公園の外から撮影したもの。
高い枝から気根がたくさん垂れ下がっている。
ベンガルボダイジュは、低い位置からも枝が横に伸びる性質があるはずだが、この木は普通の樹形をしている。
もしかすると、剪定をして作られた形かもしれない。
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園内へ |
木に近づいていく |

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幹に絡まる気根 |
葉の様子 |
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赤橙色の実 |
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葉の形は卵形で長さ20cmぐらい。。葉脈の数が少ない。
実は葉の付け根(葉腋)に2個づつ対で付いている。
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沖縄のベンガルボダイジュ |
気根が幹と一体に |
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沖縄本島 名護市の西の「熱帯亜熱帯都市緑化植物園」。
街路樹風のこれらの木は、手入れをして作った形であろう。
それでも幹の周りの気根は、根を下ろすと肥大を始めており、他の木にまとわりついて「絞め殺す」本性の片鱗を見せている。
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名前の由来 ベンガルボダイジュ Ficus benghalensis |
ベンガルボダイジュ : ベンガル地方に生える菩提樹
種小名 benghalensis : ベンガル地方の |
ベンガル : |
ベンガルはインドの東端とバングラデシュを含めた、ガンジス川の河口地域の名称である。インドのカルカッタ、バングラデシュのダッカが含まれる。
この木の原産地のひとつを表している。
和名の"ベンガル"は学名に拠ったものである。 |
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ボダイジュ : 菩提樹の由来 |
「菩提」はサンスクリット語のホーディ "bodhi"の音を漢字にしたもので、真理に対する目覚め、すなわち悟りを意味する。
これはサンスクリット語のブッドフ "budh"「目覚める」から作られた言葉で、「目覚めた者」が「ブッダ」である。すなわち、紀元前5世紀頃に悟りを開いたゴータマ・シッダールタは
ゴータマ・ブッダ Buddha と呼ばれるようになった。
その「仏陀」が悟りを開いたのはインド、ブッダガヤの地の「インドボダイジュ」 Ficus religiosa の樹の下であったと言われており、その木を「悟りの木」の意味で bodhi-druma 菩提樹と呼ぶようになった。
「インドボダイジュ」は仏教の三霊樹のひとつである。 |
→ 参考 1 |
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Ficus イチジク属 : 無花果属 |
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クワ科 : Moraceae |
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参 考 1 |
インドボダイジュ(インド菩提樹) : Ficus religiosa Linn. (1753) |
上記 ボダイジュの説明でわかるように、インドボダイジュこそ 単に「ボダイジュ」と呼ぶべき木である。
現に、インドボダイジュの現在の中国名は「菩提樹」となっている。 『園芸植物大事典』
日本には、中国で名付けられたと思われるシナノキ科の「ボダイジュ」が先に伝わり、後になって熱帯植物である「インドボダイジュ」が伝えられたために、時すでに遅し、本家のボダイジュの名を名乗ることができなかった というわけである。
インドボダイジュは、ベンガルボダイジュと同じくクワ科イチジク属の高木で、別名 テンジクボダイジュ。
インドおよび東南アジアに分布する。
日本では、内地は温室、沖縄では露地植えされているが、熱帯地のように気根を下ろしているのものは見たことがない。 |
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インドボダイジュの葉 |
幹(沖縄) |

葉の先が細く長くとがる形が特徴である。 |
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沖縄で地植えされたインドボダイジュ |
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参 考 2 |
ベンガルボダイジュ ←
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ボダイジュ(菩提樹) : Tilia miqueliana Maxim. (1840) |
ベンガルボダイジュの名の元となった「ボダイジュ」は、正確には前記のように、インドや中国で呼ばれている「悟りの木」、和名は「インドボダイジュ」である。
しかし、現在日本で「ボダイジュ」と呼ばれている木は シナノキ科 シナノキ属 の落葉高木で、中国南西部と朝鮮半島が原産であり、ベンガルボダイジュやインドボダイジュとはまったく違う樹木である。
このシナノキ科の樹木が「ボダイジュ」と呼ばれるようになったのは、インドボダイジュの「代用品」というのが真相のようだ。
ブッダの教えはインド全域に広まった後、紀元前3世紀に南のスリランカへ、また西域に伝えられたものが1世紀頃に中国に伝えられた。
恐らく、熱帯・亜熱帯では仏教と一緒にインドボダイジュも「ボダイジュ」として伝えられたものと思う。
先に述べたように、インドボダイジュの中国名は「菩提樹」である。
しかし中国の中でも乾燥、あるいは気温の低い地域では、インドボダイジュは育たない。そこで「葉の形」が似ているシナノキ科の和名「ボダイジュ」が代用され、寺などに植えられた というのがその解説である。
仏教が朝鮮を経由して日本に伝えられたのは6世紀である。
しかし代用品の聖樹「ボダイジュ」の方はずっと遅く、1168年に僧 栄西が中国から持ち帰ったとされている。
そして、「インドボダイジュ」が日本に伝わったのはさらに後、ということになる。
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インドボダイジュの葉 |
ボダイジュの葉 |
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ちょっとは似ているかもしれないが....
