複葉
 
また ほかのヤシにも、葉が短い刺に変化しているものがある。
しかし「ヤシの木」の一般的なイメージは、「トゲ」からは遠く、どうしても違和感がある。
 
名前の由来 オビレハリクジャクヤシ Aiphanes caryotifolia
 
和名: オビレハリクジャクヤシ 尾ビレ針孔雀椰子
この名前は葉の形を捉えて名付けられているのだが、さかな(尾びれの形)と鳥(孔雀の尾の形)のふたつに重複してなぞらえており、長すぎていい名前とは言えない。

「オビレハリ クジャクヤシ」は、当然のことながら、本家の「クジャクヤシ」に対して付けられたものであるが、単純に「ハリクジャクヤシ」でもよいはずだ。

しかしクジャクヤシは本種とは属が違い、葉の形も「二回羽状複葉」であるため、これも最適ではない。
 
そこで、私は本種を ハリオビレヤシ としたい。
 
 
「オヒレ」が付いた原因は小葉の形にある。
 
クジャクヤシの小葉は「胸ビレ」のような形をしているのに対して、本種の小葉は細長く、線対称であり、少々長すぎるが確かに「尾ビレ」のようだ。

名前に「オビレ」を付けたくなる気持ちは良くわかる。
オビレハリクジャクヤシ クジャクヤシ
 
そして、わざわざ「オビレハリ クジャクヤシ」とする理由があるとすれば、以下の可能性がある。
 
それは、
事典には見あたらないが、ほかの種にすでに標準和名として「オビレクジャクヤシ」あるいは「ハリクジャクヤシ」が使われていたため、
である。
 
本種に和名を付けようとした時、すでに「オビレクジャクヤシ」は登録?があり、仕方なく「ハリ」を付けた、というわけである。
現に『園芸植物大事典』では、本種の属名が「ハリクジャクヤシ属」となっている。
 
参考までに、
『園芸植物大事典』 2,504ページには、同じ Aiphanes属の別種 Aiphanes truncata の和名として、「トゲ ハリ クジャクヤシ」という、これまた重複した名前があがっている。
少ない語彙を重ねて、なんとか別の名前を付けている苦労が伺える。
種小名 caryotifolia : caryotaの葉に似ている という意味
Caryota Linn. は別属の「クジャクヤシ属」である。
こちらは「トゲ」がなく、葉も二回羽状複葉 という違いがある。
 
前記のように「クジャクヤシ」の葉の特徴とは明らかに異なるが、クジャクヤシ属は20種ほどあるということなので、中には本種と同じ形の小葉を持ったものがあるのかもしれない。
 
Caryota カリオタは、ギリシア語の「karyon 堅果」 あるいは「karyotos クルミの様な」に由来する。『園芸植物大事典』
Aiphanes ハリクジャクヤシ属 : 
ギリシア語の Aiphnes の綴りそのもので、鋸歯状の という意味である。
 
一般的な椰子類の葉の先端は尖っているが、この属の小葉の先端部分は鋸歯状になっている事に由来している。
 
属名も和名と同じ理由で、孔雀ではなく ハリオビレヤシ属 としたいところだ。
ヤシ科 Arecaceae : 
ヤシ科の基準属 Areca に由来して ヤシ科は Arecaceae と呼ばれるが、Palmae も使われる。
 
『園芸植物大事典』によると Areca は、インド南西部マラバル地方での呼び名 areec によるといわれている。
 
約 200属 約 2,680種があるそうだ。
 
 
オビレハリクジャクヤシ ←
 
 クジャクヤシ Caryota urens Linn. (1753)
 
種小名のところに出てきた Caryota属の和名は「クジャクヤシ属」である。別項「クジャクヤシ」を参照していただきたい。
 
ヤシ科では珍しい二回羽状複葉である。
 
さらに、クジャクヤシと同じ属の「Caryota mitis Lour. カブダチクジャクヤシ 株立孔雀椰子」が、ドミニカ植物園のヤシコレクションとは離れたところにあったので、別項として掲げている。
 
 
 参考 キンギョバツバキ
 
尾ビレで思い出すのは、葉が「金魚の尾」のように変化したツバキの品種、キンギョバツバキ である。
 
小石川植物園の「ツバキ園」の中にある。
このツバキは、通常の葉の形以外に、2種類の突然変異の葉を持っている。
 
中央に、「琉金」や「出目金」の尾 そのものの形。
左側には、先端がさかなの尾ビレのように変化した葉。
 
金魚葉椿 の表側 裏側
中央の葉脈が、葉の途中で裏側に抜けてしまっている。
完全に二つに分かれた葉の一方は丸く、先端部は4つから5つに割れる。
このタイプは全体の葉の数からすると、ほんの数パーセントである。
 
もう一つのタイプ
もう一つのタイプは、中央脈が先端部で3本に分かれている。
3本以上のこともあり、この葉の割合は約4割。
 
花は極めて平凡な赤色である。
ヤブツバキの形に似ているが、色がうすく、良く開き 見栄えはしない。
 
花はともかく、葉は一年中茂っていますので、是非一度 ご覧ください。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
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