トウワタ 唐綿
Asclepias curassavica Linn. (1753)
科 名 : ガガイモ科 Asclepiadaceae
属 名 : トウワタ属 
Asclepias Linn. (1737)
英 名 : bloodflower
中国名: 馬利筋 ma li jin
原産地 : 熱帯アメリカ
用 途 : 観賞用に栽培される。
1842年(天保13年)に江戸に伝えられた。
 
冠毛を綿の混ぜものとして使ったようだ。
 
撮影地: ガイアナ協同共和国 、 日本
 
南米北部ベネズエラの隣に位置するのガイアナ協同共和国。
その第二の都市 ニュー・アムステルダムの町はずれで見かけたもの。
 
第二の都市といっても、ガイアナ国全体の人口が約 70万人である。
国土のほとんどは森林で、人が住んでいるのは北部の海岸に面した地域のみ。
ニュー・アムステルダムの人口は不明。
 
樹 形 ! 花のアップ

 


ちょっと ピンボケ
2004.10.27 撮影
高さはわずか 40cmで、この状態では草本にも見えるが、トウワタは大きくなると2mにもなる低木あるいは亜低木である。
 
日本で見た トウワタ
京都植物園 温室前 高さ 1.2m  2000.11.11撮影
 
「ワタ」の正体

花がまだ咲いている一方で、別の木ではすでに種ができていた。
ガガイモ科の特徴の一つである種子の綿毛。どこまでも飛んでいきそうだ。
 
名前の由来 トウワタ Asclepias curassavica
 
トウワタ : 唐綿
「トウ」は本来「中国産の」という意味だが、トウワタの場合は「外来の」という意味で使われている。
「ワタ」は上記の綿毛からで、「渡来した綿」ということになる。
種小名 curassavica : 「キュラソー島の」という意味。
『園芸植物大事典』によると、種小名のラテン語読みは「クラッサウィカ」となっている。
 
キュラソー島(クラサオ島)は、オランダの海外領土のひとつ「アンティル」(州に相当し、5つの島からなる)の一部で、南米ベネズエラのすぐ近くに位置している。

種小名は原産地(のひとつ)を示している。

キュラソー島 :
Wikipedia より
 
 
現在の学名規約によって命名者はリンネとなっているが、この種小名はリンネ以前にすでに名づけられていた。
 
リンネの『植物の種』(1753年) 215ページを見ると、トウワタの参考文献として3項目があげられている。
ちなみにそれらはすべて、ガガイモ科の近縁の「キョウチクトウ科」 (Apocynum属) に分類されている。
 
参考文献にはリンネ自身の旧著もあげられているが、別のひとつは、リンネよりも半世紀も前のドイツの植物学者ポール・ヘルマン(1646?-1695) によって著された『Paradisus』からのもので、その名称は Apocynum curassavicum となっている。
 
リンネはこの名前を採用したものと思われる。
 
キュラソー島は、1499年にイタリア人 アメリゴ・ベスビッチらによって発見されているが、トウワタの標本をだれが採取したのか はわからない。
Asclepias トウワタ属 : 人名に由来する。
Asclepias の由来にはふたつの説がある。
 
@ ギリシア神話に登場する医の神 Asklepios
  杖に絡まった蛇のモチーフは医の象徴となっている。
A 紀元前1世紀、ギリシア生まれでローマの名医 Asclepiades
 
牧野の『植物学名辞典』は、綴りは少し違うものの「医師名」とあるので、医師アスクレピアデス説であろう。
@のアスクレピオスをラテン語で綴ると、アイスクラピウス(アイスクラーピウス、Aesculapius)になるとのことであり、属名とはかなり違う。私もAの医師名説 としたい。
 
いずれにせよ、トウワタには毒があり、一方で解熱・利尿・痛み止めなどに使われるために、医学関係の人物名を冠したものと思われる。
 
リンネがトウワタ属の名を記載したのは『植物の属』 (1737)だが、それ以前にほかの人が名付けていたかどうかは確認できない。
 
トウワタ属には約120種があり、南北アメリカ、特にアメリカを中心に分布する。
 
 参考 オオトウワタ
トウワタの花の構造はとても変わっている。
 
小石川植物園に同じトウワタ属の「オオトウワタ」があったので、アップの写真で解説したい。
 
花の色はこちらの方が私の好みである。
 
オオトウワタ Asclepias syriaca

 
がく(外花皮): 
アップ写真 「右上のつぼみ」の外側に、わずかに淡緑色の蕚が見える。
 
花弁(内花皮): 
うす紫色のはなびらは、開花すると大きく反り返る。蕚は花弁の陰にかくれて見えなくなる。
 
副花冠 : 
白い星型の5つのはなびらに見えるものは、フードとも呼ばれる副花冠である。漏斗型をしている。
 
つの : 
さらに副花冠の中央には、これも副花冠の一部である角が付き出している。
 
おしべ : 
中央のめしべの周りに癒着している。
 
めしべ : 
子房は2つあるのだが、2本の雌蕊は途中で合着して柱頭はひとつだけとなっている らしい。雄しべに囲まれていて写真では見えない。
 
なぜ こんなにも複雑な形になるのでしょうか?
 
 参考 「白花の」フウセントウワタ
2007年の6月に、会社のすぐ近くの喫茶店の外に、白花のトウワタが咲いているのを見つけた・・・・・。
 
これまで見た橙色のトウワタの花は すべて上向きに咲いていたが、この花は完全に垂れ下がって下向きに咲いている。
そのために、反り返った花弁に隠れて見にくい「蕚」が上からよく見えて、なんだか安心した........。
 
白花のフウセントウワタ 蕚がよく見える

 
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 ...と書いたが、生った「実」を見て「フウセントウワタ」であることがわかった。
 
これまで、フウセントウワタの実は見たことがあったが、花を見たことがなかったためである。
 
花の形がそっくりだったので、てっきり「トウワタ」の一種だと思ってしまった。
 

 
トウワタ →フウセントウワタ
Gomphocarpus fruticosus R. Br. (1809)
Asclepias fruticosa Linn. (1753)
ガガイモ科 フウセントウワタ属、 南アフリカ原産。
 
フウセントウワタの後ろ姿 (ガク) に見とれて、花の観察を怠った結果だが、事典を見てみると、副花冠の「ツノ状の付属体」が無いことで別の属として区別されている とのことである。
 
リンネは本種を『植物の種』で、トウワタ属 (Asclepias) として記載した。
現在でもトウワタ属に含める見解もあるそうで、私の記述もあながち間違ってはいなかったことになる。
 
種小名 fruticosa は「灌木の」という意味である。
「多年草」が多いトウワタ属の植物の中で、フウセントウワタは「亜低木」(1〜2m) であることから名付けられた。
 
が しかし、『植物の種』でひとつ前のページに記載されているトウワタも亜低木であり、リンネの言う「精選しない名」の一つといえよう。
「トウワタ」の種小名には原産地 curassavica を充てている。
 
 ・ ニュー・アムステルダムの町の様子

ガイアナ国の古い建物はすべて「木造」である。
 
その点で大いに植物に関係するし、ニュー・アムステルダム市には日本人は住んでおらず、町の様子も紹介されていないと思うので、「木の国ガイアナ」の様子をちょっとご覧ください。
 

 
市役所の塔も木造
 
参考文献 : Species Plantarum 復刻版/植物文献刊行会
        Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        朝日百科/植物の世界/朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
世界の植物 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