今更 けちを付けても しかたがない。
ボダイジュは中国大陸中南部と朝鮮半島に分布する。 |
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つぼみの状態 |
淡黄色の花 |
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花序には傘のように、へら型の包葉が付いている。
花は蜂蜜の蜜源となる。
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幹 |
冬のボダイジュの姿 |
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 小石川植物園 |
冬の青空の中で落葉樹を見上げると、その樹形がくっきりとあらわれて美しい。
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ちなみに、「和名のボダイジュ」の現在の中国名はもちろん「菩提樹」ではなく、「北京椴」である。 『園芸植物大事典』
「椴」の意味のひとつには、ハコヤナギがあげられているが、中国語の「椴」はシナノキのことで、シナノキ科は「椴樹科」である。
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ここでひとつ 疑問が湧く。
栄西が中国から持ち帰った時には、中国でもこの木を「菩提樹」と呼んでいたはずである。
少なくとも中国南西部の仏教関係者にとっては、これが「菩提樹」である。(中国北部には別種 マンシュウボダイジュがある)
すると、いつの時点で中国名を「北京椴」としたのか、という疑問である。 近年になって「正確を期すために」訂正・統一したものなのであろうか?
中国共産党のなせる技 か?
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代用品とはいえ「聖樹 ボダイジュ」であるから、栄西が持ち帰った時に菩提樹以外の名前にすることなど望むべくも無かっただろうが、日本には日本原産の「シナノキ」があったのであるから、もし「ペキンシナノキ」あるいは「シナ(支那)シナノキ」とでも名付けておけば、あとで「インドボダイジュ」を正統な「ボダイジュ」とすることができた....。
しかし 今更、名前を変更することはできない。
すでに知れ渡った名前を無理に変えると、いろいろと不具合が生じる。
学名でも「保留名」がこの考え方で、正式な名前がほかにあることがわかっても、昔の名前を使い続ける というものである。
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トピックス |
仏教の三聖木 |
仏教の開祖ブッダの「生・悟り・死」に関わりのある3つの木、「ムユウジュ」、「インドボダイジュ」、「シャラソウジュ」を 三聖木という。
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・ ムユウジュ 無憂樹 : この木の下で生まれた |
紀元前5世紀(一説に紀元前6世紀)にサーキヤ(Sakiya)族の国王の長男として生まれたゴータマ・シッダールタ、後のブッタ。
伝えによると、懐妊中の母マーヤーが現在のネパール国にあるルンビニーで、この木の花を見て右手でひと枝折ろうとした時に、右脇腹から生まれたという。 |
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ムユウジュ |
ムユウジュ属の一種 |
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名札がなくて種は不明
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もとの名を「アショカジュ」または「アシュカジュ」といい、 asoka はサンスクリット語で「憂いのない」という意味であるところから、無憂樹と漢訳された。 和名はその音読みである。
Saraca indica Linn. (1767)
ジャケツイバラ科ムユウジュ属。原産地はインドからミャンマー。
なお、無憂樹は Saraca asoca W. J. Wilde (1968) だという説も多い。
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・ ボダイジュ 菩提樹(インドボダイジュ) : 悟りを開いた |
当時の風習によって16歳で結婚し、豊かで平穏なくらしをしていたが、29歳の時に一切を捨てて出家する。
激しい苦行を行ったが目的は達せられず、ブッダガヤの「インドボダイジュ」の下に座って思索にふけり、ついに悟りを開いた。
Ficus religiosa Linn. (1753)
本項 菩提樹の由来 参照。
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・ シャラソウジュ 沙羅双樹 : 80歳で入滅した |
悟りを開いたあとの45年間、ブッダはインド各地で教えを説いて廻ったが、ついにクシナガラの郊外で入滅する。
そこには東西南北に2本ずつのシャラ(沙羅樹)が生えていたということから、この木を「沙羅双樹」と呼ぶようになった。
シャラはサンスクリット語のシャーラ salaで、優れた木、堅固な木の意味である。沙羅はその音を漢字に写したもの。
サラソウジュ、シャラノキ などとも呼ばれる。
Shorea robusta Gaertn. f. (1805)
フタバガキ科 シャラソウジュ属
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シャラソウジュ |
幹 |
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15cm程の幹だが、割れ肌となっている。
新宿御苑 温室
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下から見上げた葉 |
葉のアップ |
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なお、日本で一般に「シャラノキ」と呼んで寺院に植えられているものは、ツバキ科の「ナツツバキ」であり、これまた シャラソウジュ とは全くの別物である。
温帯地域ではインド原産のシャラソウジュが育たないため、ボダイジュの時と同じように、代用品としてナツツバキが選ばれたのかも知れないが、外見上の共通点は見あたらない。 |
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ナツツバキ |
はげ落ちる幹 |
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参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
園芸植物大事典/小学館、
週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
スーパーニッポニカ/小学館、
漢和中辞典/角川書店 |
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