チドリノキ 千鳥の木
Acer carpinifolium Sieb. & Zucc.(1845)
APG分類: ムクロジ科 Sapindaseae
旧科名:  カエデ科 Aceraceae
属 名 : カエデ属 Acer Linn. (1735)
別 名 : ヤマシバカエデ
英 名 : hornbeam maple
原産地 : 本州、四国、九州
用 途 : 庭木、材は堅く、建築材(装飾用など)・器具材に使われる。

事典によると、ほかのカエデ属とは世界のどこにも「近縁種」がない 特異なカエデだそうだ。
雌雄異株だが、植物園の60番通りにある2本は雄株。分類表本園に雌株があるが、雌花の写真は園外で撮ったものである。

@:樹 形       2013.4.23.
斜面の低い位置に生えている。右側に見えるのは「シラキ坂」。

チドリノキ の 位 置

A:全 景           2012.5.8.
                              60番通り   ↑メタセコイア
園の奥から メタセコイア林を見ている。案内表示の左側の木が チドリノキ。 写っていないが、左手前には「コクサギ坂」がある。

2007.4.13            @:幹 の 様子             2013.4.5
細かな皮目があるが、遠目にはなめらか。

冬 芽     2012.2.21.
芽鱗は紅色。この写真では長枝に頂芽らしきものがあるが、普通はイロハモミジなどと同様に 頂芽は発達しないことが多く、先端に近い対生する葉腋の芽(仮頂芽)が伸び出して、次の写真のように二股の枝となる。
芽だし        (2013.4.20).
福島県会津地方なので遅い。 Wikipedia より
赤味を帯びた 一番内側の芽鱗が極端に伸び、低出葉のようになる。

伸び出した雄花序   2013.4.5.
短枝の仮頂芽から伸びた花序。一対(まれに二対)の葉を付け、その中央に長い総状花序を付ける。新しい枝の伸びは1センチ程度。

A:多数の雄花       2011.4.26.
伸び出したほとんどの枝に、花序が付いている。遅い時期なので、長く伸びた赤い芽鱗は落ちてしまっている。

A:総状花序の様子   2012.4.30.

雄花の詳細         2013.4.5.
事典によると 萼と花弁は各4枚、雄しべの数は4〜10本。
写っている雄しべは、6本と7本だった。


雌花の様子          2007.4.15.
高尾山 多摩森林科学園


新葉と枝振り       (2000.5.2).
東大付属 日光植物園も、小石川に較べるとずっと標高が高いために 春は遅い。

展開した若葉       2008.4.29.
葉は対生で カエデ属なのに葉身に切れ込みが無い。この枝は頂芽がそのまま伸びたようだ。               分類表本園

葉脈と鋸歯の様子       2013.4.5.
側脈は葉の先まで到達していて尖る。その間に3〜5個の鋸歯がある。

A:黄葉の様子         2012.12.5.
A:黄葉の様子      2012.12.12.
1週間後には真っ黄色になって 上部はすでに落葉している。

@:黄葉の様子             2008.12.7.
部位によって黄葉の進み具合が違うのは、どの木も同じ。

遅くまで残る枯葉       2013.1.9.
すべてではないが、かなりの量の葉が 枯れても落ちずに残る。
葉が風に吹かれて葉柄が折れても、まだ残っている。

 
チドリノキ の 位 置
@: F13 a 崖下の60番通り右側、メタセコイア林の向かい側
A: F12 c  同 、標識60番
分類標本園 売店側から14列目 左側

名前の由来 チドリノキ Acer carpinifolium

和名 チドリノキ : 千鳥の木
ほとんどの事典には「果実を千鳥が飛ぶさまに見立てたもの」と書かれている。
チドリ とは、世界中に分布するチドリ科 Charadriidae の鳥類の総称であり、チドリ という和名はない。小型の鳥が飛ぶスピードは速く、Wikipediaには チドリの 飛翔中をとらえた よい写真が無い。
ハジロコチドリ チドリノキの果実
Wikipedia より 撮影:春日健二『日本の植物たち』より

それはともかく、チドリノキの「果実」を鳥に喩えたのでは、
 ・ ほかのカエデ科の果実と大差ない。
 ・ 鳥が密集しすぎている
 ・ 長い羽根ばかりで、胴体や 脚がない

筆者の説は「開花中の雌花の様子が 古来 図案化された"千鳥" に似ているため」である。
おなじみのデザインだが、ポイントは 短い羽と ぶら下がる脚。また、密集して飛ぶのではなく、適度に間隔があること。

雌花には 開花時にすでに翼がある。萼や花弁が 胴体で、ふたつに分かれた雌しべが 脚である。      高尾山 多摩森林科学園

種小名 carpinifolium : シデのような葉 の意味 
チドリノキの一番の特徴は、「単葉で葉身に切れ込みがない」こと。いわゆる「カエル手」の葉とは まったく異なる。花や果実を見ないと、カエデ科ということが判らない。

カバノキ科シデ類にはたくさんの種類があり、チドリノキのように細長くない葉もあるが、葉脈が凹んで顕著な筋があるのは共通している。違いは シデ類のは葉は互生だが、カエデ類は対生。イヌシデの葉を例示する。
イヌシデ  2011.5.6.
筑波植物園
 
英語名 hornbeam maple や、次の別名も同じ意味である。

別名 ヤマシバカエデ :
シデ類の和名には「ヤマシデ・ヤマシバ」はない。名称の多くは ○○シデ であるが、シデが転訛したものとして「サワシバ」がある。サワシバは決して湿地に生えるわけではなく、自生地は水分の多い肥沃な斜面ということだ。サワシバも やはりチドリノキと葉の形が似ているので、サワ に対して ヤマ を付けて、ヤマシバのようなカエデ としたもの。
サワシバ  2011.5.7.
筑波植物園
「ヤマシバ 山柴」は、山にある柴、山から採って来た柴そのものなので、ヤマシバカエデを「山柴楓」と解釈することはできない。ヤマシデカエデが転訛したものである。


 旧分類 Acer カエデ属、カエデ科 : 
和名は「かえるで 蛙手」 が短くなって → かえで。 

属名の由来は、ラテン語 Acer には「鋭い、激しい」などの意味があり、やはり葉の形から。 事典には「Acer campestre コブカエデ」のラテン名から、とあるのだが、コブカエデの葉の先端は鋭角ではない。
コブカエデの葉
Wikipedia より
ムクロジ科( APG分類)
これまでの分類は「カエデ科」だったが、APG分類体系での大きな変更点のひとつ。 カエデ科とトチノキ科が「ムクロジ科」に編入された。

花の形態などは頼りにならず、結果を受け入れて頭を切り替えるしかない。
ムクロジの花



植物の分類 : APG II 分類による チドリノキ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
ムクロジ目
以前の分類場所 カエデ科  カエデ属 → カエデ科は ムクロジ科に統合、消滅
ムクロジ科  カエデ属、ムクロジ属、トチノキ属、レイシ属、ランブタン属、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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