ホソバタブ 細葉椨
Machilus japonica Sieb.& Zucc.(1846)
科 名 : クスノキ科 Lauraceae
属 名 : タブノキ属 Machilus Nees (1831)
別 名 : アオガシ 植物園の名札は こちら
中国名 : 長葉潤楠 chang ye run nan
原産地 : 本州 近畿地方以西から 沖縄
朝鮮半島南部、台湾
用 途 :

園の名札は「アオガシ」であるが、この木は カシノキではないために、ホソバタブ とする。その方が実態を表していてわかりやすいが、Yリストは アオガシを採用している。

花や実はタブノキと とてもよく似ている。葉が細いだけでは、変種や栽培品種となることが多いが、ホソバタブは『GRIN』や『Kew』、『IPNI』いずれも、タブノキとは別の種となっている。

自生地ではタブノキと共存するが、数は少ないという。各地の植物園での植栽も少ないようで、小石川以外では見た記憶がない。

小石川植物園には何本もの木があるが、タブノキほどには大きくならない。 10m前後である。

@:常緑広葉樹林の ホソバタブ        2013.1.29.
10番通りと20番通りのあいだ、説明板のあるスズカケノキの少し先で、常緑樹林が始まる所にある。一度倒れかけたようで、生え際は45度も傾いている。高さ 約13.5m。

20番通りをもう少し行ったところに、古い名札で 「ホソバタブ」の和名が付いた木がある。この名札の学名は、タブノキの「品種」となっている。そんな時代もあったのだろう。
   Machilus thunbergii f. stenophylla
stenophylla は、葉が狭い の意味。

A:トイレの横の3本        2012.5.18.
下の段の 奥のトイレ。写真ではトイレの向こう側 塀際に3本が並んでいる。高いもので おおよそ 10m。
青いテープは 拡張予定の塀工事に伴って、枝を剪定されたことを示す。そのせいで、ここでは観察できる下枝が切られてしまった。

A:樹 形        2011.6.3.
道路の外から。中央3本がひと続きになっている。新緑の青さが、別名「アオガシ」の由来である。一番左は 別の樹木。

B:幹の様子

同時枝        2012.4.30.
普通の樹木は まず主となる枝を伸ばし、遅れて側枝(そくし) を出す。ところが ホソバタブ や タブノキは、冬芽の中に何本もの側枝まで用意しておき、一度に成長する。
温帯地方以北の樹木には少なく、亜熱帯や熱帯地方の樹木には普通に見られる。

開花の様子        2012.5.5.

花の構造は タブノキ と同じ
軸の周りに何重にも部品が付く という原始的な構造。
3数性で 外側から、
 ・萼と花弁に分化していない 緑の花被片 6枚
 ・雄しべは3個ずつ4輪。2列目の基部には2個ずつの蜜腺
  4列目は仮雄蘂で 不稔 ▲(ともに カーソルを乗せると表示)
 ・中央に子房があり、白いものが雌しべの柱頭

青い実         2012.7.4.

実の様子         2012.9.11.

落ちた実を乗せて       2011.9.6.
これらの実は、種子がうまくできていなかったようだ。

 
ホソバタブ の 位 置
写真@: B6-7 10番通りと 20番通りのあいだ、ユリノキの右手
B6 10番通り 標識15の少し手前
写真A: F5-6 70番通り 奥のトイレの左側、塀沿いに3本
F6 c 70番通り A と B の中間
写真B: F7 a 70番通り 島池付近の左手、塀の近く
このほかに、雑種と思われる中間型が何本かあり、名札が付いていない。●印

 
名前の由来 ホソバタブ Machilus japonica

和名 ホソバタブ : 葉が細いタブノキ
タブノキ」の由来については、別項目を参照のこと。

以下に タブノキとの違いを示す。

ホソバタブ タブノキ
葉の形
サイズは様々、形に注目。ホソバタブは厚みがやや薄く先が長く尖る。(落ち葉を撮影)
冬芽
小さめで 色が赤い タブノキも 赤くなることはある
この芽は花芽のようで、いっそう大きい
若葉
出始めから緑 前出葉が大きく、赤味がかかる。
葉の縁
ホソバタブは 縁が波打つ タブノキは 厚めで平ら

別名 アオガシ :
特に若葉の色が 鮮やかな緑色で、これを「青」と表現したもの。信号機の「緑:すすめ」を 青と呼ぶのと同じである。
「カシ」は、タブノキ同様に硬い良材を表したものだろう。
「アオタブ」が正確な表現だが、そうはならなかった。
  
種小名 japonica : 日本原産の 
命名は タブノキと同様に シーボルトであるが、両者とも『日本植物誌』には載っていない。ホソバタブも 台湾まで分布している。
 
Machilus タブノキ属 :
タブノキ属のある種の、インド名に由来するといわれているが、確かではないそうだ。

以前には、タブノキなどを 同じクスノキ科の Persea属・アボカド属 とする見解があった。サイズはまるで違うが、丸く緑の実には共通するものが無くはない。
タブノキの実 アボカド

クスノキ科 Lauraceae
クスノキ科の基準になる属は「ゲッケイジュ属 Laurus」である。ラテン語と和名が一致していない。

タブノキ属の 60種、クスノキ属の 50種に対して、ゲッケイジュ属は世界に2種しかないが、地中海に自生するゲッケイジュ Laurus nobilis は、ギリシア・ローマの時代から「勝利・栄誉」の印であったのだから、西洋では代表となるのも当然である。

その名の由来は、ケルト語の「blaur あるいは laur 緑」 ということで、ごくありふれた「常緑」ということが根拠だが、ゲッケイジュの冠を優れた詩人に送って不朽の名声をたたえる、という風習への思い入れがあったようである。

ゲッケイジュクスノキ については 別項を参照。

中国名 長葉潤楠 chang ye run nan :
タブノキ属の中国名は「潤楠 run nan 属」で、ほとんどの種がホソバタブのように「○△潤楠」という名になっている。恐らく果肉(中果皮)の水分が多い「液果」だからだろう。

余談であるが、○△が付かない その代表種が 中国名 「潤楠」 (和名は無い) で、学名は machilus nanmu である。
命名者のダニエル・オリバーはイギリスの植物学者で、キュー植物園標本館の学芸員であった。中国には出かけていないようなので、採取者が名前を聞いた時に、現地の人が 一般名・別名 あるいはクスノキと混同していて、「nan mu 楠木」と答えたのだろう。



植物の分類 : APG II 分類による ホソバタブ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
  クスノキ目  ロウバイ科、モミニア科、クスノキ科、ハスノハギリ科 など
クスノキ科  ニッケイ属、ゲッケイジュ属、ハマビワ属、タブノキ属 など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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