バクチノキ 博打の木
Prunus zippeliana Miq. (1855)
科 名 : バラ科 Rosaceae
属 名 : サクラ属 Prunus Linn.
  サクラ亜属 バクチノキ節
中国名 : 大葉桂桜 da ye gui ying
原産地 : 本州関東地方以西から沖縄まで
中国 各省、台湾、ベトナム
用 途 : 昔、葉を蒸留して「杏仁水(ばくち水)」をつくり、咳止め薬として使われた。

サクラ類の学名は 各所各人でまったく違うため、サクラ属に関しても、米国農務省のデータベース『GRIN Germplasm Resources Infor. Network』 の学名で統一する。

Prunus サクラ属の分類」については 、別ページを参照のこと。

 

メインスロープの左側、本館の下の斜面に生えている。2本の大木は薄暗い林の中でひょろ長く伸びており、花や実は かなり高い所にしかないため、園外で撮った写真も使用する。

幹の様子    2011.6.19.
小石川植物園の個体は通常の樹形ではないので、参考のために、京都植物園の写真を。

樹 形 (京都植物園)     2012.12.23.

樹皮の様子 京都植物園
樹皮の表面は黒灰色だが 半分ぐらいが剥落して、中の赤茶色の樹皮が見える。
京都植物園の写真は離れた位置から撮っているので 細く見えるが、幹のサイズは同じぐらいである。京都植物園のものは 一度にほとんどの樹皮が落ちて、全身が赤くなっている。

樹皮の詳細 幼 木
右の写真の手前が 直径 約8センチの若木。まだほとんど樹皮が剥がれていないが、博打に手を出して負けが込むと、次第に身ぐるみが剥がされていく。
『植物の世界/朝日百科』には、「樹皮が脱落して木肌が露出する」との記述があるが、表面が薄く剥がれるだけで 決して木肌が見えているわけではない。2014年の雪害で折れた枝を見ることができた。

枝の断面        2014.2.28.
直径 わずか38ミリの枝だが、樹齢は10数年。樹皮の厚さは1.5ミリほどある。そして 剥がれて赤く見える部分と、剥がれていない黒い部分との「樹皮の厚さ」に ほとんど違いはない。つまり、剥がれたのは表面の 0.数ミリ で、赤茶色の樹皮の内部が見えたのである。

剥がれる部分
まだ剥がれていない部分の拡大写真。剥がれるのは表面の 濃くなっている一層で、樹皮の厚さの10分の1ぐらいである。

冬 芽               2014.2.28.
葉の大きさに比べて、冬芽(裸芽に近い)は極めて小さい。冬芽といっても、バクチノキの場合はこの芽が伸び出すまでに、あと半年以上ある。

新 芽    2001.12.1. 葉の様子   2012.10.20.
京都植物園、葉柄が赤い。 幼木には低い所から枝が出ている。

托葉と蜜腺  2012.10.24. ソメイヨシノ
サクラ属に ほぼ共通する特徴である、早落性の托葉 と 蜜腺

鋸 歯         2014.2.13.

黄 葉    2013.7.19.
黄葉したり 白く色が抜けた後は、褐色になる。葉のサイズは黄色のもので12センチ程度。

開 花        2012.10.20.
小石川ではこの程度にしか撮れない。

花の様子          2009.9.13.
神代植物園。葉腋から複数の花序が出ている。

小石川では       2012.10.20.
前掲写真のようにアップは撮れないので、落ちた小花を新葉に乗せて。

若い実         2014.2.28.
大雪のために折れた枝に付いていたもの。サイズはほぼ成熟大になっている。落下後 2週間経っているので、葉は萎れてきている。

大きくなった果実      2012.4.13.
一部が赤くなってきている。

果実 と 核          2012.4.22.
7ヶ月ほどかけて 翌年の晩春に熟す。果実のサイズは 15mm 前後で、果皮は小豆色だが果肉は白い。核には粗い網目模様がある。

実生苗               2012.7.4.
人がはいらない場所なので 踏み固められておらず、落ち葉でふかふか。無数の芽が出ているが、その後に育つものは少ない。


 
バクチノキ の 位置
E 14 cd メインスロープ 左側斜面、2本+幼木数本


名前の由来 バクチノキ Prunus zippeliana

バクチノキ : 博打の木 の意味
バクチノキは幹が太くなると樹皮が剥げ落ちる。サルスベリを初めとして 樹皮が剥げる木は多いが、バクチノキは落ち跡が赤く、林の中で異様な雰囲気となる。

博打(ばくち)に負けて身ぐるみ剥がされる という喩えを名前としたのは、温帯では珍しいその色が原因となっていよう。

その外国種として「西洋バクチノキ」があるが、こちらの樹皮は剥げ落ちない。このため、セイヨウバクチノキを見ただけでは、名前の由来の見当が付かない。

種小名 zippeliana : 人名による
オランダの 園芸家・植物ハンター、アレクサンダー・ジッペリウス (1797-1828) を顕彰したもの。ジッペリウスはモルッカ諸島、南西ニューギニア、チモールなどで植物採取を行った。

属名としても コショウ科に 「Zippelia属」があり、種小名として顕彰されたものも数多い。また 自身も多くの植物に命名している。(ほかの人が代わりに発表しているケースが多い)

バクチノキ節 Laurocerasus : 月桂樹桜 の意味
本種は東洋原産なので、英語名は付いていないようだ。セイヨウバクチノキの英語名は cherry-laurel と順序が逆になっているが、イメージ的に葉が月桂樹に似ているところから名付けられたようだが、実物はかなり違う。普通のサクラ類は落葉が多いので、常緑樹の代表としてのゲッケイジュを冠した、という要素もあるだろう。

以下のように、両者を並べてしまうと葉の形が違うのが判ってしまうが、西洋ではセイヨウバクチノキの葉をリースの材料に使うそうだ。

Laurocerasus を独立した属として扱う考え方も根強い。
ホームページ『Flora of China』もその考え方で、属名は学名から「桂櫻属」としている。
セイヨウバクチノキ 2013.5.15. ゲッケイジュ  2011.5.31.
若葉だと 鮮やかな緑色に惑わされて、似ているように思えるかも知れないが、成葉では葉の厚みや色艶なども変わってくるし、サイズが数倍となる。写真はノン・スケール。
セイヨウバクチノキ  2013.4.4. ゲッケイジュ  2009.4.22.

Prunus サクラ属 : スモモ から
ラテン語のスモモ prunum (『植物学名辞典/牧野』によると proumne)に由来する。リンネ以前に、トゥルヌフォール(1656-1708)が命名していた。

「サクラ」の由来は、別項 サクラ・コレクション を参照の事。



植物の分類: APG II 分類による バクチノキ の位置

バラ目であるバラ科サクラ属、クロンキストの分類では当然のように「バラ亜綱」に分類されていた。ところがAPG分類では、バラ目は さらに後から分化した「マメ群」に位置付けられた。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所   バラ目  アジサイ科、ベンケイソウ科、ユキノシタ科、バラ科、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
  バラ目  バラ科、グミ科、クロウメモドキ科、ニレ科、アサ科、クワ科、など
バラ科  カナメモチ属、サクラ属、ヤマブキ属、バラ属、キイチゴ属、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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